新年の集い
紆余曲折あって、ハルカはコリンやエニシと一緒に風呂に入った。
風呂に入りはしたのだが、二人の肌は見ていない。
どういうことかといえば、至極単純な話で、先に風呂に入って、障壁で仕切りを作っただけである。
一緒に風呂に入っていることは確かであるし、湯船に入りながらお話もできる。
コリンは複雑な表情で「誰の入れ知恵だろう……?」と独り言をつぶやきつつ首をかしげていたが、これはモンタナの入れ知恵である。
ハルカが焼きおにぎりを作っていたところ、匂いにつられて不思議そうな顔でモンタナがやって来たので、おすそ分けついでにコリンとの話をしたのだ。
モンタナは焼きおにぎりを分けてもらい、河原で並んで食べながらぽそりと一言、風呂の中に間仕切りを作ることを提案したのである。
もしかすると、モンタナのことであるから、コリンの僅かな邪心のようなものを感じ取ったのかもしれない。
そんな日常の話はさておき、年も明けたからということで、わざわざ〈黄昏の森〉を抜けてたくさんの人が挨拶をするために拠点までやって来た。
たくさんの人、と言っても、やって来たのは知った顔ばかりである。
【竜の庭】のメンバーである、サラや、その仲間たち。
それから最近パーティを組んでいた、トットとエリとカオル。
サラの仲間たちは竜が好き勝手うろうろしている拠点を見て、完全にビビり散らしていたが、そのうち慣れてきたようで、サラにぴったりとくっついてはいたが、うろうろと見学をして回っているようだった。
そちらの案内はユーリに任せて、ハルカはエリたちとお話である。
「一級になるのって結構大変そうなのよねー……。今年一年、また気合い入れて頑張ればなんとか、って感じかしら。そうしたら、拠点をこっちに移して活動するつもり。ハルカの方は?」
ハルカたちはなんだかんだ大事に巻き込まれることが多かったので昇級が早かったけれど、実際は中々一級に上がるほどの依頼がころころ落ちているわけではない。
エリにしても、本当はハルカたちと一緒に行動した方が昇級は早いのだろうと分かっていても、自分の力で経験を積んで昇級をしたいという気持ちがあるのだろう。
いずれ冒険者のための学校を建てると言っているのだから、そのための準備と思えば、苦ではないのかもしれない。
「そうですね……、少ししたらまた〈北禅国〉へ行って、情報を聞いてくるつもりです。結構あちこちに出かけたい用事はあるのですが……、あまり拠点を空けるのも、って感じです」
「あー、港の方は?」
「あ、順調です。順調なんですが……、国の商人とかに見つかると、色々面倒なことになりそうだなと、ちょっと様子を見ながら作業を進めてもらってます」
トットは聞いていない話もあるので、黙って怖い顔をしているが、真面目に考えているだけで怒っているわけではない。
最初に酷く絡んできたトットであるが、今となってはこれ程ハルカに対する忠誠心が厚い男もいないだろう。
「……なんかあったら手伝うっすけど」
一応控えめに申し出れば、ハルカはにっこりと笑って答える。
昔と違って随分と表情も豊かになったものだ。
「あ、トットには街のことを教えてほしいんです。私はどうしても街にいられないことが多いので、オランズの様子を聞かせてもらえるのが一番助かります」
「あ、そっすか? じゃあそうっすね……」
なんだかんだでトットは心を入れ替えて以来、若い冒険者の世話なんかもやっている。よくつるんでいた三人組も、昇級こそしないが気前が良く、新人たちへの人当たりもいいので、今ではすっかりトットの派閥、のようなものができているのだ。
ハルカは認知していないが、【竜の庭】の下部組織みたいなものである。
そこから上がってくる些細な情報は、案外興味深いものも多く、聞いているとためになる。
話をしばらく聞いていると、トットは不意に思い出したように話題を変える。
「あ、そういやノーレンいるじゃないっすか、あれが少し前に依頼を受けて出ていったんすよ」
「依頼ですか? ノーレンさんなら心配ないと思いますけど」
ノーレンというのは、二級冒険者であり、特級冒険者であるクダンの娘だ。
実力は確かであるから、一人で依頼を受けたところで心配をする必要もない。
「いや、それがなんか、〈プレイヌ〉の方に出た賊を退治しに行ったはずなんすけど、帰りがやけに遅いんすよねぇ……。大丈夫かなと」
「……ノーレンさんに限って、妙なことはないと思いますが」
「そっすよね」
最近〈プレイヌ〉の街の方で何かあったかなと考えてみるが、さっぱり思い当たる節はない。ノーレンほどの者がすぐに帰ってこられないとなると、散歩中のヴァッツェゲラルドと遭遇したとか、コリンの体術の師匠であるゴンザブローみたいな、よく分からない強者に遭遇したのかくらいだろう。
とはいえノーレンならば、ハルカたちがもっとも出会いたくないと考えている、エルフの魔法使い、ユエルと出会っても何とかしそうなものだ。
どこかで道草を食っているのではないか、と思いつつ、ハルカは一応その情報を頭の隅に残しておくことにしたのだった。





