似ているところ
「……やけにあっさり否定するじゃない」
「他でも言われたことがありまして、よく似ているのは知っていました。繋がりは今ひとつわからないのですが、少なくとも私はそんなに昔から生きていません」
「なるほど……、しかしそれだけ似ていてその力、まるで関係ないとは思えないけどね」
雰囲気がまるで違うからか、老アラクネはあっさりと納得したが、それでもハルカとゼストの関係性は疑っているようだった。そうであればすっきりと説明がつくことが多いのだから仕方がない。
「あなたも……、あのお名前うかがえますか? 私はハルカというのですが」
「プルプワだよ。こっちで隠れてる孫はルージュ」
「ありがとうございます。プルプワさんも、ゼスト様に会ったことがあるのですね」
「もう千年近く前になるけどね。この辺りの森がわけのわからない魔物であふれた時、洞穴で隠れていたのを助けてもらったことがあってね。まだ私がルージュよりずっと小さな子蜘蛛だった頃だけど」
指で小ささを表現しているようだが、プルプワは全長が大きすぎて距離が遠いので、それがどれほどの大きさかはわからなかった。
「なるほど……やはりその時期、ゼスト様はこの辺りをうろついていたようですね。実は少し北東へ行ったところに住んでいる、花人たちも、その頃にゼスト様に救われているのだそうです」
「まぁ、あの方ならするでしょうね。この辺りの蜘蛛人が全滅するのが嫌だったんだって。わけのわからない魔物は人族が生み出した者らしくてねぇ、ぶつぶつと文句を言っていたのを未だに覚えてるわ。親しみやすい方だった」
「それ以降はお会いしていませんか?」
「そうだね、会ってない。でも不思議とお元気なんじゃないかって気はしているね」
気さくにフラッと現れるタイプの神様なのだろう。
当時ここに来たのは目的があったようだが、聞く限り、そういうタイプであることは間違いない。
「それよりハルカは花人と接触したってこと?」
「あ、はい、そうなんです。ここから東や北に住んでいるお話ができる種族とは、ほとんど接触を済ませています。皆さん穏やかに暮らしていらっしゃるので邪魔するつもりはないのですが、成り行きでそのまとめ役をしているところです」
「……それは巨人もってこと?」
「はい、巨人もです。他の喋ることのできる種族は食べない、というのを一応ルールとして定めてます。あと仲間内では殺し合いをしないとか、できるだけ協力するとか」
子供のおままごとのようなルールであったが、逆にいえば単純で分かりやすい。
「それを巨人どもが守ってるって?」
「はい、特に問題なく」
「ということはハルカ、あんた巨人の首領たちに勝ったんだね」
「ええ、まぁ、はい、そうですね」
プルプワは目を伏せて、突然現れたハルカという人物と、これからどうして付き合っていくかを考える。
今の森は安定している。
大型の動物や魔物がいるお陰で食料は豊富だし、森の中だけで限定して言えば、アラクネは生態系の頂点である。唯一面倒くさいのは巨人たちが元気に遠征してきたときぐらいだが、今のところ撃退には成功し続けている。
ところで、この森にはプルプワほど長生きをしている蜘蛛人はいない。
ルージュは知らぬことだが、この森に棲む全ての蜘蛛人が実はプルプワの一族だ。
蜘蛛人というのは、子を産む前後には気が立つものなので、それによって身内同士で殺し合うこともある。プルプワは仕方のないことだと割り切っているが、一族に示しがつかないため、そういった者は、落ち着いてから本人にしかるべき説明をしたのちに、自分の縄張りから追い出すようにしている。
ルージュにそれを別の一族だと伝えているのは、いざ争いになった時に遠慮して殺されてはたまらないからだ。自分に従っている子たちを守るのは、プルプワの義務である。
ルージュはプルプワのことをおばあちゃん、と呼ぶが、実際は随分と世代が離れていた。だからいざ号令をかければ、この森の蜘蛛人がプルプワの言葉に耳を傾けるくらいのことはするはずだ。
それが出産前後だと話は変わってきてしまうのだが。
「まとめ役というのはどんな立場なの?」
「王、ということになっています」
「……そう」
そうなると生活が守られるのならば、わざわざ敵対する必要はない。
何かを要求してくるわけでもなく、通った時に襲わないでね、と言っているだけだ。王という割にはとぼけた話だが、ゼストも神という割にはとぼけていた。似ていると言えばよく似ている。
「それで、王様は私たち蜘蛛人は、王国の住人に誘ってもらえないのかしら?」
「え? ……あの、協力していただけるんですか?」
「それは話次第だけど、誘われないって言うのも何か仲間外れみたいで嫌じゃないの」
ツンと顎を上げて拗ねたような顔をしてみせると、ハルカはへにょりと眉を下げて困ったように笑った。
「さ、どんな風に勧誘してくれるの?」
「あの、なんというか、これまでは成り行きだったり、喧嘩になって倒したりで、実は積極的に誘ったことがあまりなかったんです」
「…………なんか言ってることが平和な割に野蛮じゃない?」
「いえ、本当に成り行きで、私は争いとか好きじゃないんですが……」
これだけ孫娘のことを追いかけ回してやってきて、何の冗談とプルプワは思う。
しかし逆にそれが面白くなってきて、プルプワは声を出し、体を揺らして笑ってしまった。





