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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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怒ってる

 昼中街を駆けまわり情報収集に努めたコリンたちだったけれど、結局情報を得たのは地元の冒険者、ではなく、オレークが日々通っていた食べ物屋の店主であった。飯を提供する店というのはあちこちにあるようで、街を歩けば大抵どこかの店主の視界に入ることになる。

 連れ去った連中もガタイがよく、あまり風体のよくないものばかりであったため、店主たちはその動きをよく見ていたのだ。

 そうして分かったことは、おそらくオレークたちが街の外れの方へと連れ去られていったこと。そして、どうやら連れ去った男たちは、【毒剣ポイズンダガー】所属の冒険者ではないということであった。

 言葉に例えるのならば、腕に覚えのあるチンピラ、程度らしい。


 ならばということで、コリンたちは作戦を立てて、全員を引き連れて捜索に乗り出し、ようやく見つけた場所というのが、ヨンたちの拠点だったというわけである。



「……私が囮になるから、いいときにエリさんたちができるだけ派手に、魔法で壁壊して中に入ってください。そっちに注目したところで反対側からレジーナに入ってもらって、戦闘はレジーナに任せて、サラちゃんたちはオレークさんと娘さんの救出」

「コリンさんが危ないですよ……?」

「作戦の立案者が後ろにいるのもねー。大丈夫大丈夫、私もそれなりにうまくやるから。あんまりのんびりもしてられないし、あとは任せるからお願いね」

「でも」

「うるせぇよ、行くぞ」


 サラが何か言おうとしたのを遮り、レジーナが拠点の脇にまわりこんでいく。

 それと合わせてエリたちも頷いて、忍び足でポジションへ向かう。


「ほら、足音消してゆっくりでいいから。信じてるからね」

「……はい」


 コリンはサラたちを送り出してから、ぐっと背伸びをして弓を取り出し、わざと足音を立てながらヨンたちの拠点へと向かう。


「さーてと、アルっぽく言えば、こういうのが冒険者らしい仕事、なのかなぁ。私はあまりワクワクしないけど」


 少しばかりの緊張を振り払うように独り言をつぶやいて、コリンは暗いヨンたちの拠点を覗き込む。



 そこからは難しいこともなかった。

 壁を破壊して火球が飛び、敵の二人を同時に燃え上がらせると、全員がそちらに注目。

 直後反対側からレジーナが飛び込んでくると、片手に握った【アラスネ】で、目の前にいた敵の腕とあばらを、死なない程度にぐちゃぐちゃにして殴り飛ばした。

 こうなればコリンだってじっとしている必要はない。

 身体強化をして拘束を力ずくでほどくと、あっという間にその場に骨の折れる音を響かせた。


 これが死者数名、重傷者たくさんを生み出した現場の状況説明である。


「だから! なんで俺たちの拠点なんだよ!」


 そしてヨンが夜空に向かって吼えた。

 気持ちはわからないでもない。ちょっとぼろいだけの倉庫が、一瞬にして穴だらけの事故物件に早変わりしたのだ。ついでに置いてあった荷物とかもぐちゃぐちゃになっている。

 しかし、『まぁまぁ話を邪魔するな』と、ヨンはすぐに羽交い絞めにされて他の仲間たちに連れていかれてしまった。摘まみ上げるジーグムンドがいないと、数人がかりで連行されるようになるらしい。


「なるほど……、経緯は分かりました。オレークさん、お疲れのところ申し訳ありませんが家まで案内してください。奥さんを連れて一度私たちの宿へ行きましょう。それから……、襲われたのはきっと私のせいです。本当に申し訳ありません」

「い、いや、頭を上げてください。私も娘も無事ですから……!」

「……すみません。ちゃんと話はつけますので」


 オレークが謝罪を受け入れてフォローをしても、ハルカの表情は晴れなかった。

 ハルカたちの情報を仕入れようとしている時点で、捕まえたものたちは【毒剣】の手先のものだ。

 甘い対応をしたからこうなった。

 死人は出なかったが、少なくともオレークの娘のパレットには、酷いトラウマを植え付けたことだろう。


 そこからは生きているか死んでいるか微妙な連中を障壁に詰め込んだまま、まだ人のいる街の道を移動してオレークの妻を回収。宿へ連れて帰ってから、部屋をあてがい休んでもらう。

 ついでにヨンたちも連れてきたのだが、そちらは今フォルテに捕まってあれこれと聞きだされている。

 普段なら助け舟の一つでも出してやるところだが、今日のハルカはそれどころではなかった。


 捕まえたチンピラたちを中庭に運び、その場で監視をしている。

 サラたちが心配そうに横で見ているが、今のハルカはそのことにも気が付いていなかった。


「ハルカ、怒ってんのか?」

「怒っています。自分にも今回のことを起こした人たちにも」


 アルベルトに問われて素直に答える。

 長い付き合いだけあって、いつもとは違う様子であってもアルベルトたちならば話しかけることができる。


「珍しいのな」

「そですね。でも間違ってないと思うです」

「……どうするべきだったかと、色々考えましたが、あまり意味がないのでやめました。ただ、二度とオレークさんたちに手を出されないようにするつもりです」


 あの時、手下を寄こした【毒剣】のギドに、きちんと抗議しなかったのが良くなかったのだ。多少争いになっても冒険者として舐められてはいけなかった。

 そんなことくらいは分かるだろうという良識を、ずるがしこい輩に求めたことが間違っていたのだ。


 優しさと甘さは違う。

 喧嘩っ早くなりたいわけではないが、冒険者は舐められてはいけない。

 分かっていても難しい。

 今回のハルカの対応は、よくよく名のしれている〈オランズ〉ならば間違っていなかった。しかし、噂でしか知られていない、むしろオレークのお陰で優しい、転じて甘いという認識を持たれている〈アシュドゥル〉ではよくなかった。

 

 今回の事件はそんな話だ。


「説明終わりー、ってことで、どうするか決まった?」

「ここの留守はエリさんや師匠に任せて、今からでもギルドへ向かうつもりです」

「もう受付やってないよ?」

「はい、でも行きます。必要なことだと思うので」

「ふーん……、怒ってるんだ?」

「怒ってます」

「じゃ、行こっか! レジーナも行くよー」


 声をかけるとレジーナは素振りをやめて無言でついてくる。

 今日のレジーナは素直だった。

 それはもしかすると、ハルカの気持ちがレジーナと同じ方向を向いているからなのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
特級に喧嘩売ったわけだからな 即日皆殺しにされても仕方がない案件なワケで
って言うかここ、めっちゃ怒ったのに天候が全く影響されなかったことは初めてかも! 普通は嵐とか雨雲くらい生成されるものだったわwww
特級の冒険者が街に来てるってだけで本来は荒くれ者でも大人しくするのが作法、何しろ何が気に障るかわかったもんじゃ無い。 それすら知らなかった以上、こうもなるのか
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