一応確認
重たい話に場が沈黙してしまったところで、アルベルトが頭をかいて背もたれに寄りかかった。
「なんかよく分かんねぇな。便利なもんができたなら、皆で使えばいいのにな。作った奴はすごいんだから、もっといろいろ研究させりゃいいしさ」
「そうありたいものだね」
「何でできねぇんだろうな」
純粋な疑問にテネブは柔らかい表情で答える。
「なぜだろうね。何かを失うのが怖いからかもしれないし、何かを欲しいと思うからなのかもしれない。理由を求めたところで意味のないこともあってね。そうなるからそうなる。そういう者もいる、と考えて行動しなければならないのが、……面倒くせぇところだね?」
「めんどくせぇなぁ……」
難しい話をしているうちにアルベルトがどんどん難しい顔になっていくのを見て、テネブは途中で話を切り上げて、アルベルトの口調を真似して笑った。
アルベルトもそれを受けて、同じ言葉でぼやく。
何ともお話上手な王様である。
「さて、夜も遅くなったし今日も休むとしよう。明日は大型飛竜を見て……、この島だと見せるべきは、もうあとそれくらいなものだね」
「楽しみです」
「楽しみ!」
ハルカとユーリが答えると、テネブは嬉しそうにニコニコと笑った。
昨日と同様部屋まで案内されている途中に、ハルカはふと思い出してテネブに尋ねる。
「話に出てきたオラクル教のコーディさんという方がいるのですが、いつかここに連れてきてもいいでしょうか?」
きっとこの島こそコーディの望んでいる場所の一つであるはずだ。
ただ、勝手に行動するわけにもいかないからと、確認をとってみた次第である。
「……もちろん、と言ってあげたいところだけれど、すぐにというわけにはいかないね。わかるだろう?」
正直なところ快く許可を貰えるとは思っていなかった。
ハルカは頷いて答える。
「島の安全のためですね」
「そうだね。でも、君が決してその情報が漏れないと、その人のことを信用しているのならば、伝えることくらいは構わない。そして……、そうだね、伝えるのならばこう伝えてほしい」
そこでテネブは振り返ってハルカと正面から向き合う。
「なんでしょう……?」
「人族が〈混沌領〉をハルカ王の領土と認め、対等に交易をするのであれば、【夜光国】も港を開く準備はあると。いつかそんな日が来るといいと、私も思っているよ」
「そうなると、あまりのんびりしているわけにはいかないですね」
苦笑するハルカに、テネブはいやいやと首を横に振る。
「私は何年でも待てるさ。それこそ、百年でも、千年でも。ハルカさんは今まで通り、自由にやればいいんだ。ただ、こう言っておけば、そのコーディさんとやらも、もっとやる気を出してくれるのではないかと思っただけさ」
「……ありがとうございます」
「いやいや、自国を守るのに精いっぱいで、大して協力もできず、心苦しいばかりだ。さぁ、部屋に着いたよ」
テネブが部屋を開けたのが、話は終わりという合図だった。
ハルカが一礼して部屋へ入っていくのを見送って、テネブは少し後ろを歩いていたイーストンに手招きをする。
呼ばれて横に並んだイーストンと共に、テネブは城の中をゆっくりと歩いて入口の方へと向かう。持っているランタンを元の位置に戻しに行くのだ。
「イーストン、外の世界は楽しいか?」
「まぁね」
「彼女らと一緒になってから、ますます楽しそうだ」
「それも、まぁ、そうだね」
二人はそれからまた黙り込んで、静かに城内を歩いていく。
しばらくして、イーストンがため息をついてテネブを見上げた。
「何か聞きたいことがあるんじゃないの」
「うん、まぁ、そうだな」
「何?」
「今回連れてきた女性の中に、意中の子はいるのかな?」
「……そんなことだろうと思った」
先ほどまでの威厳のある姿から一変、テネブは落ち着きなく天井あたりを見ながら話をしている。
「いないよ。そういうのじゃない」
「そうか……」
テネブは複雑な表情で頷く。
「どの子たちもいい子に見えたのだが、そういうのではないか」
「そういうのじゃないね」
「まぁ、気持ちがいつどうなるかはわからないものだ。私とヴェラの時も、関係は少しずつ変わっていったものだ。今違うと答えたからと言って、何か私に気を遣う必要はない」
「言われなくても遣わないから」
「そうか、それならいいのだが」
またしばらく黙って歩いたところで、テネブは定位置にランタンをそっと置いて踵を返す。それに続いたイーストンは、今度は自分の方から口を開いた。
「いつもそういう相手がいないと言ったらほっとしていた気がするけど、今回は違う反応してない?」
「お前がハルカさんに対して随分と気安く接しているように見えてな。話してみれば人柄もいい」
「それは分かるよ。でもハルカさんって、なんというか……、女の人っぽくないんだよ。見た目の話ではなくて、反応がね」
「それは少しわかる。コボルトを賢くして、さらに穏やかにして、強くしたような、妙な雰囲気を感じる」
「それ失礼だから絶対に本人に言わないでね」
少し笑ってしまったイーストンは、一応注意をしてからさらに続ける。
「話も合うし、いい友達だよ。これからもそうでありたいし、余計なこと絶対言わないでね」
「言わないとも。そのためにわざわざ二人になってから聞いたのだから」
「ならいいけど」
二人は並んで歩き、それぞれの自室へ向かう。
そしてイーストンの部屋へたどり着いたところで、テネブは先に声をかける。
「もう少し酒でも飲んで話をしないか?」
「もうハルカさんたちから散々聞いたでしょ。あれ以上のことはないよ」
「お前からも聞きたいのだ。折角帰ってきたのだから、少しくらい二人だけで腰を据えて話をしたいのだ」
イーストンは開けた扉を閉めると、「ちょっとだけね」と言って、テネブの部屋へとついていくのであった。





