お仕事の成果
「本当に助かりました。随分と工期も縮まって……」
「あ、いえ、むしろ予定を随分と崩してしまったようで申し訳なく……」
「全然そんなことはありませんので、またいつでも……!」
たった半日、されど半日。
ハルカが魔法で土を掘り返し、ナギがそこを踏みしめて歩くだけで、壁作りの基礎がどんどん進んでいく。掘り出された中にある大岩なんかは、アルベルトとモンタナが砕いたり運んだりして処理していく。
ちなみに腕まくりで気合いを入れていたユーリと、ついでにエニシも、ナギの背中の上でのんびり待機である。お仕事はもうちょっと大きくなってから、とハルカにお手伝いを却下されてしまった。
実際ハルカだけではなく、アルベルトとモンタナの仕事ぶりを見ていても、ユーリにできることは少なかっただろう。
ハルカが気もそぞろになるくらいならば、ナギの上で静かに待機が正解である。
「お仕事の進みがあまり早いと、色々と問題も起こるのでは……?」
「いえ、壁が早くできる分には何も。巨人から街が守られることが分かれば、家族や商人たちが招かれ、早くに街が活性化していくことになります。ここで働いている者たちは、壁作りが終われば、この街に自分の家を持つことができるんですよ。感謝することはあれど、問題など」
「あ、そうですか。それなら良かったのですが……」
壁作りが早く終わったとて、別にヴェルネリが雇用をやめるわけでもない。
兵士たちが守っているとはいえ、壁のない状態で、いつ巨人が出てくるかわからない場所で作業を続けるのは精神的に苦痛が伴う。その危険な工期が大幅に短縮されたのだから、喜べども怒る者など、工夫たちの中には一人もいなかった。
ちなみにアルベルトとモンタナの、どっちがいっぱい働けたか対決は、アルベルトに軍配が上がったようだ。どちらも身体強化を使っているとはいえ、やはり体が大きい方が作業に有利になるらしい。
ハルカの周りには監督たちが集まっているが、二人の周りには工夫が集まり随分と称賛されている。
ハルカは、若い二人が競い合って一生懸命働いているのが楽しかったのだろうと、穏やかに見守っている。実際は途中から二人が勝負していることを知った他の工夫たちが、少額で賭け事をして楽しんでいたのだが、こちらについてはハルカが知る必要のないことだろう。
ここで働いている者の多くは、金で身を持ち崩したような輩も多いので、日常のふとしたことで仲間内で賭け事をするのだ。大きな争いにならない限り、ヴェルネリはそれを黙認している。
さて、そんな調子でみんなと共に夕食をとり、ゆっくりと休んだ翌朝。
ヴェルネリが重たそうな袋をウーに持たせて、ハルカたちの下までやって来た。
「まったく、旦那に休めって言っといて、お前ら働きすぎだぜ。おかげで金勘定と計画の見直しに随分と遅くまで起きてたみてぇだ」
「いや、ちゃんと休んだ。それに計画が前倒しできたのはいいことだ。約束の支払いだ」
「はーい、と、ずっしりだー……」
「工夫全体数十日分の支払いだ。それくらいにはなる」
コリンが中をのぞいた時、キラキラとした高価そうな輝きを見て、ハルカは目を泳がせた。想像していた数十倍いただいたようである。
「……出発前にもう一度治癒魔法をかけておきます、その、これの支払いとかはいりませんので」
「いや、払う」
「あ、いえ、いりません、本当に。次に顔を出したときも、何かあればお手伝いいたしますので」
「いや、あまり手伝いをされ過ぎて、一時的な出費がかさむと払いきれん。次からは相談して、必要なことだけ頼むようにする」
「すみません……」
「なぜ謝る。計画が前倒しできたのはいいことだと言っている」
どうやら現場の者たちは大喜びだったようだが、ヴェルネリ辺境伯領のお財布を直撃したようである。現場の人が喜んでくれるから、途中から嬉しくなって、ハルカもちょっと張り切って作業をし過ぎたと反省する。
きりの良いところまで、と頑張ってしまったのが良くなかったのかもしれない。
ナギも手伝いができて、そして現場の工夫たちから応援をしてもらえて嬉しそうだったのだ。ナギがみんなに受け入れてもらえるのはハルカも嬉しい。
気持ち的にここらでやめておくか、とブレーキをかける理由がなかった。
エルフと竜の似た者親子である。
「ま、また来いよ。アルベルト、モンタナ。その時までに俺もまた鍛え直しておくぜ」
「楽しみです」
「俺たちの方も今よりもっと強くなってるかもしれないぜ」
「そりゃあ腕が鳴るってもんだ」
昨日手合わせをした組も、後腐れなく仲良くしているようだ。
武芸者同士のすっきりとした関係は、見ていても気持ちがいい。
ヴェルネリに治癒魔法をかけて、みんなでナギの背に乗り込んでいる最中に、ウーが大きく手を振って声をかける。
「おおーい、そういやよ、コリンはアルベルトと結婚したんだろ。おめでとさん!」
「へ? な、なんで知ってるの?」
「いやー……。マジで旦那の奥さんにどうかと思ってアルベルトに聞いたら、俺のだから無理って言われてよ。悪いな! 知らないで余計なこと聞いて!」
「勝手なことをするな」
「いや、旦那はマジで早く健康管理してくれる嫁さん探した方がいいぞ」
ハルカがちらりとコリンを横目で見ると、珍しく耳まで真っ赤にして固まっていた。まぁ、悪いことではないし、何をどうフォローしていいかもわからないので、そのままナギの背中に乗り込んでいく。
「お似合いだぜ! 幸せにな!」
ヴェルネリに文句を言われながらもウーが続けると、コリンは障壁の階段を一気に駆け上がってナギの背に登り、振り返って「ありがと!」と大きな声を出して引っ込んだ。
下からウーの笑い声が聞こえ、コリンが「出発、ナギ出発!」とナギに向けて声をかける。
端の方ではアルベルトが「ありがとな!」と何の恥じらいもなく手を振っていたのが、なんだか珍しい光景ながらも、二人の関係をよく表しているようであった。





