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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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今日もゆっくりと休む前に

 プルプワはしばらく雑談をして事情を把握してから、『やれることをやっておく』というようなことを言って帰っていった。次に訪ねた時には、他の蜘蛛人とも会うことができるのかもしれない。

 こうなると後は、巨人たちに蜘蛛人の話を知らせて、森の拠点へ帰るだけだ。

 今回の遠征もこれにて終わりである。


「そういえばアル、プルプワさんには手合わせしろって言わなかったね」


 地面に降りて眠る前に、コリンがアルベルトに話しかける。

 火に当たりながらぼんやりと考え事をしていたハルカも、なんとなくその会話が気になって耳を傾けた。


「しねぇよ」

「巨人とかにはしてたじゃん」

「あれはでかいだけで同じような形してんだろ。でも蜘蛛人ってどうやって戦うかわからねぇし、加減具合もわかんねぇだろ」

「あー、なるほどねー。…………そういえばアルって、ガルーダとか花人とも訓練しなかったよね? それも同じ理由?」

「あいつらと戦っても、学ぶ物少なそうなんだよな。ガルーダは俺の方が強いからやんねぇ」

「ふーん?」


 確かに花人も蜘蛛人も、武器を振り回して戦うタイプではないから、直接攻撃をあてることになる。

 本人は自覚していないようだが、アルベルトは意外と女性には優しくて、相手から喧嘩を売ってこない限りは手を上げることは殆んどない。

 実力の拮抗している仲間だったり、カナのように自分より明らかに相手の方が強いとなれば話は別だが。


 それ以外にも、花人や蜘蛛人に関しては、おそらくハルカたち相手に戦う力を見せたくないと思っているのも、無意識のうちに察しているのかもしれない。訓練相手を断ってくる者の中にも、ただ面倒くさいから嫌がるタイプもいれば、手の内を見せたくないから断るタイプもいるということだ。

 例外として、カーミラのようなパターンもあるが、あれは最初に敵であったため、その時点でたがが外れているだけだろう。


 アルベルトが本能的にそれらを察しているのだとすれば、案外面白い話であった。


「僕にはさんざん訓練相手しろって言ってきたけどね」

「イースは強いからいいだろ。面倒くさがってるだけだし」

「しつこいからね、アルは。勝つまでやろうとするし」


 なんだかんだで、アルベルトは剣だけでもイーストンに勝ったことがほとんどない。線が細いわりに半分吸血鬼であるため力が強く、本気になるといわゆる闇魔法と呼ばれる相手の感覚を狂わせる魔法も使うことができるイーストンは、一対一の勝負においては相当に強い部類だ。

 謙遜することが多いが、間違いなくまだまだ隠している手がある。


「イースってどこで剣術習ったんだよ」

「地元。うちの父は相当に強いんだけど、国民の中には父が昼間は多少弱くなるからと、近衛みたいに城を守ってくれてる人たちもいるんだ。僕の国には過去凄腕の剣士が流れ着いたことが幾度かあるみたいでね。それを体系化してまとめたものが、近衛の人たちに受け継がれてる。旅に出たいと伝えたら、その人たちに皆伝を貰うまでだめだって言われて、随分と長いこと剣術を学んだから」

「長いことってどんくらいだよ」

「みっちり四十年くらい?」

「うげ……、四十年か……」


 人だったなら十歳で始めても五十歳。

 剣にささげた人生と評してもおかしくないほどには長い期間である。

 そりゃあ強いに決まっていた。


「そういえば、イースさんの家のお父さんって、過保護なんだっけ」

「そう。亡くなった母の若い頃に僕がそっくりでさ。たまには顔を出せってうるさくて」


 千歳を超える吸血鬼と、もうじき百にもなろうという息子だが、親子という関係には変わりないらしい。呆れたような口調であるが、そこからは身内の愛情のようなものがにじみ出ていた。


「仲がいいです」

「……まぁね」

「行ってみたいです、イースさんの国」


 話を聞いてモンタナはイーストンの故郷を想像していた。

 吸血鬼の王と、人々が穏やかに暮らす国。

 イーストンから聞く故郷の島は、それなりに広く、豊かで、千年の間戦もなかったらしい。

 故郷のことを語る時のイーストンが纏う魔素の色は、いつだって麦穂のように穏やかな色をしていた。


「意外だね。でもそう言ってもらえて嬉しいよ」

「きっと良い所です」

「夜光国、でしたっけ」

「そう。ハルカさんが好きな稲も育てていてね。まぁ、寒い地域だから、あまり盛んではないけど。城はせり出した崖の下に作られているんだ。島の東側に山があって、内側にかぶさるように伸びている妙な崖があってね。そこから西海岸へ向かう間にずらりと町や村、それに畑がある。大陸の人たちも、うちと同じように、種族のこととか気にせずに穏やかに暮らせるのが理想だね……」

「そうですねぇ……」


 そんな話になれば、イーストンがハルカたちと一緒にいるのはさも当然のことであった。

 イーストンは、まず人里で悪さをする吸血鬼退治をして、少しずつ評判を良くしていこうという、先の見えないやり方をしていた。

 はじめのうちは成り行きで。

 それから、バルバロ以来初めての、イーストンの出生を知ったうえで仲良くなってくれた友人として一緒にいた。

 そして今は、いつか種族間の争いや差別のない穏やかな世界ができるのならば、それはきっとハルカのいる場所だろうとイーストンは思っている。数奇な縁であるが、イーストンはこの仲間たちと出逢えたことに感謝していた。


「ま、やれることから少しずつね」


 イーストンは横目でチラリとハルカを見やる。

 夜光国の景色を想像しているのか、ぼんやりと火を眺めて首をかしげているハルカは、中身を知っているといかにものんびりとしたとぼけた姿だ。

 だがそれでも、イーストンにとっては頼りになる、他にはない価値観を持つ仲間の一人であった。


漫画の三巻が11/7発売ですよー。

もうすぐですよー!

皆予約してねしてねしてね! 私は献本で先に読みました!!

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― 新着の感想 ―
マンガ版の3巻はすでに予約済み!
うーーん。何百年掛かるのかなあ…って思っちゃうなあ(・_・;
きっとハルカは、まだ見ぬ夜公国(のごはん)について思いを馳せていたのでしょう... 夜公国のお米...屋台...
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