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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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得意不得意

「ハルカってさ、多分性格が冒険者に向いてないんだよね」


 残されたコリンがぽつりとつぶやく。


「そうか? 楽しそうだけどな」

「うん、冒険はね。でもさ、本当は争いごととかも苦手でしょ」

「まぁな。随分慣れてきた気がするけど」

「うーん、でもなー。最初に賊に襲われてた時のこと覚えてる? 私はさ、近くで泣き止むまで待ってたからよく覚えてるよ」

「あー……、そんなこともあったな」

「相手のこととか、周りのこととか考え過ぎちゃうんだろうねー」

「じゃ、冒険者辞めさせるのか?」


 アルベルトが極論を述べると、コリンが口をとがらせて拗ねた顔をした。


「そんなこと言ってないじゃん」

「だろ。いいじゃんか、俺たちで見ててやれば。一人で何でもできるけど、俺たちが必要な時もある。それでいいんじゃね」

「多分、ハルカみたいに強い力があると、冒険者してなくてもいろいろ巻き込まれるです」


 モンタナはハルカの去っていった方向をじっと見つめながら話に混ざる。


「しょっちゅう問題起こすもんな」

「アルには言われたくないと思うけど、まぁ、確かに?」

「だからコリンも、気にしなくていいです」

「な、何を?」

「自分たちが誘ったから、ハルカが辛そうにしてるって思ってなかったです?」

「……いや、別に」


 返事は随分と遅かった。

 お見通しでもその通りとは言いづらかったのだろう。


「きっとハルカ、それ喜ばないです。皆悩み事あるですよ。苦手なこともあるです。ハルカのあれは、アルやコリンが地図を読むのが苦手なのと一緒です。だから冒険者辞めろって言われたらどうです」

「いや、それは違うでしょー」

「一緒です」

「うー……」


 ついでにコリンまで悩み始めて妙な空気になってしまったところで、レジーナが腕を組んだまま珍しく会話に混ざってくる。


「強ぇんだから最初に殴っておわらせりゃいいんだよ。あいつは馬鹿だ。いつもわざわざ困ろうとする」

「俺もその方が楽だ。今度からハルカに止められる前にやるか」

「程々ならいいと思うです」

「……うーん、そういう話なのかなー」


 ハルカがいない間にも、仲間たちの話し合いは続く。

 コリンは今一つ納得できていないようだが、どうやらチームの方針が『ガンガン行こうぜ』に変更されつつあるようであった。



 夕暮れ時には元の場所へ戻ったハルカは、全員の障壁を解除して、ずっと監視をしていた場所に座って冒険者達と向き合った。

 若い冒険者はすでに逃げる気力なんてなかったし、強制的にずっと立ったままにさせられていたギドたちも、もはやすぐに動く余力は残っていない。


「そろそろちゃんとお話ができそうなので、少し話をしましょうか」


 【毒剣】の冒険者たちは、かすれた声で返事をしたり頷いたりと、肯定の意思だけを示す。


「あなたたちへ要求がいくつかあります。一つ、【毒剣】を解散すること。二つ、二度と私の知り合いに手を出さないこと。三つ、善良な人を陥れたり傷つけたりしないこと。基準は伝えません。自分で考えてください。もし悪いうわさを聞けば、次は容赦しませんし、ただでは殺しません。先ほどの移動、あなたたちを連れていたので比較的ゆっくりでしたが、本気を出せばもっと速く移動できます。どんなに遠くへ逃げても、数日以内には追い付きます。逃げられると思わないでください」


 全員の顔を順番に見ていくとそれぞれが順に頷いて、ハルカの要求を守る意思を見せる。

 本当にこれで良いのか。

 理解しているのか。

 ハルカは少し悩みつつも立ち上がり、仲間たちと合流するために背を向ける。

 あえて一切の警戒をせず、意識だけを後方に向けながら。

 

