元気な奴ら
「珍しく金の話しなかったな、さっきも」
「んー、だってみんなお金持ってなさそうなんだもん。今回はハルカにも考えがあるみたいだったしお任せー」
「遺跡ってよくわかんねぇもんな。なんかいつだかナギが歩いてるだけで文句言われた気がする」
「地下にいるから崩れたら埋まっちゃうですから」
レジーナが腕を組み、他三人が雑談をしている間にハルカが次々と怪我を治していく。
治された者はベッドから起き上がって体の状態を確認すると、ぞろぞろとハルカの後をついて歩く。気づけばまるで大学病院の回診状態である。
それだけ彼らの横のつながりが強く、仲間想いということなのだろうけれど。
特にクエンティンの怪我は酷く、足が半ばまで切れているのを無理やり縫合したような状態であった。
ハルカがいなければ場合によっては腐り落ちていた可能性もあるだろう。
なかなか派手にやられたものである。
縫合されている糸をきちんと抜いてから、綺麗に足をくっつけたときは拍手喝采が起こったくらいだ。遺跡探索をしている人たちだから寡黙で真面目かと思いきや、意外と明るく冒険者らしい人たちである。
真面目で寡黙なジーグムンドの方が珍しいくらいなのだろう。
クエンティンが元気に起き上がって、ハルカに対して腕を広げ熱烈に礼を述べに行こうとしたところで、他の仲間たちに頭をはたかれたり足を蹴られたりして妨害、もとい、快気祝いされていた。
「病み上がりなのに酷いじゃないか!」
「俺たちだってそうだ」
「恩知らずの下半身でもの考える馬鹿は一生寝ておけ!」
恩人に対してあほな行動をとろうとしたので当然の始末である。
全員を治したところで、彼らは顔を見合わせて頷き、ハルカに向かって口々に礼を言ってから、素早く散らばって動き始めた。
「ありがとう、よし、行こう!」
「よーし、準備しろ。投げ捨ててきた採掘道具を新調するぞ。おい、足りないもの把握してる奴いるか?」
「いや、まず資金調達だ、護衛を雇うぞ」
「馬鹿、護衛なんて雇う金あるか。こっそり調べるんだよ」
「いやいや、この人たち案内するんだろ? 護衛は要るだろ」
「とにかく封鎖だ。知らんやつらに調べられないようにできるだけ早く行くぞ」
皆好き勝手に喋り出して収拾がつかない。
困った顔のジーグムンドは、ハルカと横並びになってしばらく閉口していたが、やがて申し訳なさそうに一言。
「すまん、こういう奴らなんだ」
「いえ……、なんだか賑やかで楽しそうですね」
「そう言ってもらえると助かる。しばらく騒がしいだろうから外で説明する。おい、ヨン、こっちへ来い」
「あ? うるせぇ、今準備に忙しい!」
ジーグムンドは今にも荷物の山に埋まりそうになっているヨンに歩み寄って、首根っこをひっつかんで持ち上げて連れてくる。
「あー! ちょ、やめろってば!」
「礼をしろ、ちゃんと」
「するって、するために遺跡に潜る準備してんじゃん!」
「お前は説明係だ。すまん、外へ出るぞ」
じたばたともがくヨンを連れて倉庫の外へ出ると、太陽の光がまぶしくてハルカは思わず目を細める。
「うわっ、まぶし!」
怪我をしてしばらく中に籠り気味だったであろうヨンは、しょぼしょぼと目を閉じたり薄く開けたりしている。まさに土竜のようだ。
少し落ち着いたところで地面に下ろされたヨンは、倉庫の中を気にしながらも、「んじゃこっち」と言って倉庫の裏手に向かって歩き出す。
ついていくとそちらには、手作り感満載な長イスとテーブルがいくつも置かれており、煮炊きのできる場所となっていた。本当に野営と変わらない生活をしていそうだ。
「んで、なんだっけ、遺跡の情報が聞きたい? そもそもなんでそんなもん知りたいんだよ」
「なんか強いのが出たんだろ」
「なんとなくワクワクする」
「は?」
脳筋二人の回答にヨンが片方だけ眉を上げて呆れた顔をする。
遺跡発掘の専門家であれば当然の反応だろう。
「いえ、それはここに来てからの話で、元々私が遺跡に関して色々と気になっていたんです。昔の文化などに興味がありまして。冒険者としての興味も、多少ありますが」
「ふーん、なるほどな。ま、荒らさないなら何でもいいか。遺跡については詳しいのか?」
「あ、全然詳しくないでーす」
「おい、なんだこいつら」
コリンの素直な回答に、ヨンは呆れかえって助けを求めるようにジーグムンドを見上げた。
「とりあえず危険と注意点だけ説明しておけ。あとは質問に答えてやればそれでいい」
ヨンはがりがりと頭をかいてから、小さくため息をついて解説を始める。
「まず! ここ〈アシュドゥル〉は、遺跡がたくさんある。ここって地理的に北方大陸の交差点になってんだ。だから昔から栄えた街があったんだろうな。神人時代、つまり千年から二千年程度前の間も、ここにはでかい街があった。なんだか知らねぇけど、大きな破壊の跡があって、街はほとんど土に埋まっちまったけどな。浅い地層は神人時代のもの。少し掘ると一つ前の遺物時代。俺たちが見つけたのは、その遺物時代にも隠されていた地下施設か、あるいはさらにその前の時代の遺跡だ。……ここまでついてこれてるか?」
うんうん、と頷いているのは三人。
レジーナとアルベルトはすでに思考を放棄しているのが一目でわかったが、ヨンはジト目になってから、そちらを無視して話を続けることにしたようであった。





