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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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行き当たりばったり

 捕まえていたチンピラたちは、邪魔だったので支部長室に置いてきた。

 デビスはすごく嫌そうな顔はしていたが、「ああ、うん、いいよ……」と了承。

 罪のない人をさらって痛めつけ、殺そうとまでしてたのだ。

 デビスによれば「死刑だねぇ。街の外の賊っぽいし」とのことで、彼らは街の法で裁かれることとなった。


 最後に【毒剣】の拠点の場所を聞いたハルカたちは、ギルドを出て夜の街を歩く。 


「……なんか胡散臭かったな。あいつなんか企んでねぇの?」

「胡散臭いだけだと思うです」


 アルベルトはデビスがあまり得意ではないようで、ずっと変な顔をしてあの場に立っていた。確かにあまり冒険者らしくない支部長である。

 遺跡の街ならではという気もするが、そのねっとりとした雰囲気がお気に召さなかったようだ。

 ただ、モンタナはさらりとそれを流す。

 モンタナから見ても、デビスという人物はただの胡散臭い人物、であり、それ以上でもそれ以下でもなかったのだろう。


「でもなんか言い訳みたいなことごちゃごちゃ言ってたぞ」

「そうなんだよねー。なんかちょっとイラっとしたけど、話聞いてるとそんなに間違ったことは言ってないからさー……」

「普通街の冒険者が悪さしたら罰則与えたりするだろ」

「罰則は……与えてくれると思いますよ」


 静かに歩いていたハルカが、アルベルトの不満に答える。


「でも、悪さをした日の夜に宿クランが無くなってしまえば、罰則の与えようもないですから」

「……あ、そういう感じなんだ。へー、宿ごと? ハルカ、もしかして結構怒ってる?」

「はい、結構怒ってます。どうしたらいいかまだ思いつきませんが、宿を残したまま終わらせるつもりはありません。行ってから考えます」

「行ってから考えるんだ……」


 話し方はいつもと変わらないけれど、言っていることは普段からだいぶかけ離れている。ハルカ自身も、それは感じているけれど、今後のことを考えればここでぬるい対処ができないことはよく分かっている。

 多少自分らしくなくても、当たり前と思わせる以上のことをしないといけないのだ。


 とにかくまずはギドを捕まえて話を聞く。

 それからどうするかは考えるつもりだ。

 頭は冷静なのだが、どうにも心の方がぐつぐつと煮えたぎっている感じがしていた。


「……特級冒険者は、悪いことをし過ぎると討伐隊が寄こされると聞いたことがあります。主にクダンさんの仕事だそうですが。デビス支部長の言った、何をしても正当であるという保証してくれる、という言葉は、それにかかってくるものだと思います。冒険者の争いは冒険者同士で、というのは確かですし、今回の場合【毒剣】にしらばっくれられた場合、証拠は不十分です。【毒剣】は今でこそギドを宿主とする宿ですが、あの物言いだと、古くからの実績があるのでしょう。それを個人的な遺恨で潰すというのは、おそらくやりすぎなのでしょうね。この辺りが、デビス支部長がはっきりとは言わなかった事情なんだと思います。おそらくですが」

