工夫と進歩
これまでの動きを見ていたモンタナは健闘した。
そもそも一撃に威力を乗せるタイプではないので、カウンターの攻撃も食らわず、ひたすら戦いが長引くのだ。
袖に隠してあるナイフなどを使って関節を動かしにくくしてみたり、足の下を抜けて背後にまわってみたりするのだが、結局決定的な隙をつくことはできない。
十五分ほどたっぷりそれを繰り返した末に、モンタナは距離をとってぴたりと動きを止めた。
「こういうことになるです」
勝つのが難しい、というのはつまり、勝負がつかないという意味だったのだ。
「こっから先に進むとなると、もうあとは殺し合いになっちゃうです」
「そうですね!」
ランスを甲冑の一部に引っ掛けたままいつでも動けるようにしているプエルも、モンタナの言葉に同意する。レジーナとはまた違う形で引き分けということだ。
「んー……、じゃあ引き分けってことで」
「そですね」
「はい」
どちらも良い運動にはなったし、同じような敵と出逢ったときにどうすべきかは試すことができたので、これもまた手合わせとしては成功なのだろう。
モンタナが戻ってきてハルカの横に座った頃には、レジーナがやる気満々でプエルの前に待機。
「むむ、再戦ですか!」
「勝つまでやる」
「次は勝ちます」
疲れていそうだったら止めようかと思っていたハルカだったが、どうやらプエルの方もやる気満々で、ランスを空に掲げている。大丈夫なのかと思ってテロドスの方を確認すると、こちらも呆れた顔をしながらも頷いたので、手合わせは続行ということになった。
「レジーナ殿に勝ったら、次はハルカ殿ですね!」
「……やめた方が良いと思うなー」
体力があるのは結構な話だ。
しかしプエルの言葉を、毎回初めの声掛けをしているコリンが控えめに否定する。
「なぜでしょう?」
「んー、ハルカは強いし、それにほら、レジーナが怒ってるから」
目の前にいるのに勝った時の話をされたのだ、そりゃあ怒るに決まっている。
レジーナが額に青筋を浮かべ、据わった目つきで睨みつけているのを見ても、プエルはなぜ怒っているかが理解できないようだ。
「むむ、何を怒っているのでしょう!」
正直者のプエルが、素直にコリンに助けを求めたところで、始めの合図もなくレジーナが走り出す。
「あたしに勝つ前提でいるんじゃねぇ!」
「む、むむむ」
襲ってきたレジーナの力任せの攻撃を、どっしりとその場に足を開いたプエルがランスの先端で迎え撃つ。
プエルのランスは根本へ向かうにつれて広がっており、たとえ点での迎撃ができなくとも、手元全体を隠す盾のようにも扱える。
どうやら先ほどまでの防御重視の動きから、攻撃的な動きへと切り替えてみたようだ。これは、アルベルトに一方的に攻撃ペースを握られたことへのプエルの反省であった。
プエルもまた、手合わせを通じて進歩しようとしているのだ。
しかし接触の瞬間、〈アラスネ〉が急激に巨大化。
質量まで変化したその武器に驚き、そして受け止める力配分が狂ってしまったプエルは、思わず後方へ数歩たたらを踏む。
そこへ向けて投擲されたのは、重量も大きさも〈ダイアラスネ〉と呼ぶにふさわしいものとなった金棒。
瞬時に体勢を立て直したプエルは、武器を払うために右腕の盾を構える。
盾に衝撃が走り、〈ダイアラスネ〉の軌道がそれたのを確認。
これで武器がなくなったからと反撃をしようとしたプエルが盾を下ろした瞬間、その横っ面にレジーナの拳が突き刺さった。
一発は耐えた。
そのまま盾で弾き飛ばそうと右腕を引いた瞬間に前蹴りでさらに体勢を崩される。
とはいえ、武器がなければ決着まではいかないはず、と考えたプエルがその隙に体勢を立て直そうと考えていると、レジーナは〈ダイアラスネ〉を拾うことなく更に距離を詰めてきていた。
