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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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変な奴を連れて帰っちゃ駄目って言ったでしょ!

「縄張りに来た知らない奴は確認するってことになってたじゃん!」

「どう見たって変な奴じゃないの! そういうのたまにいるんだからほっとけって言ったでしょ! 特に人型は昔も来て、あんたのお母さんも喧嘩売って殺されかけてるんだから!」

「だって! 竜とか連れてたし!」

「だってじゃないの!」


 身内らしい言い争いの中に、時折物騒な話も混ざっていたが、変な奴呼ばわりされたハルカは静かに悲しみつつ傍観を続けていた。


「ホントにあんたはもう……、流石に腕以外は動かせないようだからいいけど……」

「でもあの人、糸燃やせるけど……」

「自分ごと燃やしたりはしないでしょ、さすがに」

「どうだろう、なんか得体が知れないしわからない」


 酷い言われようであるが、とりあえず身内の会話は終わったようなので、ハルカはそろそろ大丈夫かと口を開く。


「あの、ちょっと相談に来ただけなのですが」

「何よ」

「とりあえずまずは、先ほど仲間が来て驚かせてしまったことを謝罪します。お話の途中で申し訳ありません」

「……別にいいけど」


 最初にハルカの相手をしていたアラクネは、そそくさと祖母の足元に隠れるようにして引き下がっていった。もうハルカの相手はあまりしたくないようだ。


「そのうえでもう一度お話をさせていただきます。私は近頃この辺りを竜に乗って行き来している者です。通行時に捕食されては余計な問題になるということで、あらかじめそうならないようにお願いをしに来ました」

「ほう……、意外に話ができるじゃない。あたしたちはね、一族にさえ危害を加えられなきゃなんだっていいよ。お互い様でしょ?」


 がさり、と木の幹ほどもある足を僅かに動かし、大きな老アラクネが答える。


「はい、そういうことになります。あなた方以外にも家族があると聞きまして……。できるならそのすべてと話をしておきたく、お力を借りられないかなと」


 この一族だけと約束しても、いざ何かあった時に、うちは知らないでは話にならない。ごまかしがきいてしまう状態のまま放置はしておけなかった。

 森に棲むアラクネすべてに話を伝えて、駄目そうな一族がいるならば、そのエリアには立ち入らないくらいの準備は最低限必要だ。


「最近じゃ縄張り争いもなくて穏やかなんだけど……。そっちで勝手にやってもらうわけにはいかないの?」

「でしたらとりあえず、皆さんの一族が今の話を約束してくださるのなら、その縄張りの範囲を教えていただけませんか? そこ以外は私が自分で当たりますので」


 ハルカが譲歩すると、話をしている巨大な老アラクネは首をかしげて訝し気にハルカに尋ねる。


「お前、そんなぐるぐる巻きで余裕そうに話しているけど、実は案外余裕がなかったりするの?」

「どういうことでしょう?」

「その状態から、逃げ出せないのか、と聞いてるのだけど」


 月明かりに照らされて、老アラクネの目が赤くぎらぎらと光る。

 ハルカはその問いの意図をわからぬまま、ずぼっと左腕も出して、顔にかかっている糸を両手で上下に引っ張ってよけていく。


「いえ。声が聞き取りにくかったでしょうか?」


 粘着質なところがあるので、ちゃんとはがして髪の毛が抜けないかがちょっと心配だ。丈夫であるし、抜け毛を見たこともないので大丈夫だとは思っているが、流石に力ずくでやるのはどうかなと思う。


「……いいや、聞こえていたよ。もういい、分かった、もういい」


 老アラクネからすれば、強がっているだけならばこのまま外へ放り出して二度と来るなとしても良かったが、易々と動かれてしまっては話は別だ。

 今の行動から戦う気がないというのが、本当のようであることもわかってしまう。

 自然体というか、そもそもハルカが自分のことを現状敵として認識していないことが伝わってしまったのだ。そうなってくると、老アラクネの方もどうも構えているほうが馬鹿らしくなる。

 本来の質問の意図すら伝わっていないようなぼんやりした雰囲気を、この老アラクネは似て非なるものとして知っていた。


「あの、一応お尋ねしておきたいのですが、この糸のべとべとを上手くはがす方法はあるでしょうか?」

「さぁ、水浴びでもすれば取れるんじゃない?」


 場合によっては糸が収縮して締め付けられて危険なのだが、ハルカの怪力具合を見て、どうせ自分の糸くらいでハルカの体が傷付けられることはないだろうと、老アラクネは適当に答える。


「そうですか、ありがとうございます」


 言った途端にハルカの頭上に大きな水球が出現して老アラクネはぎょっとする。

 空を飛んでる時点でわけのわからないものと思っていたが、普通に魔法を行使してくるとは思ってもみなかった。

 さっさと川の方に行って水浴びでもしないかと思っていたが、どっちにしろこの場に残るというのならば話は別だ。


「やめな、とってやるから」

「あ、ありがとうございます」


 ぬっと、太く長い足が伸びてくる。

 その先端は鋭く、人体など容易に貫きそうなほどであったが、ハルカはその場で身じろぎせずに待っていた。

 それを見て老アラクネは改めて呟く。


「まったく、ホント変なの連れてきて……」

「だから勝手についてきたんだってば……」

「言い訳しない! ホントにもうこの子は……」


 文句を言いながらも老アラクネは足を上下に動かすと、爪の先端を糸に引っ掛けて綺麗に切り裂いていく。

 それからもう一本の足が伸びてきて、丁寧に糸を左右に開いていくと、ぺりぺりと音がして、思ったよりもすんなりと糸がはがれていった。そうして地面にポトリと落ちたのは、ハルカを形作ったような蜘蛛の糸でできた繭のようなものである。


「これでいいんでしょ」

「はい。ありがとうございます」

「……待ちな、お前……、いや……、……ゼスト様……?」


 どうやらここにもゼストは訪れたことがあるらしい。

 小さなアラクネの方は不思議そうな顔をしていたが、老アラクネの方は全ての目を見開いて、完全に動きを止めてしまっていた。


 ハルカは誤解があってはいけないと思い首を横に振って答える。


「あ、違いますよ。ゼスト様ではないです」

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― 新着の感想 ―
このおばあちゃんもゼスト様に助けられたクチかな?
ゼスト様、ほんと自由に動いていたんだな。もしくは動かざるえなかった?
静かに悲しむハルおじ…w
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