冒険者らしい活動
予定通りに〈アシュドゥル〉へ到着した一行は、フォルテの厚意で貸し切った宿に泊まらせてもらうことになった。
もちろん、遺跡探索関係の話を間近で聞けるのではないかという下心の上にある厚意だ。断っても良かったのだが、新しく宿を探すのも面倒であるし、無駄に金を使う必要もない。
利害の一致である。
さて荷物を置いたハルカたちは、さっそく〈アシュドゥル〉の冒険者ギルドへ繰り出した。サラたちやエリたちも一緒にである。この街の冒険者ギルドはちょっと特殊なので、知らないで入っては面食らうことだろう。
「なんか、混んでいる列と空いてる列があるわね」
「はい。混んでいるほうが遺跡探索を主にしている冒険者、空いているほうが地上で活動する冒険者が並ぶ方ですね」
「なにそれ」
「私たちも前に来た時に聞いた話なのですが、どうやら仲が悪いみたいです。間違った方に並ぶと白い目で見られるので気を付けてください」
「ふーん、変なの」
納得はしていないようだが、エリは地上で活動する方の冒険者列の最後尾に着く。
知的な雰囲気のあるエリがそちらへ並んだので、ギルド内は少しだけざわついた。
地上側が勝ち誇った顔をしているのは、エリが美人だからだろう。
「とりあえず私は受付に並んで、いい依頼がないか聞いてみる。ハルカたちは……遺跡探索するんだっけ?」
「そうですね。それっぽい依頼がないか……今アルたちが見てくれているので」
「ふふっ、ハルカも行ってきたら? 私たちは帰りの依頼を探して宿へ戻るから」
「ええと、じゃあ、そうさせていただきます」
冒険者の護衛依頼は大抵片道だ。
帰りはまた別の依頼を受けて帰るのが一般的で、今回のエリたちは、ついでにサラたちのパーティの世話もしてくれるらしい。
特別心配していたわけではないが、そう言ってもらえるとハルカとしても安心である。
列を離れて仲間たちの方へ寄ってみたが、どうも良さそうな依頼はないようで、アルベルトが難しい顔をしている。
そもそも遺跡にはどうやって入るのかわからないし、新しく見つかった遺跡がどこにあるのかも知らない。一応依頼表を確認してみたが、やはりそれらしいヒントは得られなかったのだろう。
「ま、とりあえず情報収集しよっか」
「ご飯食べるですか」
「そうだなー、あいつがいれば教えてくれそうだけどな。なんだっけ? ジーグムンド?」
アルベルトが迂闊にこぼした名前に、レジーナの耳がピクリと動く。
レジーナは武闘祭の決勝でジーグムンドに敗れている。
きっとリベンジがしたいのだろうが、おそらくジーグムンドの方は相手にしてくれないだろう。
「あいつ居るのか」
「前はいたぞ」
何か不穏なメーターが上がっているような気がしたが、ハルカは気にしないことにして、ギルド内にある食堂の席を確保する。なんとなくだが、ジーグムンドであれば、レジーナに喧嘩を売られてもうまいこと回避してくれるような気がしていた。
安い飲み物と安い食事を頼んでダラダラと周りの話に耳を澄ませていると、確かに新しい遺跡が見つかったというのは本当らしい。
もともとかなり大きな、アンデッドと魔物が出るような遺跡があったのだが、さらに深い部分にもっと古い遺跡に繋がる道があったのだそうだ。
分かったのは、その遺跡に恐ろしい化け物が出るらしいことと、調査が難航していることだ。
噂好きの冒険者たちは地上で活動する側であったらしく、そのうちの一人の若者の口ぶりは、遺跡自体を馬鹿にするような節があり、あまり褒められたものではなかった。
片方の中年男性は、たしなめるように話しているが、酒が回ってきたのか若者の大口は止まらない。
「しかしそんなに大騒ぎするようなもんかね。どうせ土くずくらいしか掘りだせないし、出てくる魔物だってたかが知れてるんだろうぜ」
「そうは言ってもな、あのジーグムンドが逃げ帰ってきたんだぞ」
「……みんなジーグムンドジーグムンドって言うけどさ、俺あいつが戦ってるとこなんか見たことねぇし。土竜どもなんかに、街一番の冒険者面されて悔しくねぇのかよ!」
地上で活動する冒険者を鶏、遺跡で活動する冒険者は土竜。
〈アシュドゥル〉独特の妙な価値観である。
「あのなぁ、ジーグムンドは一級冒険者だぞ。あの武闘祭で優勝だってしてるんだ。悔しかったらお前も出向いて優勝してみろ」
いつのまにやらレジーナが、椅子の背もたれに腕をひっかけて、半身で大声を出している若者を睨みつけている。
「あー……、そうだ、オレークさんにでも話を聞きに行ってみませんか? 噂話で得られるような情報は、大体手に入ったと思いますし」
「いいぜ、来年の武闘祭は出場してやる。どーせその年の参加者が全員弱かったんだろ!」
「殺す」
静かに立ち上がったレジーナの腕をつかんで宥めるハルカ。
「まぁまぁ、あまり良くはないですが、ほら、来年出場すればおのずと強い人が出場していることはわかりますから」
そしてその隙に静かに立ち上がったアルベルトが横を通り抜けていくことに、ハルカは気づかなかった。ちなみにコリンとノクトは気づいていたけれど止める気はなかった。
アルベルトは年が同じくらいだと思われる若者の肩に、ポンと手を置いて声をかける。
「おい、手合わせしようぜ。俺もその年の武闘祭出てたんだよ」
「なんだてめぇ……」
若者は立ち上がりながら手を振り払おうとしたが、アルベルトは動きを察してさっと体を躱す。
「あ、あー……」
ハルカが事態に気づいたときには、二人は既にしっかりと近距離でにらみ合っていたのだった。





