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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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コボルトたちの住居跡

 港での話を終えると、ハルカたちは早々に東へ向けて旅立つ。

 ナギにできるだけ早く飛んでもらって、リザードマンの里を越え、山の上で一泊。

 今回の遠征で、ハルカはまず、ヨンにコボルトたちが住んでいた平原の辺りを案内するつもりだ。

 そこに至るまでにリザードマンたちや他の破壊者と接触するつもりはない。

 あそこならば畑もあるし、コボルトたちがかつての住処としていた遺跡もある。ヨンだけではなく、彼らの興味を引くには十分だと考えていた。そこで改めて【竜の庭】と〈混沌領〉の状況について説明し理解してもらう予定である。


 意味もなく驚かすよりも、その方が説得力もあるだろう。

 そのためにやや不便ではあるが、こうして野宿をするわけである。

 現場に到着したら事情を説明すると言って、まだ大したことも話していないというのに、ヨンたちも良く疑わずについてきているものだ。

 今更引くわけにはいかないのだろうが、彼らもまた冒険者ということなのだろう。


 翌朝早くに出発し、夕暮れにはかつてコボルトたちが暮らしていた平原に到着することができた。

 世話をするものがいなくなってしまった畑は、やや荒れてしまっていたが、今でも十分に作物が生っており、野生動物がうろついている様子もあった。

 ナギの大きな影が落ちるとそれらは一斉に慌てて逃げ出していってしまったけれど。


 少し離れた場所へ降りると、ヨンたちは辺りをきょろきょろと見まわす。


「へぇ、なんだここ。誰か住んでるのか……?」

「いえ、少し前まで住んでいた、が正しいですね。さて、ついて来てください。ナギはちょっとお留守番をお願いしますね。今日はここに泊まるので、あまり遠くへ行かなければうろうろしててもいいですよ」

「へぇ……、〈混沌領〉に畑か……」


 ナギの首には赤い布に金色の竜が刺繍されたスカーフがついている。

 これがついていれば、とりあえずは巨人たちや身内の破壊者から勘違いされることはないはずだ。

 そうでなくともナギほどの大きさになると、いくら破壊者であっても迂闊に喧嘩を売ってきたりはしないけれど。


 畑の端を歩き、コボルトたちが放棄していった穴の辺りまでたどり着いたところで、ハルカは足を止めて振り返った。


「ここで話しましょう」


 畑は途切れて、辺りには小さな切り株がいくつか転がっている。

 昼間には恐る恐る出てきたコボルトたちが、ここで日向ぼっこでもしていたのだろうと考えると微笑ましい。

 野営と食事の準備を終え、火を囲んで食事をしながら、ハルカはようやく話を始めることにした。


「ヨンさんはもしかすると、もう察しがついているかもしれませんが……、ここにはかつて千人ほどのコボルトが暮らしていました。畑を耕し、そこの穴、見えますか? その中を住居としていたのです」

「へぇ……、コボルトって畑仕事とかするんだな」

「はい、します。教えてあげればですけれど」

「……教えれば?」

「はい、そうです。以前ヨンさんはお父さんのことを話してくれましたよね。あれ、他の皆さんにも話してくれました?」

「ああ、話してある。普通に受け入れてくれたしな」


 仲間に入る以上、その辺りの話もヨンの他の仲間たちと共有しておくようお願いしておいたのだが、その辺りはきちんとやっておいてくれたらしい。


「そうですか、良かったです。では隠さずに話しますが、私はヨンさんのお父さんが到着した穴倉というのがこの場所だと考えています。長年指導者がいなかったにしては、やけにしっかりとした畑があるなとは思っていたんです。それに彼らは、ヨンさんが武器として使っているそれを大量に保持していました」

「え!? これ、使えんのか!?」

「はい、魔素砲と言います。コボルトに限り、使用できるよう設計されている武器なんです」

「そうか、そうだったのか……。……もしかしてお前ら、そのコボルトと戦って滅ぼした、とか言わないよな……? 武器の詳細とかも知ってるし……」


 ヨンは長年の謎の答えを聞いて感動していたようだったが、少し考えてから目を泳がせ、恐る恐るハルカに尋ねる。

 今の話し方だと確かに勘違いされても仕方がない部分はあった。


「まさか、みんな元気ですよ。そのことも含めて話をしましょうか」

「ホントか? 千人もいたんだろ? どこ行ったんだよ。怒ったりしないからちゃんと教えてくれ」

「本当ですって。あんなにかわいらしい子たちを殺したりしません」


 つい本音が出たハルカだったが、横にいたイーストンに「ふっ」と笑われて、咳ばらいをする。


「〈混沌領〉の東端には〈ノーマーシー〉という街があります。彼らは今そこで農業をしながら暮らしていますよ」

「街……?」

「はい、街です。破壊者たちが共同で生活している街があります。主な住人はコボルトですが。そして私は今、その街を含めて、〈混沌領〉のいくつかの地域に住む破壊者たちをまとめる役割をしています。つまり、一応王様です。もちろんこれは各国には知られていませんし、隠さなければならない事実ですが」


 ヨンたちがシーンとなってしまい、ハルカは気まずくてさらに話を続ける。

 この話をするときはいつだってちょっと気が乗らないし、上手くいかない。


「一応私を王として認めてくれていたり、協力してくれている破壊者は、リザードマン、ハーピー、巨人、コボルト、ケンタウロス、人魚、花人アルラウネ樹人ドライアード、ガルーダ、ラミアです。越えてきた山の手前にあるリザードマンの里や、混沌領の南半分と東部、それから北の中央部付近。この辺りに住んでいる破壊者とは概ね手を組んでいると考えていただいて大丈夫です。明るくなったら地図を描いて大体誰がどのあたりに暮らしているかも説明しますね。もし見たいのならば、〈ノーマーシー〉もご案内します。…………あ、あと、このコボルトたちが暮らしてた穴の中、遺跡になっているそうです。もし気になるのなら、あの、調査とか……」


 あまりに反応がないので、不安になってきて最後に情報を付け足すハルカ。


「遺跡なのか」


 反応したのはヨンではなくジーグムンドだった。

 言葉通り何が飛び出してきてもおかしくないと本気で思っていたジーグムンドだけは、素直にハルカの言葉を受け入れたらしい。


「お前さぁ……」

「気にならないのか?」


 ヨンが呆れたようにジーグムンドを見上げるが、きわめて平静に言い返される。


「なる、なるけど、今はお前……。……なんか腹立ってきた、なんでお前そんな冷静なんだよ、おい」


 考えているうちにイライラしてきたのか、ヨンは左の拳でジーグムンドの腕の辺りをバシバシと叩くが、サイズの違いがありすぎて、ジーグムンドの体は当然びくともしなかった。

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― 新着の感想 ―
ジーグムンドすごいw
王と言えたら次は帝王宣言ですかね リザードマン超えたのは王宣言回避かと思ったけどw えらいえらい
最初からストーリーを追えてる読者目線だから違和感ないけど、自分が最初からこの世界に生きてて、物腰の柔らかそうな女性からこんな暴露されたら狼狽えると思うw自分より強い女性とはいえ そう思うとジークムン…
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