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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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ある意味一本気

「す、すまぬ……。この場にいることをばれぬために染めているだけなのだが……」


 ライゾウの謎の嘆きに、思わずエニシが少し身を引きながら言い訳じみたことを漏らす。

 するとライゾウは、地面を拳でダンと叩いた。


「良かったぜ……、てっきり大陸に行くと髪の色が変わっちまうのかと……! やっぱりエニシ様は黒髪に限る……!!」

「エニシ殿、申し訳ござらん。ライゾウ殿の首を切って拙者も腹を切るでござる……」


 リョーガが据わった目つきでぬっと刀を抜いたのを、ハルカが慌てて押さえ、エニシも「大丈夫だ、気にしておらぬ!」と止めに入る。


「リョーガさんのお父さんもこんな感じ……?」

「父はもう少しましでござる……。感情を表に出さぬ静かなタイプでござるから……」

「そっか、良かったね、お父さんがこんな感じじゃなくて」

「恥ずかしいでござる……」


 コリンのフォローは優しさのようにも見えるが、別の角度から見れば、『お父さんだったら憤死してても仕方がないね』という意味でもある。

 リョーガは本当に悲しそうな顔で恥じ入るばかりだ。

 連れの二人の侍もどこか遠くを見つめ、ライゾウの方を見ないようにしている。


「崇拝すべきものを崇拝して何が悪いってんだ」


 ようやく顔を上げたライゾウが、悪びれもなくそう云い放つ。

 周りにいる身内の表情を見て良く反省してほしいところであるが、そんな性格をしたならばとっくにまともになっているはずだ。不治の病である。


「しかしまぁ、そうなると色々と話が違ってくるぜ……。何か俺たちに手伝えることはないですかね、エニシ様。俺は何だってやるぜ」


 やばい奴から発せられた言葉だからこそ、その『何だってやる』に本当にやるのだろうという凄味がある。


「……本当に力を貸してくれるのか? 我は一度は逃げ出したのだぞ。此度も我を逃がしてくれた仲間たちを助けに来ただけで、以前のような大きな口は叩けぬ」

「当たり前でしょうよ。俺はそのためだけに生きてきたんだ。毎日のようにどこかで戦があって、毎日のように力のねぇ者たちが死んでいく。俺たちはなんかおかしいんじゃねぇかって思いながら、そんなことを口にすることもせずに生きていた。それが当たり前だった」


 話しながらライゾウは地べたに胡坐をかく。

 眉間にはぎゅっと皺が寄せられ、先ほどまでの情けない姿とは一変、武人らしい引き締まった顔つきに変わる。


「俺は〈神龍島〉の巫女っていやぁ、運命に翻弄された儚い存在とばかり思っていた。俺たちみてぇな世俗のことなんてどうだっていい、浮世離れした存在だとばかり思っていた。それがどうだ。戦とは無縁の場所にいるはずなのに、立派に世を憂いてやがる。一瞬は何も知らねぇ癖にと思ったさ。しかしエニシ様はその身を危険にさらしてまで協力者を求めた。なるほど、今までとは違って多くの民と顔を合わせるようになったのはそれが理由だったかと理解した」


 それはきっと、エニシに直接伝えずにずっと仲間内で燃やし続けてきた思いだったのだろう。

 エニシに対する異様な執着はともかく、ライゾウと共に歩む侍や領民たちは、いつか戦のない国を作るという理想を掲げている。それのおおもとにあるのが、ライゾウが気持ち悪いくらいに信奉しているエニシであると知っている。


「巫女総代と言えど、俺たちと同じくらいの年の娘がだぜ。がんじがらめに規則に縛られたエニシ様がだぜ。それと比べて俺たちはどうだ。疑問を口にもせずに馬鹿みてぇに言われるがままに人を殺していた。いくつ首を取っただ、いくつ村を焼いただを競ってた。自由に考えて、自由に動ける俺たちがだ。恥じ入ったさ。これ以上の恥はこの世にねぇと思った。だから俺はエニシ様に会った時に頼りにしてもらえるくらいには、恥ずかしくねぇ男になろうと思ったのさ。エニシ様が逃げなきゃならなかったんだとすれば、恥じ入るべきはその時に力の足りなかった俺だ」


 ライゾウは胸をドンと叩いて、それから自分の太ももを両手でぱん、と叩き、気合いを入れてエニシを睨みつけるようにして続ける。


「生きていてくださってありがとう。だからそんな悲しまずに胸を張ってくれ。堂々と、『いつかこの国から戦を無くしたい』と言ってくれ。俺はそれに命をかけられる」


 ライゾウは無茶苦茶な男だ。

 そしてきっと気持ち悪い男なのだろう。

 それでも人がついてくるのは、一本筋の通ったいい男であるからだ。

 人によっては押しつけがましいと思えるような主張であるが、それはエニシにとっては何よりの応援であった。


「待っていてくれてありがとう……。だがしかし、命までも懸けんでくれ。いつかきっとこの国が平和になった時、ともに喜ぶ者が欲しいのだ」


 そう言ってエニシが目元を拭った瞬間、ライゾウが額を地面に思いきりたたきつけて苦しみ始めた。


「ら、ライゾウ殿!?」


 エニシが慌てて声を上げて駆け寄ろうとするが、このパターンをなんとなく把握したコリンが手を前に出して制止する。


「……くぅうう、エニシ様、やっぱ最高じゃねぇか……!」


 僅かに顔を上げたライゾウの額からは血がどくどくと流れていたが、その表情は喜悦に歪んでいるようであった。

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― 新着の感想 ―
……………………。
気持ち悪くてかっこいいやつ… でもエニシちゃんへの気持ちわかるわかるよ
限界オタク……
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