〈アシュドゥル〉の冒険者勢力
来た道をずんずんと戻っていくジーグムンドの後方で、アルベルトたちがひそひそと話をする。
「どうすんだろな、あいつら」
「んー、どうするんだろ。地上の冒険者が鶏で、遺跡探索の冒険者が土竜だっけ?」
「そですね。仲悪いですから、大喧嘩になるかもです」
「でも今回はついてきた奴が悪いだろ」
「って、遺跡探索の冒険者は言うです」
「で、向こうは歩いてただけなのに攻撃されたって言うんだろうねー」
やったやらないの話になるとどうにもならないので、どうしたって溝は深まる。
本来ならばあの場に捨てていった方が後腐れがないんじゃないかと思うのは、普段外で活動をしているアルベルトたちである。
さて、遺跡から出る途中でも幾人かの冒険者とすれ違い、その都度ヨンが身振り手振りで今回の件の説明をすると、遺跡冒険者である彼らは憤り、『許せんな』となってついてくる。
みたいなことを繰り返しているうちに、すっかり大所帯となってしまい、外へ出る頃には運ばれているけが人たちを除いても、三十人を超える団体となってしまっていた。
明るい場所へ出たところで、ハルカが障壁を下ろしてけが人たちを並べると、遺跡前の広場がざわつく。
「こいつらは俺たちの後をつけてきた。普段から遺跡に入っている奴らなら、他の集団のすぐ後ろをついてくのはご法度だって知ってるよな!? こいつらは知らなかった。その上しらばっくれたんだ。誰かこいつらをそそのかした奴がいるだろ! 出てこいよ!」
明らかに顔をしかめて固まっているグループがあり、ヨンはそちらを睨みながら宣言をする。するとその中のうちの数人が、へらへらと笑いながら出てきてヨンを見下ろした。
「おいおい、まるで俺たちがやったみたいな言い草じゃねぇか。あぶねぇ遺跡を掘り当てた奴がいるって聞いて、俺たちはやばい奴が外に出てこないように見張ってやってたんだぜ?」
「誰もそんなこと頼んでねぇだろ」
「ところがさぁ、今回は頼まれたんだよ。どっかの一級冒険者のでかぶつが怪我して帰ってきたから、って、ギルドから直々に頼まれてここにいたんだぜ? 疑うならギルドに確認してみろよ」
「なんだと、この……」
ヨンが拳を振り上げたところで、ジーグムンドが捕まえて持ち上げてそれを制止する。
「その話は本当か?」
「だから確認して見ろって言ってんだろ。いいか、お前らのせいで俺たちは必要もねぇ監視を頼まれてんだよ。頭下げられるならともかく、訳の分からねぇ因縁つけられる理由はねぇぜ?」
「じゃあこいつらはなんなんだよ! 遺跡探索者じゃないぞ!」
「知るか。煮るなり焼くなり好きにしろよ」
「そ、そんな、ギドさん、俺たちはあんたに……!」
様子を窺っていたけが人の一人が声をあげると、男はその顔を踏みつけて黙らせる。
「話しかけんじゃねぇよ。てめぇみたいな雑魚と仲間だと思われたら困るだろうが。こら、カスが、この!」
「おい、死ぬぞ、止めろよ!」
「お前らが半殺しにしておいて何言ってんだよ。こいつはやっちゃいけないことやったんだろ? きっちり殺しとけって。あーあまったく、遺跡の魔物にゃ返り討ちで馬鹿の始末もできねぇときた! 土竜の奴らが得意なのは穴掘りと土いじりだけ、ってか!」
続けて体を蹴り続けるうちに、怪我をしていた冒険者は体を丸くして呻くだけとなってしまう。当然他の者たちも、それ以上余計なことを言うことはできずに黙りこくっている。
何か言葉を発して同じ目に遭うのが嫌なのだ。
このままでは本当に死んでしまうと思ったハルカは、二人の間に障壁を出して暴力を無理やり止める。
「あ、なんだこれ?」
蹴りが跳ね返ってきたことで、ギドと呼ばれた冒険者が数歩後ろに下がる。
「その辺にしておけ」
ジーグムンドが言うと、ギドは障壁のあった場所を気味悪そうに見つめて、動き出したハルカの様子を窺う。
「治しますよ」
「悪いが頼む」
ジーグムンドが答えたところで、ハルカはうめき声すら漏らさず口から血をたらした男に治癒魔法を施す。完璧に治したわけではないが、これで死ぬことはない。
この男も悪いことはしたが、話の流れからしてギドに何かを吹き込まれてやったことなのだろう。
もしここで死ねば、このギドという男はまたそれを争いの種としそうだ。
ハルカにはそんな悪意のようなものが、ギドからあふれ出しているように思えた。
「…………お前、特級冒険者のハルカって奴か」
ギドは目を細めてハルカのことをじっくりと観察してから、ゆっくりとさらに数歩後ろに下がった。警戒心むき出しで、ハルカの一挙手一投足を見逃すまいとしている。
「気配のねぇ奴だな。いや、よくわかんねぇ奴、か」
他の面々と比べるとハルカはあまりにも冒険者らしさがなかったのだろう。
姿とか格好とかが、ではなく、その立ち姿がだ。
「ちっ、よその街のことに口を出してるんじゃねぇよ」
おっ、というような顔をしたアルベルトと、首を傾けたままギドを睨みつけているレジーナが、じりじりと前に出てくる。
喧嘩の気配を察したのだろう。
「はっ、くだらねぇ。俺たちはお前らが失敗しても大丈夫なように、ここで見張っててやるよ」
しかしその瞬間ギドはハルカを馬鹿にしたように笑って、背中を向けて仲間たちの下へ戻った。
「逃げてんじゃねぇよ雑魚」
「あー?」
ギドは首だけで振り返ってレジーナを睨みつけたが、しばらく黙り込んでから「くだらねぇくだらねぇ」と呟いて、喧嘩を買わなかった。
レジーナもそうなってしまうと舌打ち一つして引き下がるしかない。
完全に不完全燃焼の状態だ。
うまいこと躱されたような形になる。
「関わってもいいことがあるような奴じゃない。行くぞ」
怪我人たちを連れてくることで二度目はないと警告はできた。
彼らがギドたちにどのような扱いをされるかは、自業自得なのでそこまでは責任を取らない、というのがジーグムンドのスタンスなのだろう。
遺跡の内部に再び戻ると、ジーグムンドはまず一言目に「申し訳ない」と謝罪の言葉を口にするのだった。
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