【朧】の複雑な事情
「とにかく、ライゾウ殿がいらっしゃる、ということですね。問題ありませんので、それについてはお気になさらず。それよりも〈西園国〉の方が気になります……」
「そうでござるな……」
リョーガが行成の言葉に同意して頷く。
【神龍国朧】に住まう者ならば通じ合う常識のようなものがあるようだ。
「〈西園国〉は金山銀山を多数有しており、奸計を巡らせることで有名ですからなぁ……」
「卑怯な手も使うでござるし、だからこそ父とライゾウ殿は、付いては行けぬと独立したでござるよ」
「ん……? もしかして〈御豪泊〉って元々〈西園国〉の一部だったの?」
驚いたコリンが尋ねると、リョーガは頷いて答える。
「そうでござる。領土で言えば全体の五分の一程度。しかしそれこそ金山銀山鉄鉱山を有する、【神龍国朧】でも有数の豊かな島でござるよ。だからこそ独立を保つことができているところもあるでござる」
「……そりゃあ、卑怯な手を使ってでも取り返したいんじゃないかなぁ」
イーストンが思わず当たり前の意見を述べると、リョーガも同じことを思っているのか黙り込む。大望があったとはいえ、仕掛けたのは〈御豪泊〉からだ。
「そもそも……、主家筋は土岐家の方であったはずですしなぁ」
「く、詳しいでござるな……」
茂木が鬚をさすりながら呟くと、リョーガがぐっと言葉に詰まる。
土岐家と言うと、リョーガの家名だ。
「……〈御豪泊〉はライゾウ殿の志によって建てられた国でござる。父である桜牙はその志に感化され、代々〈西園国〉の家老である家を捨て、ライゾウ殿の右腕となったでござるよ。つまり……、〈西園国〉からすれば、土岐家こそ、もっとも憎むべき裏切り者でござる。だからこそ拙者は、あの場で見つかるわけにはいかなかったでござるよ。話がややこしいので説明は省いたでござるが……」
「まぁしかし、さらに三百年ほどさかのぼると、元々は西園家こそが、土岐家の家老であったのを、謀反を起こして土岐本家を滅ぼしたという経緯もあるはず。その時に西園家の味方をした分家の土岐家が今の本流と考えれば、ある意味西園家こそが裏切り者であるなぁ」
ややこしいリョーガの話を、知恵袋である茂木がさらにややこしくしていく。
もうこうなると関係はごちゃごちゃだ。
誰が良いとか悪いとかの話も逆転してきてしまうが、その辺りをいちいち気にしても意味がないように思えてきてしまう。まさに戦国乱世で、誰を信じて誰を警戒すべきなのか、さっぱりわからないような状況だ。
「つまりその……、恨みつらみや因縁が山ほどあって、すごく大変、ということですね……?」
ハルカは、そろそろ家系図を持ち出さねば訳が分からなくなりそうな関係性を理解することを諦め、さっぱりと一言にまとめる。
茂木もリョーガもそれで納得しているので、そういうことで良いのだろう。
そうでないと、アルベルトもレジーナもタゴスも、すっかり自分には関係ないみたいな顔をして別のことを考え始めてしまっている。
「万事がこんな感じなのだ……」
エニシが深くため息をついて呟いた。
「我が関わる大名たちの多くは、自分や自らの家の繁栄を望んでいた。あっちの話もこっちの話も聞くと、誰が正しくて誰が間違っているかもわからぬようになる。もはやそういった関係の一切を一度忘れ、無かったことにせねばならんのだ。何かあるたびに過去の遺恨に引きずられていては、永遠に平和など訪れまい」
「今聞いただけでもややこしいです」
モンタナがじっと部屋と廊下を仕切るふすまの、ある一点を見つめながら呟く。
「そうなのだ……」
エニシがそちらを向いて返事をしたところで、モンタナは自身の唇に指を立てて静かに立ち上がり、そのまま見つめていた方へ向かって音もなく歩き出す。
合わせてリョーガもそっと立ち上がって、ぬらりと刀を抜き、その後についていく。
「やっぱりたくさん戦をしているから、それぞれの主張ってものがあるものだよね」
イーストンが二人を見ながら話をわざと続けていると、ふすまの前までたどり着いたモンタナが、突然腕を伸ばしてふすまを突き破った。
「あっ!」
それと同時にリョーガが反対側のふすまを開け放ち、モンタナが捕まえている人物に向けて刀を突きつけた。
「ただの女中、でござるか?」
「こちらには近づいてこないよう伝えてあります」
リョーガが首をかしげると、行成が首を振ってそれを否定する。
「何か探ろうとしてたです」
「この島に住む女が、客人の言いつけを破るとは珍しいことだ」
モンタナがふすまから手を引き抜いて、両手をぱんぱんと払いながら言うと、茂木も難しい顔をして呟く。
「いつからいましたか……?」
「ちょうど今来たとこです。でも、様子を窺ってるからおかしいと思ったですよ」
「まだハルカが楽しみにしているご飯の時間でもないしねー?」
ぞろぞろとハルカたちが近寄っていけば、刀を突きつけられている女は顔を真っ青にして震えはじめてしまう。
ただ、どんなに怯えようが震えようが、どうぞこのままお帰り下さい、とするわけにはいかなかった。
いろいろご意見ありがとうございます。
いったんいつも通りに戻しました……!





