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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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恐る恐る

「そうね、久しぶり。名前、何だったかしら?」

「あ、ハルカです。ハルカ=ヤマギシと言います」

「そう。ハルカちゃんはここで何をしてるの」


 妙な呼び方をされてハルカは一瞬変な顔になったが、訂正をして『なら悪い人ね』とか言われてはたまらないと思い、普通に返事をすることにした。


「私、この辺りに住んでいるんです。森の少し先に行ったところに拠点を持っていまして……」

「拠点? 宿クランに所属してるの?」

「はい。【竜の庭】という宿です。以前ユエルさんとお会いした時に一緒にいた仲間たちと作りました」

「ふーん? 吸血鬼の子も一緒に?」

「あ、彼女は冒険者ではないので」

「そうよね、だってあの時戦力ではないと言っていたものね。冒険者だったら戦力の一人だもの」

「……あ、そうですね、はい。カーミラは戦いがあまり好きじゃないので……」


 独り言のように呟くユエルの台詞に、ハルカはいちいちドキドキしてしまう。

 これでもしカーミラが冒険者になっていたら、あの時嘘を吐いていたのねとか言って戦闘に突入していてもおかしくない。

 それだけユエルという特級冒険者の魔法使いは、訳の分からない存在なのだ。


「……どうしたの? 調子でも悪いのかしら?」

「あ、いえ、いたって普通です」

「そう? 元気がなさそうに見えたから」


 元気がないのはあなたと出遭ったせいです、とも言えない。

 正しくは変なことを言わないように緊張しているだけだ。


「あの吸血鬼の子、怒ってなかった?」

「はい? なぜですか?」

「ほら、戦いに巻き込んだじゃない。悪いことしたと思っていたの」

「あー……、怒ってはいなかったと思います」

「怒っては?」

「……あ、はい」


 言葉尻を捉えられてしまった。

 怒ってはいなかったけど、怖がっていた。

 言葉選び大失敗である。


「怒ってはいないけど?」

「あ、いえ、すみません」

「何が?」

「いえ、カーミラは怒ってなかったです」


 ユエルは黙り込んでから、こてんと首をかしげる。

 そしてまた口を開いた。


「怒って、は?」

「いなかったですけど……、ちょっと怖がってました……」

「そう……」


 勇気を振り絞って伝えるハルカ。

 それでユエルが妙な行動を起こせば、カーミラをちゃんと守ってやらねばという悲壮な覚悟をした上での答えだったが、ユエルの反応は意外だった。

 目を伏せて、少し残念そうに一言呟いただけだ。

 なんだか悲しんでいるようにも見える。


「……あの、どうしましたか?」

「美人に怖がられるのはあまり本意ではないわ」

「……あ、そうなんですか」

「そうね、少し悲しい」


 意外と俗なところもあるようだ。

 そう言えば巻き込んだ後に、ちゃんと謝った上に機嫌を取るためのお詫びの品まで渡していたのを思い出す。それを思い出したところで、やっぱり何を考えているのか分かり難いことには変わりないのだけれど。


「ええっと……、ユエルさんこそ、こんなところで何を……?」

「知り合いがこの辺りの街にいるって聞いてきたの」

「知り合いですか? お友達、でしょうか?」

「そうね。……ああ、ハルカちゃんはクダンを知っているのよね? その娘のノーレンって子が〈オランズ〉の街にいるらしいって〈プレイヌ〉で聞いたの」


 まさか出会って喧嘩になったとかではないだろうなと突然不安になる。

 流石のノーレンでもユエルと戦ったら結果がどうなるかは分からない。

 こんなにのんびりと喋っているけれど、実はこのユエルは国際指名手配犯なのだ。

 冒険者ならば戦っていてもおかしくない。


「……仲は良いのですか?」


 不安を隠して尋ねてみると、ユエルはこくりと首を縦に振った。

 ハルカはほっと胸を撫で下ろす。

 このエルフと話をしていると、いちいち心臓に悪い。


「幼いころから知っているから、大きくなったかなと思って」


 本当にただ、近所に住んでいるお姉さんのような気持ちでやって来たらしい。

 そんな気持ちで国際指名手配をされながら、魔物や賊が闊歩する世界をうろうろする人など、この世界には他にいないけれど。


「実は数日前から依頼に出て、まだ帰っていないようです」

「ふーん、そうなの。じゃあしばらく待っていようかしら」


 ふいっとユエルが街がある方角を見たので、そのまま街にでも向かうのかなと見守っていると、ユエルはスムーズにハルカの方に視線を戻して、ごくごく何でもないことを言うかのように呟く。


「あなたたちの拠点で」

「え」

「嫌?」

「あ、いえ、あの、ノーレンは私たちの拠点ではなく、街に帰ってきますよ……?」

「でも知り合いなんでしょう?」

「それは、はい、そうです」

「私、指名手配されてるのよね。街に入ると、たまに問題が起こるの」

「あ、そうですよね……」

「駄目かしら?」


 表情のない顔でじっと見つめられると、じわじわと責められているような気持ちになってくる。どう考えても国際指名手配犯を匿うなんてとても良くないのだが、それはそれとしてユエルは特級冒険者でもある。

 立場がすごく微妙なのだ。

 あと断るとなんか怖い。


「その……、問題とか起こさないでいただけるのなら……」

「起こさないわ」

「あと、問題が起こったら、できるだけご自身で解決していただけるのであれば……」

「そうね。世話になる人には迷惑をかけないって決めてるの」

「じゃあ、えっと……、とりあえずノーレンさんが戻ってくるまで、ってことですよね?」

「そうね」


 ハルカは最後に一つだけ確認をする。


「例えば、その……、カーミラは吸血鬼ですけど、一緒にいても別にいいのですよね?」

「そうね」

「ということは、その……、別に破壊者ルインズだから悪い人ってことにはなりませんよね?」

「破壊者?」


 ユエルはまた首をかしげる。

 緊張の瞬間である。


「破壊者にも美人やかわいい子はいるわ」


 やっぱりユエルはかなり感覚がずれているようであった。

 ただ、ここさえしっかり押さえておければいったん問題はない。

 

「それじゃあ、ええっと……、ご案内しますね?」

「ええ、お願い」


 ぎくしゃくとしながらも、ハルカは空を見上げて方角を確認し、拠点の方へと歩き出した。

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― 新着の感想 ―
ドライアドやラミアに会わせちゃいけないヤツかな?
できるだけご自身で…www ちゃんと言えるようになってきててえらいなあw
思想や価値観が分からない人は怖いなあ
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