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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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強めの交渉(当社比)

「ヨンさんは……、コボルト、いえ、破壊者ルインズと対話できると考えているということでしょうか?」


 咄嗟に出てきたハルカの質問は、緊張のあまり詰問するような雰囲気を纏っていた。 

 いつもだったらば、誤解を生まぬようにいくつか言葉を付け加えるところだったが、ハルカはそこでぐっと言葉を飲み込んで、そのままじっとヨンを見つめる。


「……遺跡探索で小鬼を見たことがある。まったく話が通じる気配はなかった。だから、全部の破壊者ルインズが話が通じるとは思ってない。でもな、遺跡にはたまに、人と破壊者の両方が同時期に街に暮らしてた形跡が見られるんだよ。特にコボルトにはそれが多い。でも勘違いしないでくれ。俺は真実が知りたいだけで、これを言いふらして〈オラクル教〉とわざわざ敵対するつもりなんかはない」


 ハルカの強気な言葉に、もしかしたらやはり〈オラクル教〉の関係者なのではないかと疑ったのだろう。最後にはきちんと言い逃れまでしてくれた。

 ただ、これでヨン自身が破壊者に対してある程度理解があり、強い敵意を抱いたりもしていないことが分かる。


「……それはチーム全体としての考えですか?」

「そうだ」


 ヨンが頷き、視線を向けられたジーグムンドも頷いて同意する。


「……話は分かりました。拠点を一時的にお貸しすることは構いません」

「そっか、助かる」


 どうやら〈オラクル教〉関係者ではないらしいと分かったからか、ヨンは少しばかりほっとした様子で苦笑した。

 まずは第一段階はクリアだが、まだまだハルカの言葉は続く。


「それから……、遺跡について私が個人的に色々と興味を持っていることは事実です。ヨンさんもそんな私が相手だからこそ、腹を割って話してくれたのでしょう。だから私もヨンさんの要望について、真面目にお答えします。もし、今の関係のまま〈忘れ人の墓場〉や、〈混沌領〉についての調査をしたいようであれば、私は拒否します。森の拠点には現状仲間以外を安易に踏み込ませたくありません。特に〈混沌領〉を刺激するような意図がある方はお断りです」

「……それは、そうか。でもそうなると、俺は一生〈混沌領〉の調査に行けないことになる。小人はダークエルフよりずっと寿命が短いからな」


 ヨンの中に、【竜の庭】と敵対してまでも侵入するという考えはない。

 遺跡の中で見たハルカの力は、明らかにヨンたちの実力を上回っていた。

 特級冒険者の逆鱗に触れるのがいかに危険なことであるかは、今回のギドたちの件でヨンもよく理解している。


「はい、事情が大きく変わらない限りはそうなります。ですから、私の方からも提案です。もし【竜の庭】に入って、活動を共にしていくというのであれば、調査の協力ができます。私も興味がありますから、多少の金銭の都合はできるでしょう。調査というのは、〈混沌領〉のことはもちろん、私たちが遠出する時に、そこに同行するなども含みます。ナギの背に乗せてもらえば、数日で南方大陸へお連れすることだって可能です」

「それは……」


 あまりに都合のいい話に、流石のヨンも飛びつくことができなかった。

 仲間に入れてくれて、あらゆる調査の手伝いをしてくれる。

 これまでとは比較にならないほど、調査の幅は広がることだろう。

 特級冒険者の拠点に拾得物を保管しておけるのならばセキュリティだってばっちりで、これまでのように頻繁に帰ってそれらの確認をしなくても済む。

 

「ただし……」


 当然のように続いた言葉に、ヨンは改めて気持ちを引き締める。


「ヨンさんが簡単に人には明かせぬ事情を抱えていた通り、私たちにもそれぞれ事情があります。それを受け入れて、他言せず、仲間であり続けてくれるというのならば、宿にお迎えいたします」

「……他言はしないから事情を教えてくれ」

「詳しくは話せません。ただ、聞けばヨンさんはきっと興味を持って受け入れてくれると信じています。話せるのはここまでです。知らぬ状態で仲間になると決意してくださらない限り、教えられません」


 かなりぎりぎりのラインのヒントである。

 好奇心旺盛かつ、ここまで本音を話して踏み込んできたヨンが相手だからこそ、ハルカにしては珍しい踏み込みである。


「ちょっとだけ待ってくれ……」


 ヨンもまた、数人の仲間の行く末を預かっての決断である。

 悩む時間は必要だった。

 良いことから悪いことまで、様々な可能性を考慮して、どうするべきか考える。

 その中にはハルカたちが既にコボルトたちと接触を持っているのではないか、という正解に近い想像も含まれていた。


 しっかり一分以上悩んだヨンは、やがて隣に座るジーグムンドの方を向いて問う。


「ジーグ、お前は……」

「もう話した通りだ。俺たちはお前の決定に従う。ハルカたちの傘下になることにも、宿に入ることにも異存ない」

「え? もしかしてそこまでは計画的だったんだ? 雨に降られてやって来たのも、計算ずくだったりする?」

「あー、そうだよ、半分はな! 遺跡で十分話し合ってから来たさ! でも雨が降ったのは偶然だから、半分は行き当たりばったりだ!」


 コリンの意地悪な質問に、ヨンはヤケクソ気味で答えてから、もう一度ジーグムンドを睨むように見つめる。


「分かってんだよ、それは。分かった上でお前の意見をもう一回聞いてんの!」

「……俺の意見か」


 ジーグムンドは腕を組んで目を閉じて十秒ほど思案し、そのままの姿勢でおもむろに口を開く。


「俺は生きるために冒険者をしてきた。だから、お前と初めて出会ったとき、変な奴だと思った」

「その話いま関係あんのか」

「それから、面白そうだと思った。……ハルカたちを初めて見た時も、変な奴らだと思った。そして今は……、面白そうだと思っている」

「そうかよ。……決まりだ! 俺の仲間は、遺跡調査が好きで、知らないことを調べるのが大好きな奴ばっかりだ。どんなに高価な遺物を見つけようとも、俺の意見をちゃんと受け入れてくれて、勝手に持ち逃げしたりもしない欲のない奴らだ。ハルカ、俺たちを【竜の庭】に入れてくれ!」


 椅子から飛び降りるようにして立ち上がったヨン。

 ハルカも腰かけていたベッドの端から立ち上がり、テーブルを挟んでヨンと向き合って右手を伸ばした。


「無茶な要求をしてすみませんでした。どうぞよろしくお願いします」


 握手をしたヨンの手は小さかったが、その見た目や形に似合わず、ごつごつとしていた。それは一人の頃からつるはしを握り、ひたすらに遺跡を探索してきた、遺跡冒険者らしいしっかりとした手であった。

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― 新着の感想 ―
お留守番組「まーたハルカさんが住人拾ってきたよ(微笑)」
次回は情報の洪水で溺れさせるターンがくるのか
これで混沌領の大部分を(名目上でも)治めてます、古代文明の魔道具を開発していた生き残りと知り合いですって明かしたら、ヨンは叫ぶだろうなぁ。防音効果のある結界を掛けてヨンを閉じ込めないと……。うるさくて…
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