指導者たち
ベイベルと話しているロルドは、明るく快活で、それでいて下に見られるようなへりくだり方はしない。ハルカたちと話していた時のような子供らしさは鳴りを潜め、それが逆に人好きのする雰囲気へと変化していた。
やはり王は王なのだなと感心しつつ耳を澄ませるハルカである。
〈混沌領〉の王であるから、別国の王と公式に対談するような機会はあまりないはずなのだが、あちこちに飛び回っているうちに、いつの間にか知り合いは増えてしまっている。
今はただの冒険者だからそれほど気にする必要はないが、国を背負って話をするとなると、色々とプレッシャーとかが懸かってきそうだ。
二人の隙の見えない会話を聞きながらお勉強である。
さて、エリザヴェータに指定されたあたりにたどり着くと、陣地の中に明らかにナギが降りるための広場が用意されている。ナギもそれが分かったのか、ハルカが何かを言う前に、その上空を数度旋回してから、ゆっくりと高度を下げ始めた。
着陸をしたところで、ハルカが先に前へ出て、障壁で階段を用意する。
「どうぞ」
「すまぬな」
「ありがとう」
年上のベイベルから階段を降り、その傍らにエイビスが寄りそう。
続けてロルド、その後にハルカたちが降りると、その先にはナギの姿を見てやって来たエリザヴェータたちが待っていた。
エリザヴェータは普段は持っていない、頭に宝石の乗った立派な杖をもって、背後に護衛を二人連れて不敵に笑った。
「私が【ディセント王国】国王、エリザヴェータ=ディセントだ。はるばるの御足労に感謝する。加えて、今回の反乱において、両国にご迷惑をおかけしたことを謝罪したい」
「……謝罪は受け入れよう。我は【テネラ】最古老のベイベルだ」
「同じく、謝罪を受け入れよう。私は獣人国【フェフト】の王ロルド。手紙でのやり取りはあれど、直接お会いするのは初めてだな」
三人が揃うと、流石に誰も劣らず威厳がある。
一応もう一人王様が横にいるはずなのだが、こちらは今回の問題にはあまり関係ない上、身分を明かしていないので静かに様子を見ている。どうしたらこう、うまいこと王様らしさが出るのかなと、先ほど同様考え中だ。
ハルカが同じく身分的には偉い人であったはずのエニシの方をちらりと見ると、澄ました顔で目を伏せている。なんとなくそれはそれで、エニシの性格を知らなければ神秘的な雰囲気がありそうだなぁ、などと考えるハルカ。
自分も黙っていればそのように見られるような容姿をしているのだが、こういう場所に来ると雰囲気に飲み込まれてしまうのだろう。実際に自分が話すとなれば、良い感じに緊張をして、もう少しましな対応ができるのだが、この場においてはきょろきょろしているだけになりそうである。
「お招きして立ち話も申し訳ない。話し合いの席にご案内したいのだが、いかがだろうか」
提案に二人が頷くと、エリザヴェータはそのまま先頭を歩いて案内を始める。
一つ見えるひときわ立派な天幕が目的地なのだろう。
少し離れた後ろの方をついていっていると、コリンがすすっと寄ってきて口を開く。
「エリザヴェータ様の杖、高そうだったねー」
立派だったとか、かっこよかった、とかではなく、高そうだったと最初に出るのはコリンらしい。
「なんか強そうだったよな」
「わかったです?」
アルベルトが話に乗りながらハルカの後ろから答えると、コリンの反対側から寄ってきていたモンタナが返事をする。
「分かったって何が?」
「あの杖、多分何か力があるです。しっかりした職人が作った魔法の杖だと思うですよ」
「……そんなものを会談の場に持ち込んでいいのか? 我が人を招くときは、皆武装解除してもらっていたが……」
ユーリと共にハルカの前に入り込んできたエニシが、心配そうに声を上げる。
「ロルドは普通に戦えますし、エルフの古老も弓は持っていませんがナイフを持っていたでしょう。あの人はあれで森の戦士ですからねぇ。リーサが魔法の杖一つくらい持っていても構わないでしょう」
ぷかぷかと浮かびながらついて来ているノクトが答える。
「皆が武器を持ってるからそれでいいってこと?」
ユーリが確認すると、ノクトは「そうですねぇ」と頷いてからさらに続ける。
「ちなみにあの杖は、王国が成立した際に、【テネラ】の神木から切り出した枝と、【フェフト】の雪山から見つけ出された宝珠を使い、人族が作った謂れのあるものです。あの二人が知っているかはともかく、聞かれればリーサはそう答えるでしょうね」
「あー……、ちゃんと計算してるってことか」
「そういうことです。まぁ、相手が杖を持ってくることを責めてくるようなことがあれば、それで話の優位性も取れますからね」
「色々考えているんですねぇ……」
ハルカは感心をしたが、自分にそれだけ気を回せるかはやはり不安である。
三人とエイビス、それに護衛たちが天幕の中へ入っていったところで、ハルカは中へ入らずに外で待機をしようと足を止める。
「入んねぇの?」
「まぁ、私たちは冒険者ですし、話し合いに参加してもかなと」
「うーん、まぁ、ハルカがそれでいいならいいけど?」
しばらく待機をしようと横にそれて行こうとするが、モンタナはちらりと中を覗き、それからハルカを見て僅かに首をかしげる。
「この辺で待ってたらいいです」
「中の話が聞こえちゃったりして、怒られませんかね」
モンタナに言われて不安げに足を止めるハルカ。
「ハルカさんって気が小さいですよねぇ」
「大丈夫です。むしろ……」
ノクトが呆れた顔で笑い、モンタナが続けて何かを言おうとしたところで、エリザヴェータが天幕の中から顔を出す。
「何をしているのだ。ハルカたちも入れ」
「です」
モンタナがエリザヴェータの言葉に同意して頷く。
特級冒険者は小さな国ひとつに匹敵するほどの戦力だ。
すでに関わっている以上、エリザヴェータは当然、会談の場にもハルカたちを参加させる気でいるに決まっていた。