 風を切る音がした。

 『ああ、駄目なのか』

 ハルカはそのまま無防備に空を見上げた。

 首筋の辺りに何かがぶつかる。

 振り返れば、ナイフが地面に落ちていた。

 あれだけヘロヘロに見えたのに、正確に急所を狙えるのだから、きっとギドも腕の悪い冒険者ではなかったのだろう。


 振り返ってみれば、ギドと他二名が、血走った眼をしたまま武器を構えて駆け寄ってきている。

 ハルカに対して、もっとも攻撃的で罵声を浴びせてきた者たちだ。

 ほとんどは表情をひきつらせたまま座っており、僅か数名は凶行に走った数名を止めようと「やめろ!」と悲鳴のような声をあげたり、腕を伸ばしたりしていた。


「……残念です」


 身体強化もできるのだろうが、ろくに食事もせず、体力が落ちて、身体も相当強張っている状態からの攻撃だ。ハルカが接近戦が苦手だとしても、その攻撃の軌道を目で追える程度の攻撃であった。

 それでもハルカは攻撃を障壁で防がなかった。


「死ね!」


 ナイフがハルカの体に迫ったところでギドが叫ぶ。

 身につけられる程度の小さなナイフが、首筋や腹部に迫り、傍からは突き刺さったかに見えた。

 ハルカがこれまで魔法しか使ってこなかったこともあり、今この瞬間ならばチャンスがあると考えてしまったのだろう。

 ナイフが弾かれたのも、見えない障壁に行動を阻まれ続けてきたギドたちからすれば、またそれかとなるだけだ。


 恐れさせてみても、力を見せても、言葉にしても、伝わらぬものはある。

 きっとこれが彼らの生き方で、こんな人は他にもたくさんいるのだろうとハルカは考える。


 上から下へ雑に振り下ろされた魔法の風の刃が、三人の体を二つに分断した。

 

「本当に……」


 ハルカは倒れる三人の体を避けるように横へとずれて、すぐさま火葬をするときに使っている高温の炎で死体を焼き尽くしていく。

 どこかほんの僅かながらに、ハルカは他人を殺せないのではないか、本当は殺さないのではないかと思っていた、数人の心が凍え縮まる。

 ハルカがそのまま視線を冒険者たちの方へ向けると、そんな風に考えていた者はがたがたと体を震わせて弁明をしようと口を開いた。


「あーあ……」


 その時、ハルカの後方からコリンたちが顔を出す。

 コリンの残念そうなため息交じりの声は、あれだけ悩んだハルカが結局人を殺すことになったことに対してである。死んだ者はどうだっていいけれど、こういうことの繰り返しがハルカの心を傷付けていくのだろうなと思うと、あまり気分は良くなかった。


「よーし、皆殺しか!」


 そんな雰囲気の中元気に声を上げたのはアルベルトだった。

 すでに〈貪狼〉を引き抜いており、ずんずんと前へ出ていく。


 その場にいた冒険者たちは、慌てて立ち上がり、よろめきながら必死に逃げていく。アルベルトは「殺すぞー!」と言いながら、歩いていくだけでまともに追いかけようとはしない。


 レジーナがハルカの背中を無言で強くたたいてぎろりと睨みつける。

 ハルカが目を白黒させているうちに、両サイドをコリンとモンタナに挟まれる。


「今回の話はこれで終わり、ってことでね」

「帰ったら色々話するです」


 二人ともどうもいつもよりも目力が強い気がして、ハルカは小さな声で「あ、はい……」と返事をするのであった。

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― 新着の感想 ―
大型飛竜をぶん投げられる奴にちっぽけな刃物が効く訳ないだろうにな・・・ 真正の馬鹿には慈悲は効果ないってこったな・・・
やっぱ磨り潰して治してを50回くらい味わわせてやらなきゃいかんですね( ᐛ )
力を示し言葉を尽くしても殺すしかないような人間もいるというという経験をまた一つ積んでしまいましたね。下手に残して報復される可能性を抱えるよりも良かったですが。 生き延びた毒剣の若いのの証言が、きっとど…
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