突き出したランスを外側に向けて躱したレジーナは、そのまま鎧の肩と腕の接合部位に指をひっかけて、プエルを無理やり引き倒そうとする。
負けじと耐えに入ったプエルが足を踏ん張ると、レジーナは即座に引っ掛けていた指を外した。
プエルの体が、勢いに流されて前のめりになる。
プエルの顔が地面に向いたところで、レジーナは両手をその首の後ろに引っ掛け、顔に向けて思いきり膝蹴りを放った。
もはや手合わせ、というよりは喧嘩の様相である。
それでも、レジーナが勝ちに行ってることは間違いなかった。
衝撃を逃がすところもなく、兜の中にあるプエルの頭を揺らす。
それでも打たれ強いプエルが、無理やりに体を起こして体勢を立て直そうとしたところで、レジーナはまた両手を離してプエルの体を自由にした。
そして体が起きるのに合わせて、今度は兜の頭頂部付近に手を当て、そのまま全力で地面に向けて叩きつけた。
前後に揺さぶられ続けたプエルは、もはや抗いようもなく、後頭部を地面に強打。
「むぅ……」とうめいてそのまま動かなくなる。
「始めの合図の前に動いたから反則負けー」
コリンが宣言したところで、ハルカは慌ててプエルの方へ駆け寄って治癒魔法をかける。
「いや、油断したプエルが悪い」
テロドスが歩いてきて判定を下す。
始まりの合図はなかったが、レジーナの動き出しから最初の攻撃までには、距離があったので十分心構えする時間はあった。
ルール違反ではあるが、勝ちは勝ちだというのがテロドスの判断のようだ。
「いえ、なんかすみません本当に。プエルさん、大丈夫ですか?」
「……ま、負けたぁ」
こちらも本人的には負けた判断のようである。
「へ、変な技、使われました……!」
「あ、そうだよね。レジーナ、私の使ってる格闘術真似したでしょ」
「真似してない」
「そうかなー? 上手にできてたけどなぁ」
「うるさい」
コリンはよく、武器無しで仲間たちと戦闘訓練をしている。
力の細かな制御はやはりコリンが得意としているようで、背の高いアルベルトや、力のあるレジーナも、ポイっと投げ飛ばしていることがある。
最近のコリンはモンタナには通じなくなってきたと嘆いていたが、これもまた相性の問題なのだろう。
本人は真似していないと言っているが、勝つためにはどうしたらいいか、よく考えて選んだ作戦だったのだろう。参考にしているのは間違いない。
「じゃ、次俺なー」
当たり前のようにアルベルトが次の訓練準備をはじめる。
「まだやるのだな」
「あ? いつもこんなだぞ」
アルベルトはテロドスにさらっと答えると、肩をぐるぐると回しながら定位置へ向かう。
「あの、プエルさんの方の都合もありますから……」
「次は勝ちます! 治してもらえるといくらでも戦えます、ありがとうございます! とてもいい勉強になります!」
鎧姿でがしゃんと立ち上がったプエルは元気もやる気もいっぱいだ。
どうやらプエルの方も、レジーナたちとの手合わせを全力で楽しんでいるようだ。
「じゃ、最初の場所に戻ってー」
コリンの掛け声に合わせてアルベルトとプエルが戦いの初期位置につく。
その場に立ったまま呆れ顔のテロドスがハルカに尋ねる。
「本当にいつもこんな間隔で手合わせを?」
「ええと、はい、まぁ、いつもこんな感じです」
「道理で粘り強く、強いわけだ」
【竜の庭】の強さの一端を見たテロドスは、とても騎士たちの訓練の参考にはできないなと、ゆっくりと首を横に振る。
この後も手合わせは結局半日にわたり続いた。
昼も過ぎて、いい加減お腹もすいてきたところで、最終戦績はだんだんと戦い慣れてきたプエルの方がやや勝率が高い形で収まった。
地力のところを見ると、プエルの方が強い。
それが今のプエルとレジーナたちのパワーバランスのようである。





