ライゾウはどっちだ
「ライゾウ殿、見苦しい真似はやめるでござるよ」
「流石に見たくねぇ」
「拙者からもお頼み申す」
侍三人からきわめて本気の拒絶をされて、流石のライゾウも戸惑った様子を見せる。
「いやいや、考えてもみろって。もしもエニシ様が生きてりゃあいろんなことが変わるぜ。いや、でも本物だとしたら、こんな時に会いたくねぇな。今戦いに負けたばかりだぜ、俺……。そう思ったら急に恥ずかしくなってきたな」
今度はそわそわと青い若者のようなことを言い出した。
「きめぇ」
侍三人が呆れかえって声も出せなくなったところで、その胸の内を代弁してくれたのは、心底どうでも良さそうな顔をしているレジーナであった。
ライゾウとエニシは大体同じくらいの年齢。
そしてライゾウはエニシの言葉に感銘を受けて、そこから一国を立ち上げたほどの大馬鹿者だ。
気持ちは十分に分かるのだが、四十にもなったおっさんがもじもじしているのは、傍から見るとどうにも情けなく、見るに堪えない。
「あのー、ライゾウさんってそんなにエニシって人のこと好きなんですかー」
「おっ、良いこと言うじゃねぇか。エニシ様ってのはな、数年前までここ〈神龍島〉の主をしていた巫女総代の方でな。俺もな、もっとずっと若い時に、リョーガの爺さんに連れられて、遠くからちょろっとそのお顔を拝見したことがある。黒髪で清楚で、そりゃあお美しくお可愛らしくてなぁ。武力のない巫女の身でありながら【神龍国朧】の未来を憂いて、少しずつ世を変えようと努力されていらしたんだ」
「早口ぃ……」
一気に情報を流し込まれて、質問をしたコリンは笑いながら空を見上げた。
そうしている間にもライゾウの話は続く。
「俺とオウガはその時誓ったんだよ。いつか必ずやこの方のための力になるってな。そっから国取りをして、これからってときに、エニシ様がよく分からねぇ反乱で命を落とされたと聞いてよぉ。俺たちは三日三晩泣いて過ごしたもんよ……。俺は乱暴者でよぉ、オウガも腹黒の軍略家だ。でもよぉ、エニシ様が思い描いた未来に向けて生きてる間は、きっと正しいことしてるんじゃねぇかって思えたんだよな。俺たちの希望だったんだよ。くそ、泣けてきた、畜生め……」
元気に喋っていたはずなのに、ライゾウは急に口元を押さえ、ずびっと鼻を啜って天を仰いだ。
単純で思い込みの激しい男なのだろう。
本当に目尻に涙があふれてきている。
「……思ったより純粋だったでござる……」
「拙者も、正直そういうのは言い訳で、ただエニシ様の見た目が好きなんだと思ってた……」
「でもどっちにしろ、ちょっとあれでござるな……」
侍たちは自分たちの主が涙を流す中、好き勝手酷いことを言っている。
侍たちの気持ちは分からなくもないが、ライゾウの話を真面目に聞いていたハルカは、そっちにもちょっと気持ちが入ってしまってしんみりとした気持ちになった。
そりゃあそれだけ慕っていた人が自分の知らぬところで命を落としたと知れば、悲しいだろうし、多少自暴自棄になるだろう。
そんなことまで考えたところで、いや、エニシは生きているし、今自分の後ろにいるのだということを思い出す。
そうなるとがぜん、このまま隠しておいてもいいのかなという気持ちになってきてしまった。
ちなみに、ハルカに近い感性を持っているカーミラもやや動揺し始めていたし、当然その後ろに隠れているエニシも、「うっ、くぅ」と小さく声を漏らしながら、ライゾウと同じように鼻を啜っていた。
三人そろってちょっと素直すぎる。
「……どうするです」
ぽそり、とモンタナがエニシに尋ねた。
すぐに答えが返ってこないので、一応追加で情報も出してやる。
「ライゾウさん、あんなですけど、話してた気持ちはホントです」
「こ、ここで顔を出しては……、作戦の妨げにならぬか?」
「自分で決めるですよ」
なるかもしれないしならないかもしれない。
でもこの作戦はエニシの気持ちを最優先する形で始まったものだ。
だったら、今どうするかもエニシが決めるべきなのだろう。
「周囲には……、他に何もいないです」
エニシは乱暴に袖で目元を拭ってから、カーミラの後ろから姿を現して、ハルカの横まで歩いていった。どうしようかと悩んでいたハルカは、エニシが出てくる判断をしたことに少しだけほっとする。
「ライゾウ殿、我が何もできぬ間も慕ってくれたこと、ただ感謝することしかできぬ。此度のことだけで、目的を達することはできぬだろう。しかしいつかきっと、期待に応えてみせよう。都合の良いことばかり申すようだが、その時はどうか、改めて力を貸してもらえぬだろうか……?」
「……くっ、あっ、ぐぅうう」
顔を隠したままライゾウと対峙するエニシ。
その姿を見て、言葉を聞いたライゾウは、何やら苦しみだしたかと思うと、そのまま地面に膝をついて額を地面にこすりつけた。
「ライゾウ殿!?」
侍たちは慌てたが、ライゾウはそのまま動かなかった。
「もちろん、もちろんだ……。でも、でも、なんで髪の色が黒じゃねぇんだ……」
一行はその一言で、この男がどんな理由で頭を下げているのかがさっぱりわからなくなる。
ただの忠臣なのか、それともただの強火のファンなのか。
皆が固唾をのんでその光景を見守るのであった。
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