遺跡調査で分かること
「……見つけた遺跡の調査は大丈夫ですか?」
「しばらくは俺たちに優先して調べる権利がある。それに、めぼしい遺物はすべて回収したつもりだ。ハルカがアンデッドたちを一か所に集めてくれたおかげで、回収は簡単だった。調べてみた限り、あそこが墓だったことは確定してるし、埋まった図書館や役所みたいな資料はないと思う。そうじゃなきゃ俺もこの街離れようとは思わないし」
ヨンは返事をしてからしばらくハルカの顔を見て、それから他の仲間たちの表情も見ながら口元に手を当てて考える。
「…………【竜の庭】は、〈忘れ人の墓場〉に拠点を構えているんだよな?」
「ええ、そうです」
ヨンは探るような目をしながら、慎重に言葉を選んでいるように見えた。
「〈暗闇の森〉には入ったことあるか?」
「それは……何か意味のある質問ですか?」
段々とハルカたちの秘密に迫ってくるヨンの質問に、ハルカは少しばかり表情を曇らせて問い返した。
「いや、答えたくないならいい。あの辺には遺跡がたくさんあるって話しただろ? ……俺の父親はさ、あっちの方も調べてたっぽいんだよ。アンデッドがたくさんいるってことは、かつて人が住んでいた都市があるはずだ。〈忘れ人の墓場〉には、必ず都市があったはずだ、ってな。って言っても地上の調査をするだけで、遺跡発掘までは至ってなかったみたいだけど」
ヨンがやたらと拠点を掘らせてくれと言っていた理由が分かった。
多分ヨンは、父親が期待しつつも調べられなかった遺跡探索の続きがしたかったのだ。
それにしても、まだまだアンデッドがはびこっていた頃のあの辺りまで探りに来ていたとは、相当腕が良く、そして好奇心旺盛な冒険者だったようである。
「ゼロイドは遺物には興味があったけど、父親が残した資料には興味がなかった。ジルさんが残ってた資料を俺のために集めておいてくれたんだ。いくつか抜けてたっぽい歯抜け資料だけどな。だから俺は、〈混沌領〉のぼんやりとした地形とかも知ってる。あまり人に見せたことないけど、その辺の資料を見せてもいい。あんなとこに拠点を持ってるなら、何か役に立つんじゃないのか?」
残念ながらすでに〈混沌領〉は散々うろついた後だが、確かに何も知らなければ、すぐ隣にある破壊者の暮らす土地の情報は重要になってくるはずだ。
ここまで話すのだから、ヨンも結構本気でハルカたちに協力を求めていることが分かる。
「そうなると結局、拠点の辺りは調べたいってことですか?」
「いや、まぁ、そうなんだけど。とりあえず遺物調べるあいだ、間借りさせてくれるだけでもいいし」
「でもあわよくばー、みたいな?」
「だから、それはそうだけど!」
コリンにさらに問われると、ヨンはヤケクソ気味に声を上げる。正直である。
「どうハルカ的には」
「まぁ、街の拠点使ってもらう分には」
「ま、ジーグムンドが手合わせしてくれるならいいんじゃね、な、レジーナ」
声をかけられたレジーナは、一瞬振り返ったけれど、ふんっと鼻を鳴らして窓の外を見る。一応手合わせに関しては興味を持ったらしいが、根本的にこの話はどうでもいいのだろう。
「ええと、……でもいくつかまだ気になることがあるので聞いてもいいですか?」
「ええい、この際だ、もう何でも聞け!」
「はい。では……、例えば遺物のことでしたら、〈オラクル教〉に相談したりしないのですか? 一応あそこは力で領土拡張とかはしないと思いますけど……」
ハルカの思い付きを聞いたヨンは、ものすごく嫌そうな顔をしてみせた。
何か問題があるらしい。
「知らないのか? 〈オラクル教〉は俺たち遺跡冒険者があまり好きじゃないんだよ。頭の固い連中ばっかりでさ、協力とかしてくれねぇの。オラクル総合学園では一応たまに買い取ってくれるんだけど、もーね、めっちゃ買いたたかれる。なんか遺跡に関する研究にあまり予算が割かれてないっぽいんだよな。そもそも〈オラクル教〉ってさ、あそこの図書館自体が遺跡みたいなもんだろ? だから俺たちみたいな胡散臭いのが見つけてきた資料とか受け付けないんだってさ! どうせ遺跡冒険者が提唱してる説が気にくわないから嫌がらせしてやがんだ! ……それはそうと、〈ヴィスタ〉の大図書館、何とかして入る方法ねぇかなぁ」
喋っているうちに他のことに気移りしてしまったらしい。
ヨンは最後には全く別のことをぶつぶつと話し始める。
「遺跡冒険者は〈オラクル教〉とあまり仲が良くないのですか?」
「まぁなぁ……。遺跡を真面目に調べてるとさ、千年前の戦争についての資料とかも見つかったりするんだよ。その中に〈オラクル教〉にとっちゃ都合の悪いものも混ざってたりしてさ……。俺たちも遺跡発掘の邪魔とかされたくねぇし、いつからか表立って言わなくなったんだけど……」
「ヨン」
愚痴るようにそこまで話してから、ジーグムンドにたしなめるように名前を呼ばれたヨンは、ハッとした顔をしてハルカたちを見た。
「……今のなし。聞かなかったことにしてくれ」
色々とぶちまけているうちに余計なことまで言ってしまった自覚があるのだろう。
もしハルカたちの中に熱心な〈オラクル教〉信者がいたら、と思い至ったらしい。
見ればわかることだが、窓の外を睨んでいるレジーナなんて、態度こそこんなだが常に修道服を身にまとっている。
勘違いしてしまうのも無理はなかった。





