拠点でもちょっとした変化
ハルカは、コリンやエニシに一緒に露天風呂に入る許可を出すことになった。
レジーナは良かったのになぜ私は駄目なのか、という問いに対して、論理的な返答をすることができなかったからである。
正確には、いったんは、レジーナが勝手に入ってきただけだから、と断ったのだ。
しかし、一度レジーナも入ったんだから、別に私が入ってもいいじゃん、という主張に押し負けた形でもある。
いわゆる感情を盾にした、『そっか、レジーナはいいけど私は嫌なんだ、ふーん、そっか、ふーん』という雰囲気を持った女性の強い圧に負けた。
悲しいとか拗ねるとかの方面で責められると非常に断るのが難しい。
次に入る時には嬉々として乗り込んでくるのだろうなと思うと、それ以来露天風呂に入ることができず、どうしたものかなと考えているハルカであった。
そんな事件から数日が過ぎたある日の真昼間。
ハルカは日傘を差したカーミラが畑仕事を見守る姿を見つけた。
珍しいことだと思って近寄っていくと、その近くにはエニシもいて、ちょっとした農作業を手伝っている。
「こんな時間に珍しいですね」
「お姉様。……テネブ様も昼間に活動されていましたし、私もそれに慣れてみようかなと。折角お姉様が起きている時間に寝てばかりいるのもどうかと思って」
まだ慣れていないのか陽の光がまぶしいのか、目は細められている。
「あまり無理はしないでくださいね」
「多分そのうち慣れると思うの。それに、人と関わりたいのなら、私も歩み寄るべきでしょう?」
「……そうですね。いい心がけだと思います」
テネブの話を聞いたことで、カーミラも前向きに違う生き方を模索しているのだとすれば、それはとても良い影響であったと言えるだろう。
随分と年上のカーミラに対しての態度としてはどうなのだろうと思いつつも、ハルカは素直に褒めておく。カーミラがそういう扱いを望んでいることは分かっているし、ハルカとしても、もはやカーミラは保護する分類の方へ振り分けられ始めていた。
お姉様と呼び続けているのが功を奏しているようだ。
ご機嫌なカーミラと畑仕事を眺めていると、エニシが手を止めて近寄ってくる。
「お仕事はいいのですか?」
「あれは本当に手伝いみたいなものだからな。手伝うと喜んでくれるからやっているだけで、本当は我が手伝わなくとも仕事は進むのだ。皆本当に働き者だ」
腰に手を当ててそう言うエニシは、すっかり拠点の一員となっている。
このままここで過ごせば幸せな一生を終えられそうだとハルカは思うのだが、本人にも目的があるからそうも言っていられない。
「……年が明けたら一度〈北禅国〉へ行って、【神龍国朧】全体の様子を確認してみようかなと。それをもとに、本格的にどう動くか考えようかなと。情報が不足しているようなら、まぁ、また次の機会に、となりますが」
「……うむ、世話になる。どの勢力がどの島を治めているかによって、取れる手段は変わってくるからな」
きりっとした顔でエニシが答えていると、畑の方から「エニシちゃん、あれ? どこへ行ったのかな」と声が聞こえてくる。
「はい、我はここだ! ここにおるぞー!」
そうするとエニシはにっこりと笑って手をブンブン振りながら畑仕事をする者たちに所在をアピールする。やはりすっかり馴染んでいる。
「あ、ハルカさんたちと一緒だったのか。いいんだいいんだ。ほら、種をまくときに豊穣の踊りをしてくれるとかって話だったから……」
「うむ! 我に任せておけ! しばし待つのだ!」
「踊り、ですか……?」
「うむ。神龍島でも、季節ごとに豊穣の舞を納めていたのだ。ここでも同じことをして、少しでも植物たちの実りが良くなるように、と。これでも我は、巫女総代であったから、舞は得意でな」
「なるほど、いいですね」
「うむ、ハルカも舞を見ていくが良い。夜にでもまた話をしよう! あ、〈北禅国〉には一緒に行くぞ!」
なにやらで拠点の豊穣を願ってくれているらしい。
パタパタと慌ただしく走っていくエニシを見送りながら、ハルカは一人首を傾げた。
「お姉様、何か気になることでも?」
「あ、はい。ほら、舞はおそらく神龍様に向けて奉納していたのだと思うんですよ。となると、ここでは誰に向かって奉納するのかな、と。ヴァッツェゲラルドさんでしょうか」
テネブの話によれば、北へいなくなってしまった真竜の代わりにこの辺りの地域の気候を安定させているのは、ヴァッツェゲラルドだ。それならばヴァッツェゲラルドを連れてきて見てもらうのが妥当なのではないかとハルカは思うのだ。
「……お姉様じゃないかしら?」
「え?」
「だって、ここを切り開いたのはお姉様でしょう? それにヴァッツェゲラルドおばあさまは、お姉様を対等の存在として扱っていたわ。それなら、ここで舞を納めるべき相手は、お姉様だと思うのだけれど……」
「……私、エニシさんの舞を見たら、何かするべきなのでしょうか」
「雨が少なかったら水を撒いてあげたらいいんじゃないかしら?」
それならまぁ、なんとか……とハルカは首を傾げつつ一応納得する。
実りが悪い場合、魔法で植物の成長を促すこともできるハルカは、正に舞を納める対象であるはずなのだが、本人はその自覚があまりないようである。





