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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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成長速度の違い

 障壁に乗って空へ飛び立つと、コリンがけらけらと笑った。


「良かったね、怖い人たちじゃなくて!」

「怖くはなかったですが……」

「話も聞きやすそうです」

「それもそうなんですが」

「変な爺共だったな」

「それはちょっと言いすぎなような……」


 一通り返事をしてから、ハルカは深くため息を吐いた。


「なんというか、居心地が悪かったです」

「まー、でも、寂しいんだろうねー、あのおじいちゃんたち」


 エルフは寿命が長い分、種族としての数も多くない。

 エルフの国【テネラ】には十の集落があり、別れて暮らしているのだが、一つの集落につき住んでいるのは百人から、多くて五百人程度。

 テネラの総人口は三千人に満たない。


 しかも若い者たちは、どこかのタイミングで外へ出て行ってしまうことが多く、郷愁を感じて戻ってくるのが数百年後、なんてことだってざらだ。どうしたって人口比率は高齢に偏ってしまう。

 だから、戻ってきたエルフにはめちゃくちゃに優しいし、若いエルフのことは大切にする。

 それがまた、国を離れる原因になることもあるようだが。


 今回の場合、ハルカがダークエルフということで、ぎり同じ種族認定をして歓迎しようということになったのだろう。もしかすると他にも頼み事とかがあるのかもしれないが、まぁ、それはまた話してみないとわからないことだ。

 少なくとも悪意はまるで感じなかった。

 むしろ、よし、甘やかすぞ、という妙な気合いの入りが、ハルカを逃げ腰にさせたのである。


 なんだかんだ言ってハルカは自分を四十五歳程度の男性、と認識している。

 四十五の男性が老人たちにちやほやされるというのは、想像するとなんとなく受け入れがたいのだ。

 近頃は何気なく過ごしていて、上手く今の自分と四十五歳独身男性おじさんの自分を融合させていたのだが、ああいった場面になると駄目である。

 申し訳ないやら恥ずかしいやらで、ちょっと受け入れがたい。


 まぁ、もし仮にハルカが四十五歳ダークエルフだったとしても、あの老人たちは特に問題なく同じ扱いをするのだろうけれど。


「まぁ……、戻らなきゃいけないので、それまでに覚悟を決めておきます」

「いつも通りにしてれば喜ぶと思うけどなー」


 コリンの言う通りだ。

 穏やかな物腰で丁寧に喋るハルカは、普通にしていれば、それだけで老人たちにご機嫌で受け入れられることだろう。

 ハルカとしてはそれが騙しているみたいで気が引けるのだが。


 そんなしょうもない話し合いはおいて、ハルカはナギの背中に合流した。

 ゆっくりと横並びで飛んでから、少しずつ近づいて背中に着陸。


「ナギ、このまま森を抜けて、休める所を見つけたら降りましょう」


 ハルカの言葉を理解したらしいナギは、ひと鳴きしてぐんと速度を上げる。 

 竜らしいよく響く声は、知らぬ人が聞けば恐ろしいかもしれないけれど、ハルカたちからすればただの了解の返事である。


「どうでしたかぁ?」


 ハルカがナギと話している間に、ノクトがコリンたちに尋ねる。


「なんかいい感じでした。ハルカがエルフのお爺さんたちに気に入られちゃって……!」


 話しながらコリンが笑う。

 

