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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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テネブの遍歴

 その日の夜、ハルカは極めてご機嫌だった。


 米、それから焼き魚。

 醤油はないけど塩でいただけば、ハルカはもう大満足である。

 これで味噌汁があれば最高だけれども、なくても十分だ。


 仲間たちはハルカが楽しそうに食事をするのを見つつ、食事を終えて、宿へ引き返して一泊。翌日にはのんびりと東へ向かうことになった。

 時折イーストンを知っている人には挨拶をされながら、整備された道をのんびりと進んでいく。この島には魔物もそれほど棲んでいないようで、他の街のように高い壁で街とその外が区切られていることもない。

 もし危険な動物や魔物が現れたとしても、城からやって来たイーストンの父や、鍛え上げられた近衛の騎士が何とかしてくれるのだそうだ。

 本当に、きわめて平和な島である。


「やっぱりイースの父親って強いのか?」

「うん、強いんじゃないかな? 戦っているところは見たことないけど、剣術も使えるし、吸血鬼としての能力も高いよ。どんな能力があるかまでは流石に教えられないけど」

「ふーん」

「あ、手合わせは禁止ですからね」

「分かってるって、気になっただけだって」


 聞けばちょっと手合わせをしてみたくなるが、しっかりとハルカに釘を刺されてしまい、アルベルトはふいっと目を逸らした。言わなければ忘れて声をかけていたかもしれないところだ。


「イースさんはお母さんに似てるんだっけ?」

「そうだね。だから見た目は全然似てないよ」

「でも吸血鬼ってことは、かっこいいんだろうなー」

「うーん、まぁ、そうだね。一般的にはそうなのかな?」


 家族の美醜というものは分かり難いものである。

 アルベルトが一瞬ちらりとコリンの方を見たが、あまり気にしてはいないようである。コリンが年上好きなのは昔からのことだ。

 鑑賞するのが好きなだけで、いちいち気にしていてはきりがない。

 アルベルトはこれでなかなか心の広い良い男である。


「お名前はテネブ様よね?」

「うん。テネブ=イスラ=カイル=ハウツマンだね」


 カーミラの質問に、イーストンが頷いて答える。

 吸血鬼の名前は、本人の名前、母、父、そして家名という順に並ぶようになっている。だから本人の名前さえわかれば、その父と母の名前も自然と分かるのだ。

 カーミラであれば、カーミラ=ニーペンス=フラド=ノワールであるから、ニーペンスとフラドの間に生まれた、ノワール家のカーミラである。


「島には、戦争を避けるために移動したですよね?」


 モンタナが到着前に復習とばかりに尋ねる。

 ハウツマン家のことは皆、以前から少し話に聞いていた。

 元々吸血鬼の王たる血筋の者は、各地に小さな領地をもって、そこで他の吸血鬼たちと集まって暮らしていたのだそうだ。

 血が必要という関係上、人の中には吸血鬼を恐れる者も多く、基本的には慕ってくる人の暮らしを保障しつつ、領地の中で血を貰いつつ静かに暮らしていた形になる。


 吸血鬼同士でも、人との問題を起こしたものは積極的に排除する動きがあって、ぎりぎりのところながらも、それなりに仲良くやっていたのだ。

 その均衡が崩れたのは、人族の技術が進み、武器が強くなってきたころからだった。

 人族はこれまで恐ろしいからと何とか我慢していたのだが、ついに自信をつけて吸血鬼を襲うようになったのだ。


 それによって全面的に対立したのが、ウルメアの祖先であるセルド家。

 元々他の三家と比べるとやや高慢で、人を召使のように扱っていた一族だった。

 南方でセルド家と人族の戦いが始まると、やはり吸血鬼は危険だという思想が広まり、他の三家にも飛び火する。


 結果、小さくまとまっていたノワール家は、迷いの森から出ないことで人との争いを避けた。

 怠惰なクリフト家は、面倒だと隠れ住んだり、ふらふらと種族を隠して旅をするようになった。

 そして北方に割と大きな領地を持っていて穏やかに暮らしていたハウツマン家は、自分たちについてくる者だけを募って、島へと移住したのである。

 当時のハウツマン家が暮らしていた土地こそが、今のヴェルネリ辺境伯領あたりであり、そこからこの【夜光国】へと避難してきた形になる。


 移住を決意してから数年で戦争は激化。

 準備を整えてからの移住は辛うじて間に合い、それ以来千年もの長きにわたり、テネブは【夜光国】の王として秩序を維持し続けた形になる。

 改めて考えるととてつもない精神力の持ち主だ。


 東へ東へと歩き続けていると、やがて妙な風景が見えてくる。

 高くせり出した崖の麓に、背の高い城が建っているのだ。

 そしてその足元には賑やかな城下町が作られている。


 港も平和で栄えているようであったが、この城下町は、他の国の都と比べても随分と人が多く、そして賑やかであるようだった。

 特に門などで止められることもなく、道を歩いているうちに少しずつ賑やかになり、いつの間にか勝手に街の中へ入り込んでいるような作りは、ハルカの元の世界とよく似ている。


 人が増えるとイーストンに声をかける人も増えたが、やはり皆、あまりイーストンを王子として畏れているという雰囲気はなかった。

 街の作り自体は島の外とそれほど変わらない中、唯一変わったところがあるとすれば、あちこちにベンチと日陰が設けられていることだ。


 子供たちや休みの人たちが、それぞれベンチに座り込んで話したり、食事をしたりしている。

 ハルカが辺りを見回しながら歩いていると、時折店の店主が声をかけてくれたりと、歩いているだけでもなかなかに楽しい。


 そうしてしばらく進んでいくと、イーストンが不意に「あ……」と声を上げた。

 何ごとかと思い視線の先を追いかけてみると、そこにはベンチに座って話をしている人たちがいた。

 その中に一人、妙に目立つ男性が混じっている。

 色白で、背が高く、髪の毛はびしりとオールバックで決め、目つきは鋭い。

 それなのに、どこか柔和な表情で親子連れの子供の話を聞いているその男性の瞳は赤かった。

 腰には燕尾服には似合わない、細身の剣を提げている。


 その男性は一言二言子供に断りを入れるとベンチから立ち上がる。

 そうするとますますその男性の長身が目立った。

 傍らに置いてあったつばのやや広いトップハットを頭にポンと乗せたその男性は、真っすぐにハルカたちの方へと歩いてきて穏やかに微笑んだ。


「おかえり、イーストン。あの子と話をしていてね、ちょうど元気でやっているかと心配になっていたのだよ。よく帰ってきたね」

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― 新着の感想 ―
そういえばパパ上はゼスト様に会ったことあるのかな? 移住の経緯とか人柄を考えると会ったことありそうだけど
イーストンパパの登場まで長かった!ずっと、吸血鬼が王の国とパパさんが気になっていて、ハルカとの会話とかで、いつか行ってみたいですねの言葉から、はや数百話…。次話が楽しみです。想像より紳士的だったなー。
アルとコリンもほんと良い組み合わせよね。
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