ひりつく報告会
「ふぅん」
リザードマンについて詳しくないのか、ユエルからは興味があるようなないような微妙な反応が返ってきた。
一生懸命に説明した割に、成果があったかは微妙なところである。
「しばらく穏やかに交流を続けていたのですが、あの、ご存じか分かりませんが、悪い吸血鬼が〈混沌領〉に逃げ出してきた、ということがあったんです」
「あれだろ、【エトニア王国】の」
旅をして歩いているおかげか、クダンは全国の情報にも詳しいようだ。
拙い説明でも情報がつながったらしい。
「あ、それです。それを退治するために、カナさんがいらっしゃったので、協力して遠征をすることになりました。退治は成功したのですが、吸血鬼は〈混沌領〉の東端にある〈ノーマーシー〉という街に住んでいまして、そこにコボルトがたくさん暮らしていたんですね」
「コボルトってあの、ちょこちょこ動き回って逃げてくやつな」
「臆病なんですが、勤勉な種族です。お二人はコボルトの知り合いは……?」
「いねぇ」
「いない」
「あ、そうですか」
ハルカはそれについてはなんとなく理解できる。
出会う機会があっても、多分普通に怖がって近付いていかないのだろう。
「父ちゃん、コボルトはかわいいんだよ。コロコロしてて、撫でると喜ぶ」
「そうかよ。動物は俺にあまり近付いてこねぇから仕方ねぇな」
ノーレンのフォローもクダンの方はどこ吹く風だ。
「ふぅん、見に行こうかしら」
ただし、ユエルには刺さったらしい。
ハルカからすると、できれば刺さらないでほしかったけど、これはもう仕方のないことであった。
「あ、もしその時があったら、事前に教えていただけると安全にご案内できるかと……」
「安全って?」
安全というのは安全である。
ハルカは主にユエルの安全ではなく、〈混沌領〉に暮らしている国民たちの方の心配をしている。
「あ、そのー……、紆余曲折ありまして、〈混沌領〉に暮らしている様々な種族と交流ができまして、ほぼ全域に知り合いがいる状態でして……。すれ違いがあって戦いになっては困るな、と」
「どういうことだよ」
すごんでいないのだろうけれど、すごんでいるように聞こえるクダンの問いかけに、ハルカは再び背筋をピンと伸ばす。話をしている間ずっと正座だ。足のしびれがないことだけが幸いである。
「あの、平和的交流をしていまして……、お互いに争うのはやめようという協定を結んで、その、結ぶ都合上、一部私が王様になっている地域があったりします」
「一部?」
「具体的にはその……、南の方全体というか……。えーと……、とにかくですね、コボルト、人魚、リザードマン、ケンタウロス、巨人、アラクネ、ハーピー、花人、樹人、ガルーダ、それにラミアと、ラミアの遺跡に暮らしている一人の吸血鬼……、と、一応不戦状態と考えていただければ……」
指折り数えるハルカを眺めていたクダンは、最終的に噴き出して笑いだした。
「お前、それあれだろ、お前が〈混沌領〉の王ってことだろ? 何やってんだマジで、断れよ。何でもホイホイ引き受けるからそんなことになんだろうが、馬鹿だなお前」
言葉は厳しいが、笑いながら言っているから怒っているようには見えない。
「仰る通りで……。しかしその、コボルトたちが心配で引き受けたのが始まりでして……」
なんだかんだすっかり情も湧いているし、皆が平和で穏やかに暮らしてほしいという気持ちもある。クダンが笑ってくれたおかげで、ハルカも苦笑しながらも軽い気持ちで返事をすることができた。
しかしハルカはそこでぴたりと動きを止めた。
静かで、しかしぞわりと肌が粟立つような雰囲気。
急に周囲の温度が下がったような、気味の悪さ。
「笑い事じゃねぇぞ」
クダンの目が笑っていなかった。
「意地悪」
そして直後ユエルの手元から魔法が放たれてクダンの耳をかすめて飛んでいく。
直撃コースだったのをシンプルにクダンが首を傾けて回避した形だ。
「何すんだてめぇ!」
「お節介」
「こいつトボケてんだから、誰か言っといたほうが良いだろうが!」
「ハルカちゃんをいじめるな」
膝の上に手を置いたまま固まっていたハルカは、しばし何が起こったか分からなかったが、どうやらクダンが殺気を放ち、ユエルに庇われたらしいと遅れて理解した。
「またお前、顔の良い奴贔屓しやがって……」
「顔だけじゃない、性格もちょっと可愛い」
「知るかボケ、あー、ったくよ……」
「あ、あの……」
ハルカが声を発したことで、クダンが片方の眉を上げて、ハルカの方を向いた。
先ほどのようなピリピリとした雰囲気はもうない。
「お、なんだよ」
「自分が何をしているかは分かっているつもりです。人族と戦いになることがないよう全力で努めますし、万が一〈混沌領〉の破壊者たちが、人族を侵略するような行動をした場合、私が全力で止めます。ですから、どうか、そのまま見守っていただくことは叶いませんか」
緊張しながらも自分の意見を述べたハルカを見て、クダンは「あー……」と声を出しながら考える素振りをしてから答えた。
「好きにしろよ。面倒なことが多いだろうから、覚悟できてんのか見ようとしただけだ。そういやお前、ノクトの弟子だったな。ちゃんと育ててんだな、あいつ」
「余計なお世話」
「うるせぇよ」
クダンが前にハルカと会ったのはさかのぼれば随分と昔のことだ。
その時の印象から、ハルカの頼りなさを心配していて、試しに脅しをかけてみたのだったが、そのはっきりとした物言いから、どうやら杞憂であったとクダンも気が付いた。
「悪かったな」
「いえ、その、ご心配おかけして申し訳ございません。私が頼りないから……」
クダンが胡坐をかいたまま軽く頭を下げる。
なんとこの男、見た目によらず謝罪もきちんとするらしい。
「いや、俺が勝手にそう思ってただけだ。俺が悪い」
「ばーか」
「だからお前はうるせぇんだよ、ぶった切るぞ!」
ただし、挑発はきちんときくようで、ユエルに煽られて普通に怒りだした。
こうやってどこかで本当に喧嘩になる時があるのだろう。
仲は良いのだ、多分。
「あの……、お話しがもう少しばかりあるのですが……」
「あ? まだなんかあるのかよ?」
ここまで話したらあとは、【神龍国朧】の話だけだ。
全部話してすっきりしてしまおう、と、ハルカは勇気を出して続きを話すことにするのであった。
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