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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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アラクネ

「あー、あと、俺たちはこっちで適当に調査してるから、また来ることがあったら寄ってくれよ。あ、あと〈アシュドゥル〉の街から回収した遺物、触るなよ! どんな効果あるかわからないから、森の拠点の方に保管しておいてくれ! あと、えーっと……」

「そんなとこだ、いつまでもしつこいからもう行っていい」


 いつも同じメンバーで活動してきたせいか、別れ際に何かを言う機会が少なかったのだろう。急に心配になってぎりぎりになってからあれこれと言い出したヨン。

 あまりにしつこかったからか、その前にジーグムンドがぬっとあらわれて視界を遮り、既にナギの背の上に乗っているハルカたちにさっさと出発するよう促した。


「はい、ではまたそのうち。分かったことがあったら教えてください」

「おー、任せとけ! あ、あとな、南方大陸に行くときは教えてくれ! 一度行ってみたい! あと」

「行け」

「この、なんで持ち上げんだよ! 放せって!」

「はは……、ではまたそのうち。ナギ、帰りましょう」


 ヨンがジーグムンドにぶら下げられている間に、ハルカもそろそろかと思いナギに声をかけて出発する。ガルーダとラミア、それに人に小人が手を振っている景色を見ながらハルカは笑う。

 少なくとも、今ここは、他種族が共生できる平和な場所だ。

 それが目に見えることが、ハルカには嬉しかった。



 山脈を越えて、いつもの森の辺りで降りて辺りを見渡す。

 すでに夕暮れ時だが、

 ここでは二度ほどアラクネと思われるものと接触している。

 それでも場所を変えないのは、ハルカが積極的にアラクネと接触するつもりがあるからだ。

 今回戦えるメンバーばかりを連れてきたのもそのためで、少しでも動きがあれば上空から追いかけていくつもりである。


 二度の接触で攻撃まではしてこなかったのだが、逆にいえば相手の力量を測って引くほどに慎重で、賢い相手というわけである。どこかできちんと話をしておかないと、不意を突かれて誰かが犠牲になる可能性がある。

 危険はあらかじめできる限り排除しておくべき。

 〈アシュドゥル〉の街で学んだこともあり、今回のハルカは珍しく積極的に行動に出ているというわけである。


 アラクネが使う糸は、粘着質で丈夫。

 その上何らかの偽装が掛けられているためか、モンタナの目をしても見つけることができない。作戦としては、見つけ次第ハルカが追跡し、残りは地上から慎重にハルカの跡を追いかけるような形になる。


 モンタナやレジーナの目からは、ハルカが空を飛んでいる際に発せられる魔素の輝きがよく見える。

 多少木々に隠れてもその位置を把握することは難しくない。

 

 いつも通りにたき火をして、のんびりと食事。

 その段階ではまだアラクネに動きはなかったようだが、訓練を終えて就寝の準備に入ったあたりで、モンタナが南の空を仰ぎ見た。

 モンタナの目にはアラクネの糸自体は見えないが、糸が生成されて吐き出されることによる魔素の動きは見えている。それが木々に絡まり、アラクネが飛び移るところを確認。

 すぐ隣で待機していたハルカに、小声で居場所を告げた。


「追います」


 ハルカはすぐさま空に飛びあがる。

 それを確認したのか、がさり、と木が揺れて大きな影が即座に撤退を開始した。

 木々の隙間を飛びあがる途中に、体に糸がまとわりついたが、ハルカは一切気にせずにそのまま空へと移動して、粘着性のある糸を切りながらアラクネと思われる影を追いかける。

 影は一つ。

 上半身は人より少し大きく、下半身にはふわりと膨らんだスカートのようなものを纏っている。よく観察してみれば、腕も四本生えているようで、まさに聞いていたアラクネの姿であるように思えた。


「戦う気はありません、話がしたくて追いかけています!」


 ハルカは上空から語り掛けるが、アラクネからしても空を飛ぶわけのわからない人族の言うことなどいちいち聞いていられないのだろう。次々に糸を吐いては、高速で飛び回っていくのだが、ハルカとの距離はいっこうに広がらない。

 追いかけっこはせいぜい数分のことだった。


 がさりと、アラクネが地面に降りたのを確認して、ハルカも見失わないように高度を下げて追いかける。枝にぶつかることを覚悟していたが、どうやらこの辺りは普段からアラクネが行動をしているためか、比較的開けており、その後ろ姿を追いかけることも容易かった。


 木々を飛んで移動しなくても、どうやら四足歩行で移動しているらしいアラクネの移動速度は速く、普通の人であれば逃げることは困難だろう。どのスペックを見ても、破壊者の中でもひときわ能力が高いことが分かってしまう。

 やはりお互いに知らない顔をしたまま放っておくには危険だ。

 糸の強度を考えれば、連絡手段として行き来している中型飛竜だって捕食できそうだ。少なくとも、同じく破壊者であり希少な存在である花人アルラウネは、中型飛竜くらいならば撃退できそうなことを言っていた。

 

 見失うわけにはいかない。

 そのつもりでまっすぐに飛んで追いかけ続けたハルカは、不意にアラクネがまた上に飛びあがったのを確認して、追いかけるようにして浮かび上がる。

 またも体に糸が絡みついてきたことに気づいたハルカは、一度それが切れるまで高高度まで飛んでから、炎の塊を生み出して、糸のあるあたりにポイっと投げつけた。


 ぼっ、と見えなかったはずの糸が燃え上がり、それが一斉に辺り一面に広がっていく。ハルカはすぐに炎の塊を消したが、一度ついた火は、繋がっているアラクネの糸を全てたどって燃えていく。


「はぁ!? ちょっ、もう!」


 木の上から声がして、身を潜めていたアラクネが慌てた様子で、燃えていく巣の一部を切断していく。すべて燃え広がる前に対処しなければということなのだろうけれど、ハルカを前にしてその対処はあまりに無防備だった。

 不可視の風の刃が上から下へ放たれ、燃えている糸が無事な糸からぶつんと切断された。刃を放ってすぐに移動を開始していたハルカは、慌てて姿を現したアラクネの目の前でぴたりと動きを止める。


「こんばんは、お話を」

「何なの、お前……」


 アラクネは森では圧倒的な強者であるはずの自分が、わけのわからないものに追い詰められている現状が理解できなかった。四つの足を縮め、いくつかある赤い瞳を泳がせながら、仕方なくハルカとの会話に応じる――。

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― 新着の感想 ―
黒船ペリー扱いされててワロタ
「‥オハナシ‥シマショウ‥」 アラクネ一族に伝わる恐怖の呪文として伝承されていったのはハルカは知る由もない みたいなことになりかねませんね
感想欄の大喜利がかつてないほど高レベルw
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