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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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小休止とアヴァロス商会の噂

 ヨンは考え方が柔らかいようで、次々と現れる謎解きのような仕掛けをいくつも乗り越えて次々と部屋を進んでいく。時に他の遺跡冒険者の知恵を借りることもあるようだが、とにかく正しい答えを見つけるまでが非常に早い。

 ハルカも一度一緒になぞ解きに挑戦してみたのだが、首をひねっている間に全て終わってしまい、自分の頭の固さを思い知るだけの結果となった。


 遺跡は広く、安全そうな場所に着いたところで一行は一休みすることになった。休むと言っているのに、相変わらず頭脳労働班は、保存食をかじりながら部屋の仕組みを探るべくうろうろと歩き回ったり、壁の模様を眺めたりしている。


 ハルカがへこみつつ、少し離れた場所で三人並んで周囲の警戒をしていると、ジーグムンドも途中からやってきて警戒部隊に加わった。


「こっちで良いんですか?」

「俺も大体あいつらの謎解きにはついていけん。普段は俺が警戒の係だ。今回は色々と自分でも考えてみたが、やはり難しいな」

「考える気が出るだけ偉いだろ。俺、ああいうの苦手だ」

「僕はそでもないですけど、あんなに早くは解けないです」


 言ってしまえば肉体労働部隊が、横並びで周囲の警戒をしながら会話を続ける。


「多分俺たち遺跡の冒険者には向いてないんだろうな」

「それはそうかもです」

「そうですね……、専門家に任せるのが一番です」

「面白ければいいと思うがな」


 ハルカたちが地上を懐かしがるが、ジーグムンドは楽しげに仲間たちが忙しなく動き回るのを眺めている。


「ジーグムンドさんは元々地上の冒険者だったんでしょう?」

「そうだ。昔ヨンの奴の護衛を引き受けてから、遺跡に潜るようになった。もう十年来の付き合いだ」

「遺跡探索が楽しかったんですか?」

「……そうだな。俺は別に目的もなく冒険者をしていて学もなかった。ひょんなことでヨンと知り合ってな。あれだけ口達者な奴が、何をそんなに夢中になっているのかが知りたくなった。潜ってべらべら喋っているのを聞いていたら、段々興味が出てきてそのままだ」


 ジーグムンドは強面を僅かに緩めて笑う。


「何がそんなに楽しかったんだよ」

「なんだろうな。俺たち冒険者は、大体死んだらそれで終わりだ。知ってるやつがみんな死ねばそれで覚えてるやつなんていない。だが遺跡には過去の人が生きた証が残っている。それがなんだか気になった。今はもういない奴らが、どんな風に生きていたのか、とかな」

「ふーん。活躍して本とかになったらいいんじゃねぇの? 俺、本読んで憧れて冒険者になったんだぜ」

「そうか、そんな奴もいるのか。俺は腕っぷしが強いから、生きてくために冒険者になっただけだ。そんなこと考えもしなかった」


 ジーグムンドは目からうろこが落ちたかのように驚いた顔をしてみせた。

 そうしていると意外と強面も愛嬌があるように見える。


「お前強いんだから、今からでもなれるんじゃねえの。ってか、お前って何歳なの?」

「俺か。俺は二十七だ」

「……まじか、もうちょっと年上だと思ってた」

「よく言われる」


 全然気にしていなさそうだ。

 落ち着きようからして、アルベルト同様『もっと年上だろう』と勝手に思い込んでいたハルカは驚いていたけれど。


「ヨンさんの方が年上です」

「初めて会ったときは年下だと思ってた。言ったら脛を蹴られたな」

「あいつ何歳だっけ?」

「三十代……半ばくらいじゃなかったか?」

「でもチームの代表はジーグムンドさんなんですよね?」

「そうだ。俺がでかくて目印になるからやっとけと言われた。ヨンは人使いが荒い。遺跡のことになれば頼りになるが、それ以外ではさっぱりだしな。他の奴らもみんなそんな感じだ」


 年齢を考えれば、ジーグムンドはチームの中ではそこまで年上の方でもないのだろう。だというのに、こうして仲間たちを見守っている姿を見ると、どうしたって威厳があるから不思議だった。


「確か……武闘祭もお金稼ぎで来ていたんでしょうか?」

「そうだ。……金もな、どうしたものだろうな」

「〈アヴァロス商会〉はどうですか?」


 一応紹介はしてみたが、ヨンは相性が悪いのか逃げ出してしまった。

 フォルテのことだからそんなことは気にしないだろうが、渋い顔をしているところを見るに、どうもジーグムンドもアヴァロス商会には良い印象がないようだ。


「……ハルカたちは〈アヴァロス商会〉と親しいのか?」

「いえ、今回護衛をしてきただけです」

「うーむ、そうか」


 事情を告げれば、唸って黙り込んでしまう。

 何かあると言っているようなものだった。


「……何か、問題でも?」

「いや」

「あるんだろ、はっきり言えよ」

「いや、どうだろうな」

「教えてほしいです」

「……俺もよく知らん。知らんのだが」


 次々と尋ねられて、ジーグムンドは観念したかのように語り出す。


「……〈アヴァロス商会〉と言えば金貸しだろう。期日を守れない者には酷く厳しい対処をすると聞く。強制労働であったり、厳しい労働環境に送り込んだりだ。最初から約束をしていることだから当然なのだが……、それで仲間を失った冒険者も多い。いや、当然金を返さない冒険者が悪いんだがな……。さっきの小競り合いもあったろう。ただでさえ地上の冒険者と仲が悪い俺たちが、そんな商会と手を組んで大丈夫なのか、とな」

「……なるほど。街で活動をしにくくなりますか」

「そうだ。〈アヴァロス商会〉はでかいが、でかいぶん恨みを買っている、と聞く」


 これだけ話せるということは、赤の他人から聞いた話ではなく、おそらくジーグムンドの周りの人間が〈アヴァロス商会〉と何らかの縁があったのだろう。それも、良くない方の縁が。


「難しいですねぇ……」

「そうだ、難しい」


 ハルカが呟くと、ジーグムンドも困った顔をして、天井を睨みながら同意するのであった。


一週間たったので色々宣伝

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2,このライトノベルがすごい2026の投票も始まっているようです。結構複雑で大変なのですが、もしよかったら是非本作を推していただけますと……!

どうぞよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
金貸しなんてのは晴れた日に無理やり傘を押し付けて、雨が降ったら取り上げるような商売だからな そりゃ恨まれもする
金貸しねぇ。日本では僧侶が西洋では教会がやってましたね。
2026だったのか、なるほど。てか、10作品選ぶのは厳しい(・_・; 縁があったっていうか、これ本人の話なんだろうなあ…仲間を失ったとかさ…
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