怪しい商人の恩返し
「ラウドさんと、アイーシャさんですね」
「……誰だっけ?」
「ほら、いつだかユーリの髪染めを譲ってくれた方です」
「そういえば、こっち紹介したんだっけ」
コリンは一瞬ピンとこなかったようだが、ハルカが小声で当時のことを伝えると、すぐに思い出したようだった。ちなみにエニシははじめましてなので、なんだか嫌そうに体を小さくしているナギの鼻を撫でてやっている。
「いやぁお久しぶりで。あの時ヴェルネリ様を紹介していただけたお陰で、商売繁盛、随分と働かせていただいております。ホントありがたい限りで!」
「……胡散臭いがよく働くから重宝している」
ヴェルネリがうるさそうにしながらも、ラウドのことを評価する。
確かにこんな所までついてきて働く度胸のある商人なんて、そうそう見つけることはできないだろう。良いマッチングであったと言える。
「はいはい、胡散臭いぶん仕事は真面目にと」
「胡散臭いのも直したらどうだい」
「それは生来のもんなので」
アイーシャと息の合った冗談のようなやり取りをして、ラウドは「いやぁ……」と言いながらナギを見上げる。
「この子、いつだかあの背中に張り付いていた子ですよね? こんなに大きくなるとは、いやはや……。ちょっと触らせてもらえます?」
ナギはその場から動かなかったが、すぐ横で撫でてくれているエニシをじっと見つめて何か言いたげにしている。
「嫌そうにしておるな」
「なんと、嫌われたままですか!」
「変わらないね」
ユーリが言うと、ラウドはぐるっと振り返ってまじまじとその顔を見つめる。
「そっちの坊やも、随分と大きくなりましたねぇ」
「うん」
「……あ、約束はもちろん守ってますよ! 商人の誇りにかけて!」
「生きてるってことはそういうことさ」
ラウドは慌ててハルカに向けて両手を挙げて降参した。
当時帝国がユーリのことを探していた頃、このラウドという商人はそれを知っていたのだ。怪しい感じでそのことを告げてきたものだから、一触即発の状態に陥ったことがある。
絶対に裏切らない宣言と協力。そしてアイーシャの、『裏切りそうになったらあたしが殺す』という発言で、辛うじて信用し放免したわけであるが、あちらもそれはしっかりと覚えているらしい。
「その件についてはもう解決しました」
「解決、というと?」
「もう追っ手は来ないのであまり気にしないで大丈夫ですよ」
「……帝国と話をつけた、ということで?」
「まぁ、そのような感じです」
ヴェルネリ辺境伯領であくせくと働いているラウドは、外の情報をあまり仕入れられていないようだ。ハルカたちの噂もあまり聞いていないのだろう。
驚いたように目を丸くしていた。
ラウドはすぐに立ち直ると、「ああ、そうそう」と言って、持ってきた袋をハルカの方へ差し出す。
「これ、実はいつかお渡ししようと貯め込んでいたんです。私も商人ですからね、恩にはちゃんとお礼をしないと気持ちが悪いってなもんで」
「へぇ、ありがとうございまーす」
すっと前に出てきたコリンが袋を受け取ってお礼を言う。
お金のことはコリン任せなので、それが一番いい。
なんだか知らないけれど、あちこち出かけているだけで、依頼を受けているわけでもないのにお金がたまっていくのが【竜の庭】の不思議なところだ。
「ふー、すっきりしましたよ。これで憂いなく働けるってもんです」
「……頼んでたものは?」
「あ、今から出ます、今から。それじゃ私はこれで! いやぁ、ヴェルネリ様は人使いが荒くて金払いがいい!」
「馬鹿、余計なこと言うな」
微妙に失礼なことを言いながらラウドが駆け足で去っていく。
そしてアイーシャがそれをたしなめながら後を追いかける。
相変わらず良いコンビをしているようだ。
「わぁ、結構入ってる。儲けてるんだなぁ……。確かに金払い良さそう……」
コリンが現実的なことを呟くと、ヴェルネリがじろりとそちらを見て口を開く。
「コリン、お前ならうちでいつでも雇うが?」
「あ、いやぁ……、ありがたいですけど、私は冒険者なので」
「だろうな。言ってみただけだ。本当はまとめてうちで雇いたいところなのだが、流石に宿丸ごととなると、こちらが破産する」
ヴェルネリはウーと手合わせしているアルベルトを見て目を細める。
「しかし強いな。ウーが押されているのを見るのは初めてだ」
「一級冒険者ですからー? アルも中々強いでしょう」
コリンが自慢げに胸を張る。
ヴェルネリはちらりとそれを見てから、「そうだな」と呟いて同意した。
「最近は街の冒険者ギルドにも金を投じて整備をしている。暇……、ということはないだろうが、もし機会があれば立ち寄るといい」
「あー……、そうですね」
ハルカがちらりとナギの方を見て返事をする。
ナギが街へ近づくと必ず大騒ぎになって迷惑をかけてしまうのだ。
なかなか気軽に街の中へは入れない。
「……今度ナギについても街に通達をしておこう」
「あ、いえ、また仕事が……」
「有名な冒険者が街を訪ねてくれば、少しはギルドが活気づくかもしれん。こちらの利益の問題だ。気にするな」
「あ、はい……」
そんなことよりも是非ともその時間でゆっくり眠ってほしいが、きっと思いついたからにはヴェルネリは行動に移すのだろう。
説得しようとしても論破されそうなので、すんなりと諦めて頷くハルカであった。