「結構よそ者に厳しかったりするんですけどねぇ、エルフ」

「ダークエルフだから、若い仲間ってことにしたみたいです」

「あぁー……、身内に甘いですからねぇ、エルフ。ふへ、ふへへ」


 モンタナの説明で完全に理解したノクトはその光景を想像したのかふへふへと笑いだした。ハルカの困っている顔でも思い浮かんだのだろう。


「なんか皆揃って弓矢持ってっから、あんま気が抜けないよな」

「まぁ、そうでしょうねぇ。エルフというのは、古くから弓の達人が非常に多いんですよ。森の中での戦いとなると、なかなか強敵です」

「俺、魔法のイメージが強いけどな」

「それは多分ハルカさんと……、ユエルさんのせいですかねぇ」

「アルは私の弓の師匠しってるじゃん」

「いや、まぁ、そうだけど」


 昔のことを思い出してアルベルトは眉を顰める。


「アルったらさー、私の弓の師匠と仲悪かったんだよねー」

「うるせぇなぁ」

「何したです?」

「えー? 私の弓の師匠に、弓より剣の方が強いって喧嘩売ってー、師匠がじゃあもう教えない、って言ったら、逆切れしていなくなった」

「子供ですねぇ」

「子供なら仕方ないですよ」

「アルが悪いです」

「分かってるって! 俺も悪かったって思ってんだよ!」


 随分と昔の話だ。

 アルベルトが今よりも生意気盛りの頃で、剣の腕もだんだんと上がってきたころのことだった。

 弓の師匠が、コリンのついでに、アルベルトにも弓を教えてくれていたのだが、残念なことにアルベルトは弓のセンスがそれほどなかった。コリンばかりが上達していく中、こっそりと練習してみても全然うまくいかず、アルベルトは鬱憤をため込んでいた。


 あまり遠慮をしないエルフの師匠が『君は弓に向いていないな』と言ったところで、鬱憤が爆発して喧嘩になったのである。


 アルベルトは当時のことを今でも反省している。

 というか、当時も悪いことをしたと後でこっそり謝っているのだが、コリンのいる場所では流石にばつが悪くて言い出せなかっただけだ。

 当人同士での話はついていたし、その師匠には『君が頑張ってるのは知っている。でも弓の才能はないから剣に集中した方がいい。それでコリンをしっかり守ってあげたらいいだろう』と、助言まで受けていた。

 あちらはあちらで子供に対して言葉が足りなかったと反省していたのであった。

 強者にしては珍しく常識のある良いエルフである。


「しかし……、アルは出会った頃と比べると、随分背も伸びて大人っぽくなりましたよね」


 アルベルトが居心地悪そうにしているのを見て、ハルカは笑いながら話題を変える。実際出会った頃と比べると、三十センチは身長が伸びているだろう。

 今ではすっかり頼りがいのあるいっぱしの男性冒険者だ。

 顔立ちはまだ幾分か子供っぽいけれど。


「コリンも前より落ち着いていますし、モンタナは……」


 変わらぬモンタナを見て、ハルカは目を細める。


「昔から頼りになりましたよね」

「そですか」

「そうだよねー、モン君って最初っから落ち着いてたよね」

「でもこいつ、俺に勝ち越すためにしょっちゅう隠し事するぞ」

「知らないです」

「ずるい手使って勝ち越しの数増やそうとするし」

「知らないです」


 モンタナがアルベルトにだけは負け越さないようにあれこれ試行錯誤しているのは周知の事実だ。この話をするとき、モンタナは絶対にアルベルトと目を合わせようとしない。


「そんなこと言ったらハルカも結構変わったけどね」

「……少し、そんな気もします。どこがと言われるとちょっと困りますが」

「見た目が変わらないからねー。ユーリももっとゆっくり大きくなるんだよー、急いで大きくなると寂しいから」


 急にしゃがみこんだコリンはユーリを抱きしめて持ち上げる。

 ユーリは数度瞬きをしてから、「うん、そうする」と素直に頷いた。

 最近は皆と一緒にのんびりいられる時間も大事だと、ユーリもなんとなく気付いていた。

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― 新着の感想 ―
この家族みたいな関係が好き
エルフの老人にとっては45才なんて、人間の老人に置き換えると「わたし…5才って言いましたけど、実は8才なんです…!」と幼女に言われるようなもんだわな。 老人から見れば「大して変わらん!誤差だよ!」って…
エルフの老人を人間の70歳くらいとして換算すると、 500年生きてたら45歳は6〜7歳 200年生きてたら45歳は15歳くらい になるからどっちみちまだ子供だなぁ
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