寄り道をして帰ろう→ヴェルネリ辺境伯領
帰りにどこかに寄り道してみようかとハルカたちは話し合ってみたが、考えてみると、王国との縁のほとんどはノクトに関連したものだ。
皆で頭を悩ました結果、そうだ、ヴェルネリ辺境伯領へ寄り道してみてはどうだろう、という話になった。
あそこの辺境伯は、いつも無茶な仕事ばかりしているので、思い返してみると少し心配になる。
それから〈ディグランド〉の巨人たちと、〈混沌領〉の巨人たちの違いも気になる。
ハルカたちが〈混沌領〉で出会った巨人たちは話が通じたが、昔、ここヴェルネリ辺境伯領の北方に位置する〈ディグランド〉で出会った巨人たちは、まるで話が通じなかった。
あの辺りは種族としての違いがあるのか何なのか、はっきりと分かっていない。
辺境伯に話を聞けば、何か情報でも入るかもしれない。
ナギに頼んで進行方向を北東へと変更してもらった。
目的地は前線のチフトウィント要塞ではなく、そこからさらに北へ向かった所にある前線基地付近だ。
辺境伯はそこにいないかもしれないが、きっとその側近であるウーならば前線の方にいることだろう。基地にはコリンと手合わせをしたものも多いので、顔を見れば思い出してくれることだろう。
途中あまり迷惑をかけぬよう、人里離れた場所で野営をしつつ、二日ほどで目的の地まで到着する。最前線基地上空を通り過ぎて少し先まで飛んでいってみると、どうやら〈ディグランド〉に入ったあたりに、新たに基地が作られているようだった。
山を背にして広大な〈ディグランド〉の土地を望むその場所は、広く壁で囲むべく、たくさんの人が動員されて作業の真っ最中だ。
その広さは、なかなか見たことがないほどであり、どうやら地面を耕しているものまでいるところを見ると、壁の中だけで畑まで完結させることを目的としているようであった。
あれから数年。
着実に計画は進行しているようだった。
この調子だと、前線にヴェルネリ辺境伯がいてもおかしくはない。
上空から見る限り、付近に巨人の姿はない。
おそらく近辺の巨人はあらかた倒しつくし、一応安全を確保しているのだろう。
山脈から雪解け水が流れ込んでくるこの地域は、確かにうまく開発すれば豊かな土地になり得る可能性を秘めているように思えた。
しばらくぐるぐると上空をまわり、それからゆっくりと、前線基地から少し離れた場所に着陸をする。のんびりと街に向けて向かっていると、やがて背の低い口髭の男が兵士を数人連れてやって来た。
その男はナギではなく、ハルカたちの姿を見てすぐに、連れてきた兵士たちに何事かを告げて、街の方へと走らせる。
一人になった口髭の男は、背筋をしゃんと伸ばしたまま歩み寄ってきて口を開く。
「いつだかの魔法使いか。その節は世話になった」
目礼をした男は、ナギを見上げながら続ける。
「これがマグナス公との戦いの際に活躍したとされる大型飛竜。実に立派だ」
「……カタンさん、でしたね。お久しぶりです」
「名前を覚えていたか。てっきり忘れられているとばかり思っていた」
「その割に名乗らなかったです」
カタンはそこで初めてニッと笑って答えをごまかした。
ハルカたちも初めて見る笑みだった。
おそらくハルカたちが自分のことを覚えているか試していたのだろう。
カタンという男は、ハルカとモンタナ、それにアルベルトが、ヴェルネリ辺境伯に依頼された巨人退治をした後に出会った、前線の指揮官だ。
あまり愛想のいいタイプの人物ではないのだが、ハルカとしては、部下には慕われており、また、部下を大事にする人物であるという印象を持っていた。巨人に捕まって命を落とした部下のことを思い、静かに悲しんでいた顔を、ハルカは今でも思い出すことができる。
アルベルトとはあまり相性が良くなさそうだったが。
そのせいか、案の定アルベルトはカタンの顔を忘れているようで、ぴんと来ない表情をしている。
「随分と大物になったというのに律義なことだ。この度は何のご用件だろうか」
「これといった重要な用事があるわけではないのですが、ちょっと巨人についての知識をお借りしたいと思いまして。他にもこまごまとした用事はあるのですが……。街が作られているのが確認できたので、一つ用事は終わりました」
「なるほど、こちらの心配をしてくれていたのだな。……ウーも閣下も君たちが来たと知れば喜ぶだろう。案内しよう」
迎えは意外な人物であったが、前線の攻略がある程度落ち着いたというのならば、カタンが兵士の指揮をとっているのはおかしいことではない。ウーはヴェルネリ辺境伯が雇った傭兵のようなものであったから、前線で一番偉いのはきっとこのカタンなのだ。
歩き出したカタンの後に続きながらハルカは質問を投げかける。
「お二人ともこちらにいらっしゃるのですか?」
「確認してやって来たわけではないのか」
「はい、どちらかはいらっしゃるかなと思っていましたが」
カタンはちらりと振り返ってナギを見てから、「なるほど」と呟く。
「あれほどの速さで移動ができるのならば、いちいち確認する必要もないか。街に近寄れば騒ぎも起こるだろうし、適切な判断かもしれないな」
そこまで色々と考えてやったことではないのだが、どうやら買いかぶってくれたようだ。しばし沈黙したハルカだったが「ええと……、そうですね」と、とりあえずカタンの推測の通りであるかのように頷く。
自分を大きく見せよう、とかではなく、カタンの推測を外さない方がいいだろうという気遣いからだ。
反応の鈍さからそれを察したカタンは肩を震わせながら、くっく、と悪人のように癖のある笑い方をするのであった。





