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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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コリンによれば

「ぶっ殺すか」


 そう言って歩き出したアルベルトにハルカが声をかける。


「最後まで聞いてからにしましょう」

「ハルカ、こんなふざけた真似されて……」


 振り返ったアルベルトは、「おっ」という顔をして言葉を止めてから、ゆっくりと元の場所に戻って、モンタナの耳に小声で話しかける。


「なんかハルカ怒ってないか?」

「怒ってるです」

「だよな」

「こう、なんか……」

「眉間にしわが寄ってるです」


 二人がひそひそと話す中、話は続く。


「それにしてもコリン……、無茶をしましたね。大丈夫ですか……?」

「あ、違う違う、一応ちゃんと作戦だったの! そんなに心配しないでよ……」


 ケガがないかコリンの様子を見るハルカに、コリンが慌ててオレークから引き継いで今日あったことについて話し始める。



 文句を言いながら素直に捕まったコリンは、地面に組み伏せられながらも外の様子を窺っていた。

 そもそもコリンがここに現れたのは偶然ではない。

 当然、オレークの姿を探してこの辺りをうろついていたのだ。


 事の始まりは宿でのことだった。

 なぜだか妙に気の立っているレジーナをなだめすかし、構い、時折訓練の相手なんかをしながら時間を潰していたところ、続々と人が集まってきたのだ。

 まずサラたちがやってきて、いい依頼が見つからないと話し出す。

 レジーナはつまらなそうにして外へ出かけようとしていたが、コリンは逃がさない。


「うぜぇ」

「後でまた手合わせしよ」

「なら今やる」

「だめー」

「じゃあ出かける」

「何しに行くの」

「うるせぇ」

「はい、一緒にお話ししようねー」

「うぜぇ……」


 意外なほどに大人しくレジーナが言うことを聞くのは、先ほどの手合わせでコリンが勝ったからだ。怪我させるの無し、素手のみという縛りであったからだが、受けたのはレジーナである。

 コリンの得意分野で勝負をしたのが悪い。


 一応監視役としてついてきた都合上、レジーナにあまり自由に暴れられてはコリンも困ってしまうので、一計巡らせたというわけだ。おかげで今も文句を言いながらも言うことを聞いている。


 続けてやってきたのはエリとカオルで、いつのまにやらその場は女性ばかりの華やかな場になった。話も盛り上がって、冒険者としての活動の話をすることもあれば、この街の買い物の話で盛り上がったりもする。

 レジーナだけはもう半分拗ねたような形で、椅子の背もたれに腕をひっかけ、身体を斜めにして退屈そうにしているのがかわいそうであった。


 そんな女子会の場に、息せき切って飛び込んできたのは、若い冒険者と小太りの中年男性だった。


「あ、あの、ここにあの、特級冒険者のハルカさんって方いますか!?」

「今はいないけど……、どうしたの」


 冒険者の方ががっくりと肩を落とし、中年男性の方は、ひゅーひゅーと苦しそうな呼吸音を立てながらも顔をあげる。


「お、おれ、おれー……」

「な、なに、どうしたっていうのよ」


 必死で俺、俺と繰り返す男性に、エリがちょっと引きながら問い返す。


「オレークさんが、つ、連れて、連れてかれた! やばそうな奴らに! パレットちゃんも! 一緒で!」

「なんだかわからないけど、落ち着いて話して。誰、オレークって」

「……オレークさんって、あの、食べ物屋さんに詳しいオレークさん?」

「そ、そうだ……」


 そこまで聞いてレジーナが舌打ちをした。


「誰それ」

「知り合い。ハルカと仲が良くて……、なんでそんなことに」

「くだらねぇ。だからぶっ殺しときゃよかったんだ」

「あー……、あいつらか。助けに行かないとだなぁ……」

「手伝うでござるよ」


 黙っていたカオルが立ち上がると、エリも「そうね」と言って立ち上がる。


「ありがと、助かります。ええっと……」

「わ、私たちも行きます!」


 サラが気合と共に立ち上がると、コリンは「うーん」と言って保留。

 もし相手が【毒剣ポイズンダガー】の面々だとしたら、それなりに強い場合もある。そうなると、サラたちは足手まといになりかねないのですぐには了承が難しかった。


「まず情報集め。手伝ってくれそうな人いる?」


 コリンがやってきた二人に問いかけると、二人とも何度も頷いて答える。

 どうやらオレークはそれなりに人々から好かれているらしい。


「じゃ、何か分かったらここにきて。サラたちはここで待機して情報収集。アルビナさんは……できればエリさんたちと一緒に行動してもらえると助かるんだけど…」

「わかった、そうする」


 次々と作戦を決めていくコリンに反対する者はいない。

 サラたちは悔しそうにしているけれど、格上であるコリンが言うのだからそれが正しいのだ。下手に自我を出して前に出ても足を引っ張りかねないことはわかる。

 事は一刻を争うのだから子供のようなわがままは言えない。


「じゃあ情報収集に出発。私はレジーナと南の方を調べるから、エリさんたちは北の方をお願いします。二時間おきに戻ってきて情報の確認。もし情報を手に入れても合流するまで待って、必ず合流してから救出に向かいたいです。人質がいるから人数揃えて奇襲したいので。異論がなければもう出るけど、何かある?」

「ないわ。カオル、アルビナ、行くわよ」

「よし! じゃあレジーナ行こ!」


 エリが出かけて行く途中に声をかけたコリンだが、レジーナは腕を組んだまま椅子に座ってじろりとコリンを睨んでいる。


「どうしたの、行こ?」

「お前が出かけるなって言ったんだろ。あたしは最初からあいつらぶっ殺した方がいいって言った」


 子供のようなわがままを言う大人がいた。

 コリンは片手で額を押さえて「あー……」と言った後、レジーナの腕を掴んで引っ張る。


「ほら、一緒に来てよ」


 じっと睨むレジーナは動かない。


「あー、もう、分かったってばごめん、私が悪かったから」


 コリンが謝ると、驚くほど素直に立ち上がるレジーナ。


「よし、ぶっ殺すぞ」

「なんだ、乗り気じゃん……」

「帰ったら手合わせしろ」

「さっきと同じ条件で良ければいいよ」


 宿を出て走り出そうとしたコリンの腕をレジーナが掴む。


「何? ほら、急がないと」

「そっち北だろ、真面目にやれ」

「……先行ってくれる?」


 早く助けなければいけないのもあって、これ以上の問答は諦めて、コリンはレジーナに先導を任せるのであった。

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― 新着の感想 ―
身内に手出しされるってのは、ほぼ唯一と言っていいハルカの逆鱗だからなぁ 虎の尾、じゃなくて竜の尾踏んじまったねぇ
レジーナの御出掛け(殴り込み)かわいい
方向音痴さえなければ…ハルカのおかげで経験値が短期間に稼げたけど、アルとコリンは30代でS級になれた人材ではあるんだろうな モンタナ・ハルカに出会わなければ方向音痴のせいで若くして死ぬか街の周りである…
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