どちらもあり
「かなり、感じ悪かったです。嫌なことばかり考えてる感じで、逆によくわからなかったです」
遺跡への通路に入るや否や、モンタナが振り返りながら言った。
言動からして鶏と呼ばれる、外で働く冒険者には違いないはずだ。
モンタナの目からは、身のこなしも悪くなく、油断ならない相手のように見えた。
そしてそれ以上に言葉の通り、常に相手を出し抜こう、陥れようという悪意に満ち溢れた雰囲気を察している。
「見るからに性格悪そうだったもんな」
「やっぱ殺す」
「うーん、問題はあいつが尻尾を出してないことだよねー。あれだけ人がいる場所でめっためたにしたら、多分私たちの方が悪者にされちゃう。それに、私たちはともかく、ジーグムンドさんたちの立場とか悪くなるんじゃない? 多分、あのギドって奴有名人でしょ?」
レジーナが戻ろうとしたところで、コリンが両腕を横に広げて通せんぼする。
「そうだけど……、お前ら結構物騒だな」
「そう? 外で敵意を持って後をつけたりしたら、殺されるのって普通のことだよ?」
「へー、そんなもんなのか?」
「まぁ、そうかもな」
ヨンが確認するように尋ねると、ジーグムンドは曖昧に頷く。
なるほど、遺跡冒険者のルールは、外の冒険者のルールよりは少しばかり甘いらしい。
だからこそギドも、どうせ殺されやしないだろうと高をくくって、人をそそのかし、後をつけさせたのだろう。
舐めた態度を崩さないのは、そのまま遺跡冒険者たちを舐めているからだ。
ハルカたちが一緒にいるのは想定外だったに違いない。
「で、有名なの?」
「有名も有名。若手の中じゃ一番勢いのある奴だ。【毒剣】って宿の宿主なんだよ。悪そうな奴は大体あいつの友達だし、他の奴らと一緒に遺跡冒険者を目の敵にしてくんだよ」
「直接手を出してくることは、これまでなかったんだがな……」
「ふーん、よっぽどお金の匂いでもしたのかなー? ……ね、ハルカはどう思う?」
コリンは黙ってずっと考え込んでいるハルカに話を振る。
難しい表情をしている時は、大体何かを決めかねている時だ。
「え、ああ……。あまり、良い人物ではないように見えましたね。なんというか」
「ずるそう」
「胡散臭いです」
「けちでプライド高そうだよねー」
「殺すか」
「うぅん」
話は振出しに戻ってしまう。
「そんなに気になるようならば今日はやめておくか?」
「え?」
ジーグムンドの提案に真っ先に反応したのはヨンだった。
悲しい顔をして目を見開いている。
「い、いやいや、行こう。ちょっと面倒なことはあったけど、せっかくここまで来たんだぞ? 物も買いそろえたしな? な?」
「……そう、ですよね」
子供のようにせがんでくるヨンに絆されて、迷いつつも同意するハルカ。
もともとこちらから提案したことであるし、『嫌な感じ』というだけで、あまりジーグムンドたちを振り回すのも良くない。
「ま、そうだな。遺跡の敵気になるし」
「そですね」
最初からそれが気になって仕方がない少年の心を持った二人が遺跡へ進むことを選択したところで、レジーナだけは腕を組んでその場にとどまった。
「レジーナ?」
「あたしは行かない」
ハルカの問いかけに対して、くるりと踵を返したレジーナにすぐさま反応してついていくことにしたのはコリンだ。
「あー、じゃあさ、私が一緒にいて見とくから、三人は遺跡の探索するってことでどう?」
「お願いしてもいいですか?」
「うん、そうしよー。こっちはこっちで何とかするから!」
ハルカの中身をおじさんとするのならば、男組と女組で分かれたような形だ。
普段は多数決をして方針を決めるのだが、今回は皆が迷っていたこともあってこんな感じの分担になってしまった。
実はコリンは遺跡自体にはそれほど興味がなかったというのも、分かれることになった理由だろう。直接手で触れて戦うことの多いコリンは、アンデッドとの戦闘があまり好きでない。
小走りでレジーナの後を追いかけるコリンに向かって、アルベルトが声をかける。
「おいコリン」
「なぁーにー?」
「気をつけろよ!」
「だいじょーぶ、任せて!」
心温まる夫婦の会話を聞いたところで、ハルカたちは前進。
コリンはレジーナと合流して腕を絡ませる。
「なんだよ」
「一人じゃ寂しいでしょ」
「寂しくない」
「じゃ、一人じゃどうしたらいいかわからなくなるでしょ」
「わかる」
「じゃあ腹立ってるから、ギドって人ホントに殺す? 殺さない?」
「……殺す」
「ほら迷ってんじゃん」
脳内のハルカによればまだ殺さないほうがいい場面だが、レジーナの直感的には殺していい場面だ。半殺しとかじゃなくて全殺しの方である。
レジーナはむかつくうぜぇ悪人の臭いに敏感だった。
「ていうかねー、私は何日も遺跡の中に籠るより買い物する方が好きだし、アンデッドともあんまり戦いたくないからちょうど良かったんだよね。買い物付き合ってよ」
「嫌だ」
「そう言わずにさ。たまにはいいじゃん、買い物」
「嫌だ」
「レジーナもかわいい顔してるんだからお洒落しようよー」
「うるせぇ馬鹿、どっか行け」
「やだ」
レジーナは最近ではもう仲間に対して手をあげることはない。
もちろん手合わせとなれば話は別だが、本能的に、仲間が敵でないことをよく理解し始めてしまっているのだ。
「うぜぇ……」
盛大に眉間にしわを寄せて呟いたときには、二人は仲良く太陽の下まで出てきていたのだった。