「良い方に解釈しすぎじゃないかなー?」

「……違ったとして、変なことをするようならそっちも対応します」


 ハルカにしてははっきりと宣言したことに、今度はモンタナが横から一言。


「怒ってるです」

「はい、どうもそのようです」


 モンタナの言葉に頷いたハルカは、教えられた道を歩いていく。

 先頭をずんずんと進んでいくハルカを追いかけながら、三人は後ろで顔を見合わせる。

 静かにこれ程怒っているのは神殿騎士のスワムと相対した時以来か。

 落ち着いているようにも見えるので判別がつきにくい。


 そうこうしているうちに到着した拠点は、やや古くも立派な建物だった。

 冒険者の拠点として分かりやすく、訓練場なども付いている。

 テラスで酒を飲んでいる冒険者などもいて、ガラは悪いが楽しそうだ。


 遠目から見て、それでどうするのかコリンが聞こうとした瞬間、モンタナの尻尾がピンと立ち、【毒剣】の拠点がミシミシと音を立てて軋みだした。

 ハルカは足を止めずに平然と歩いていく。

 酒を飲んでいた冒険者たちは突然鳴った異音に驚き、道へ飛び出し、途中でべちゃりと見えない壁にぶつかった。


 その間にも拠点はものすごい音を立てながら軋み、やがてバキバキとゆっくり圧縮されていく。


「ハルカー……? 何してるの……?」

「とりあえず拠点を壊します。中にいる人がみんな出てきたら、その後のことを考えます」


 歴史があり、価値のありそうな立派な建物だった。

 ただ、コリンは勿体ないとは口に出さずに、ハルカが想定よりも怒ってそうなことを再確認した。

 次々と家の中から人が飛び出してきたところで、ハルカは一度振り返ってモンタナに尋ねる。


「家の中にまだ人はいますか?」

「いないと思うです」

「ありがとうございます。一応聞いておきますか」


 モンタナに確認したハルカはすたすたと歩いていって、一番近くにいた冒険者に声をかける。


「この屋敷、子供とか病人とかけが人、いますか?」

「何言ってんだてめぇ!? どうなってんだこれ、お前がやったのか?」

「もうすぐ潰れそうなので、助けなければいけない人がいれば助けに行きますが」

「そんなことより、お前がやってんじゃないならこの壁何とかしてくれ。外からたたいたら壊れねぇか!?」

「もう崩れますけど、誰もいないんですね?」

「いねぇよ! 話の通じねぇ奴だな!」

「そうですか」


 ハルカが話をしているうちに、どうやらギドが気づいたらしく、仲間たちを無理やり押しのけて障壁の中を歩いてくる。


「てめぇ、何してやがる!? こんなことしてただで済むと思ってんのか!?」


 辺りに妙な音が響いているせいで、いつのまにか周囲には人だかりができている。

 普段のハルカだったら目立たぬよう努めるのだろうが、今日はちょっと話が違う。


「あなた、私の友人に手を出しましたね」


 ハルカはギドに歩み寄り、障壁を挟んで表情も変えずに確認をする。


「はぁ? 知るかそんなこと。この……っ!」


 ハルカの断定口調に、ギドは全てを察した。

 このままだとまずいと、短剣を振りかぶり、仲間に腕がぶつかるのも気にせず障壁に何度もたたきつけるが、多重層になっている障壁が破れることはない。


 ハルカは拠点を見上げて今度はギドに尋ねる。


「この建物の中、人います?」


 その瞬間ギドは心の中でにやりと笑った。

 やっぱり甘ちゃんだと確信して叫ぶ。


「いる、うちの見習いのガキが寝てる! 何するつもりだ」


 ハルカが僅かに横を向くと、モンタナが黙って首を横に振った。

 木材が悲鳴を上げてさらに軋み、やがて家が崩壊しながらだんだんと小さくなっていく。 


「おい、おい!! 何してんだ、いるって言ってんだろ!!」


 驚いたのはギドだ。

 わざわざ聞いてきたくせに壊そうとする意味が分からない。

 理解のできない行動をするハルカに気色の悪さを覚えながら叫ぶ。


「そうですか」


 しかし戻ってきたのは白けた表情と淡々とした返事だった。


「おいやめろ、子供がいるんだぞ!?」


 叫んでいるうちに、屋敷はすでに家としての形を失い、見る間に小さく圧縮されていく。事情も知らずに捕まっている冒険者たちは、半狂乱で障壁を叩いて逃げようとするが、当然抜け出せた者は誰もいない。


 きゅっと四角くまとまった屋敷だった塊が、どすんと音を立てて地面に落ちる。

 直後、冒険者たちを囲んでいる障壁が左右からゆっくりと圧縮され始めた。

 最初に気が付いたのは端の方でハルカと話していたギドだ。


「おい、おい、やめろ、おいやめろ!!」


 すぐに他の冒険者も気づいて、やがて辺りは冒険者たちの怒りの声や命乞いで耳を塞ぎたくなるほど騒がしくなった。

 周囲に住む町の人は家から出てこわごわとそれを眺めていたが、段々とハルカたちから距離をとっていく。良くないうわさも絶えないとはいえ、この辺りでは一番に力を持ち、肩で風を切って歩いている【毒剣】の冒険者たちがまとめて酷い目に遭っているのだ。


 何が起こっているのかはっきりわからなくても、近づかないほうがいいことだけは分かる。


 随分とみっちりと【毒剣】冒険者のすし詰めが出来上がったところで、ハルカは仲間たちの方を振り返って一言。


「さて、どうしましょうか」


 どう始末するか、としか聞こえない言葉に【毒剣】の冒険者たちは震えあがったが、仲間たちには、ハルカがここから本当にどうしたらいいかわからず困っているだけだとしっかりと伝わっていた。

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― 新着の感想 ―
やっぱここで「子供がいるのに潰した」ってのが風聞悪くなりそうで引っかかります。特級冒険者として畏れを抱かせるという意味ではいいかもしれませんが、それを見聞きした善良な人たちには悪影響を及ぼしすぎるので…
治せば大丈夫理論かな
家を超圧縮して手のひらサイズにして、ギドだけ出して手のひらに乗せる。もちろん重量はそのまま(ハルカなら数トンでも持てそうな気がしますw)
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