特級冒険者達
見えてきた人影は三つ。
一つはタゴスで、もう二つが来客のようだ。
大剣を背負った長身男性と、大鎚を背負った少女。
見覚えのある二つのシルエットの正体は、トゥホーク親子であった。
「クダン」
名前だけ呼んで半端に手を挙げたのは、ユエルなりの挨拶なのだろう。
まだだいぶ遠くにいるにもかかわらずそれが聞こえたのか、クダンがハルカたちの方を向いて、ちゃんと聞こえるように大きな声で問いかけてくる。
「お、ユエルじゃねぇか。何でここにいるんだ?」
「ノーレンがいるって聞いて」
「あ? 聞こえねぇよ、大きな声出せって」
遠くにいるのにいつも同じ声で話すユエルに、クダンが顔をしかめて文句を言った。
しかしユエルは気にした様子もなくすたすたと近づきながら話を続ける。
「ノーレン、元気?」
「だから聞こえねぇって!」
「どこに行ったかわからないって聞いて……」
「あの、ユエルさん、多分聞こえてない……」
ハルカがそう言っている途中にユエルの姿が消え、ノーレンの目の前に出現していた。
「うわわ、びっくりした!」
「心配してた」
「あ、そ、そうなんだ、そっか! それはありがとだね!」
「お前、普通に話せねぇのか」
二人が会話をしている途中にクダンがユエルの頭を小突くと、ユエルはゆっくりとクダンの方を向いてから、無言でよく分からないエネルギーの塊のような魔法を放つ。
なんとなくハルカには、竜のブレスに近いような魔法に見えた。
クダンは当たり前のように少しばかり首をかしげて避けて、額に青筋を立てる。
「てめぇ、いきなり魔法撃つなっていつも言ってんだろうが……」
「クダンが先に叩いた」
「叩いてねぇよ、てめぇがちゃんと返事しねぇから文句言っただけだろうが」
「叩いた」
ユエルが小突かれた場所を撫でながら文句を言うと、ノーレンが慌てた様子でユエルが押さえている頭の辺りに手を伸ばして撫で始める。
「そうだね! 父ちゃんが叩いた! 女性には優しくしないと駄目だよね!」
「こいつが女性ってがらかよ」
クダンが不満そうにしながらもユエル本人に文句を言うのをやめたのは、これ以上ことを大きくしないためだろう。
おそらくノーレンもそれをわかっていてユエルの味方をしている。
それにしてもあまりにも予備動作がなく、威力の高そうな魔法であった。
二人は当たり前のような対応をしているが、見ていたハルカの方がドキドキしてしまったくらいだ。もちろん悪い意味で。
「あ、ええと……、お久しぶりです、クダンさん」
「おお、久しぶり。悪いな、ノーレンの世話してもらったみたいで」
「あ、いえ、お困りのようだったので……」
「いえじゃねぇだろ、困ってるところ助けてもらったんだから。相変わらず変な奴だな」
「ええと……、クダンさんにもお世話になっていますし」
「そういうことにしておくか」
クダンはふっと笑って、話を切り上げる。
目つきは死ぬほど悪いし、口調も荒いし、場合によっては手が出るのも多分早いのだけれど、仲良くしている分には頼りになる大人、というのがハルカのクダンに対する印象である。
「それで、今日は何かご用事でしたか?」
「ああ、礼を言いに来たんだよ。そんなことよりこいつなんでお前のとこにいるんだ?」
クダンはノーレンに撫でられつつ、ノーレンを撫でているユエルを指さす。
ノーレンは完全に困った顔をしているが、ユエルは満足そうだ。
「森を歩いていたら出会いまして……。ノーレンさんがこの辺りにいるらしいと聞いて探していたみたいです」
「そうかよ、ならいいか。何日か邪魔してもいいか?」
「あ、もちろんです。アルたちも喜ぶと思います」
「あいつら、あれから強くなったか?」
クダンがにやりと好戦的な笑みを浮かべた。
本来ならば恐ろしく感じてもおかしくないところだが、信用した相手にはあまりそういう感情を抱かないハルカは、愛想よくにっこりと笑って答える。
「はい、強くなってます」
「そりゃあいい、ちょっと見てやるか」
クダンがそう言って勝手に拠点の方へ歩き出すと、ノーレンが慌ててついていく。
「ちょ、ちょっと待ってよ父ちゃん、僕も行く!」
「うんうん」
ノーレンが後に続くと、その背後にノーレンの頭をわしゃわしゃとかき回しながらユエルがぴったりとついていく。
おそらくあれはあれで可愛がっているのだろう。
ノーレンが喜んでいるかは別として。
「……クダンって、あのクダンだよな?」
呆然と見送ったタゴスが、その場に残っていたハルカに声を震わせながら問いかける。
「あ、はい、そうですね」
「俺も手合わせしてもらえると思うか?」
「大丈夫だと思いますよ、割とそういうの見てくれる方なので」
「よっしゃ……!」
大の大人が目を輝かせて握った拳を震わせながらガッツポーズをした。
「今日は小屋空けてもいいよな?」
「あ、別にいつでもご自由に空けてもらっていいですよ……?」
「よぅし、楽しみだぜ。俺の斧がどこまで通用するか……!」
門番をしてもらっているとはいっても、別に常にいてくれと言っているわけではないのだ。
自由に出かけてもらっていいし、何なら建物がいっぱいある中心部の方に越してくればいいのにと思っているが、本人がこの場所を気に入って居座っている、というのがハルカの認識だ。
ちょっとちゃんとお話をした方がいいかなと思うハルカだが、今のタゴスは興奮していて話を聞きそうにない。
また今度でいいかと思いつつ、ハルカはタゴスを連れて、クダンたちの背中を追いかけることにしたのであった。





