話を詰める
事情は理解できたが、理由が分からない。
それこそ街の拠点を貸すくらいなら構わないのだが、そこからずるずると拠点の穴掘りに来られても困ってしまう。どうせ引き入れるのならば、ちゃんと彼らの人間性を把握して、いずれハルカたちではわからない遺跡についても調べてもらいたい。
だからハルカは、先ほどのジーグムンドに倣ってヨンに質問をしてみた。
「一般的に遺跡に潜る冒険者の方々は、遺物を売ったりしないのですか?」
「いや、まぁ、しないと金にならないからする。っていうか、それが目的で潜ってるやつの方が多い」
「ではヨンさんはなぜそうしないのですか? ただ発掘したものを大事にしているだけではなく、危険だからって話してましたよね?」
「……そりゃそうだろ。世の中には良くないやつも多い。悪人に凶悪な遺物が渡ったら、それだけでたくさん人が犠牲になる。俺は金儲けしたり、人殺しの道具を流通させるために発掘してるわけじゃない。ただ昔の暮らしを知りたいだけだ。便利なものがあればもちろん広まったらいいと思うけど」
もっともな理由だけれど、なぜそんな風に考えるようになったのかが見えてこない。チラリとハルカは横を見てみたが、モンタナは特に変わった反応をしていないので、嘘を言っているわけではないのだろう。
もともと遺跡調査できる仲間の候補として、ジーグムンドたちの名前は挙がっていた。
ただ、宿として複雑な事情を抱える以上、しっかりと精査はしておきたい。
どうやらしばらく話してみる限り、このチームの司令塔はジーグムンドではなくヨンだ。皆がヨンのことは雑に扱っているし、それぞれ意見は言うのだが、最終決定権のようなものはヨンが握っているような雰囲気がある。
「ハルカはさ、別にヨンさんたちに拠点貸すのは構わないんでしょ?」
「はい、街の方ならば。皆もそうでしょう?」
「まーね」
ハルカがコリンの質問に答えると、外を見ているレジーナ以外は頷いて答える。
「お金を払う、という話も別に……」
「じゃあ……!」
ヨンが身を乗り出したところで、ハルカは静かに首を横に振る。
「ただ、拠点を貸すのならば、危険なものを預かるのならば、もう少しあなたたちのことを知りたいんです。私たちが欲しいのは、お金云々ではなく信頼です。もう少しきちんと話をしませんか? どうせ協力をするのならば、お互いのためにも中途半端なことはしないほうがいいと思います」
「…………なんか、ちょっと変わったか?」
「はい?」
「いや、ついこの間までのお前だったら、もっとすんなり受け入れてくれそうな印象だったんだよな。中途半端か……、よし、わかった。そんなに真面目に話してくれんなら、俺だってその方が助かる。ちょっと場所変えようぜ、人に聞かれないような場所がいい」
ヨンは途中から急に真面目な顔になって、また少し雰囲気が変わった。
どうやらまだハルカの反応を窺いながら、交渉用の態度を調整していたらしい。
立ち上がったヨンは、まだ生乾きの服を数秒炎であぶってから身にまとい始める。
「ほら、ジーグも」
「俺もか」
「他の奴らはここ見といてくれよ。そっちが誰を参加させるかは任せる」
「分かりました、部屋へ行きましょう」
二人が服を着るのを待って歩き始めたハルカについていくのは、最初にパーティを組んでいた四人。最後尾に続いたアルベルトが、廊下へ入ってから、戻ってきてひょっこりと顔を出す。
「おい、レジーナも行くぞ」
レジーナは面倒くさそうにアルベルトを見てから、カツカツと床を鳴らして歩きだす。内容についてはどうでも良かったが、呼ばれてしまったし、どうせ雨が止む様子がないからと参加することにしたのだろう。
「またちょっと成長しましたかねぇ」
「あまり成長しすぎても潰れちゃわないか心配ですけどね」
残っているノクトが呟くと、エリがそれに反応する。
「潰れちゃうというのは?」
「ハルカってお人好しでのんびりしてるので。あまり気を張りすぎると疲れちゃうんじゃないかと思うんです」
「まぁ、そうですねぇ。しかし人が成長する時というのは、少しくらい無理をしないといけませんから」
「そうかもしれませんけど……」
不満そうな表情を隠そうともしないエリを見て、ノクトは「ふへへ」と笑う。
「まぁ……、ハルカさんの周りには、エリさんも含めてハルカさんに甘い人ばかりですからねぇ。少しくらい無理しててもぉ、皆が気にしてあげれば大丈夫でしょう。まったく、仲間に恵まれたものです」
「それを言ったら多分、ご自身の宿を放って、ずっとハルカのことを見てあげているノクトさんもかなり甘いと思いますけれど……」
「ハルカさんの周りにいると、色々と面白いのでつい」
ノクトは一瞬目を泳がせたが、それを誰にも悟らせず、またふへふへと笑いながら言い訳をする。
多少の自覚はあるようだが、そこは年の功なのか、うまく誤魔化してみせる。
「皆がハルカ殿に甘いのだとすれば、それはきっとハルカ殿が皆に甘いからでござろうなぁ……。拙者もハルカ殿と話していると、つい居心地がよく、気が緩んでしまいがちでござる。ハルカ殿に傷付けられる自分の姿が想像つかないのでござるよ」
近くで静かに控えていたカオルが、閉じていた目を開けてすらすらと語る。
きりっとした姿は、アルビナや他の二人の少女から見れば憧れの的だ。
言っていることもわかりやすく、涼やかに笑って再び目を閉じる姿はかっこいい。
戦い方や背丈に、きりっとした切れ長の目などから、カオルというのはどうしたって大人びて見られるのだ。
ただ、年少組の中でサラだけは、今日のカオルは調子が良さそうだなと、生温かい目で見守っていた。日頃、『ハルカ殿、今日は風呂に湯をはるでござるか! 背中流すでござるよ!』と浮かれているカオルを見ているので、もうどんなにかっこをつけたところで、サラにはその尻の辺りに、ブンブンと振られる尻尾があるような気がしてしまうのであった。





