残党たち
ハルカは広場へ戻る前に、すでに息のない賊を障壁で集め、それを運んでいく。
死んだ賊たちを全て集めたら、広場の端で燃やしてしまうつもりだ。
森で死んだ者の多くは、森の生き物に食べられて土に帰るのだが、時折食われずに残るとアンデッドに変じる者もいる。
余裕があるのならば火葬してしまった方がいい。
森から戻ったハルカたちは、まずサラたちの帰還を確認したが、案の定まだのようであった。帰りを待つ間に、ハルカたちは賊の正体を探ってみることにした。
「依頼を受けていたというのは嘘ですよね」
男はだんまりだ。
もう無駄を悟っているのか、ハルカたちと喋る気がないように見える。
「ハルカはこいつらに見覚えがあんのか?」
先ほど冒険者と断定したことが気になっていたアルベルトが尋ねる。
ハルカはこの世界へ来てから随分と物覚えが良くなった。時間をかければ大抵のことを思い出せることが分かってからは、メモをすることも随分と減っている。
最初の頃は若さのお陰かと思っていたハルカだが、それにしては優秀過ぎる記憶力である。今ではきっとこの不思議ボディのなせる業なのだろうなと、訝し気に思いつつ頼らせてもらっている。
「はい。【悪党の宝】の冒険者だったかと」
「あー、オウティさんの一件で追い出された冒険者じゃない?」
「……そうみたいです」
じっと賊を見つめていたモンタナが肯定すれば、ハルカたちの中ではそういうことなのだろうと話が決まる。
街の裏側に近い場所で生きてきた冒険者が街を追い出されれば、こうして追いはぎに変わってしまうことだってあるだろう。それなりに活動をしてきたのだろうから、別の街で再起するという手もあったはずなのに、楽な方へ逃げたのはこの男たちだ。
相手が強者と分かれば襲わず、そうでなければ証拠も残さず奪い殺し尽くしていたのだろう。場合によっては知らぬ顔で、他の街に奪った物資を売って過ごしていた可能性すらある。
冒険者の内情を知っているからこその、酷く悪質な賊である。
ここで仕留めておかねば、あとから通る旅人が幾人犠牲になっていたかわからない。
「……一応、反対側も警戒しておきましょうか」
「そうしとこっか」
エリやカオル、それにアルビナも、街では上から数えたほうが早い冒険者だ。
【悪党の宝】から落ちてきた冒険者に負けるとは思えないが、もしモンタナたちにすら気配を悟らせないような冒険者が潜んでいれば話は変わってくる。
そんな冒険者がいたら、まず都落ちしていないだろうけれど。
とにかくハルカは心配して、捕まえた男を障壁でとらえたまま、反対側の森の際まで移動をするのであった。
到着すると、レジーナが勝手にのしのしと森の中へ入っていく。
「レジーナ、どこへ」
「遅ぇから見てくる」
「いや、ええと……」
経験だ成長だと言っているが、レジーナの言ったことはある種正論だ。
一応仲間であるサラを心配しての行動でもあったので、何をどう止めたらよいのか咄嗟に言葉が出ない。
そうこうしているうちに、レジーナは森の中に消えていってしまった。
「……見に行く?」
固まっているハルカに提案したのはコリン。
レジーナが行ってしまったのだから、もうハルカがここで待っていたって結果は大して変わらない。
「いやぁ」
「行こうぜ。まだ見つけられてねぇなら、それはそれで実力不足ってことだ」
「いくです」
次々と歩き出す仲間たちを見送ったハルカの腰を、コリンがポンと叩く。
「じゃ、行こっか」
「……そうですね、行きましょうか」
ハルカは早足で仲間の後を追いかける。
すぐに追いつくと、レジーナは何も言わなかったが『なんだこいつら』とでも言いたげな顔で振り返ってから、「ふん」と鼻から息を吐いてずんずんと森を進んでいく。
レジーナの足取りには迷いがなく、確実にどこかを目指しているようであった。
「……こっちに入ってったサラたちの痕跡があるですよ」
ハルカが不思議に思っていると、モンタナが解説をしながら歩いてくれる。
足元の葉がずれ土がむき出しになっていたり、顔にあたりそうな辺りに生えている枝が折られていたりと、よく観察すれば確かにそれらしい痕跡はいくらでもあった。
「でも、これで待ち伏せする人もたまにいるから気を付けたほうがいいです」
「なるほど……」
これまでも何度も賊を討伐してきたのにこの辺りの知識に乏しいのは、いつもは賊があちらから襲ってきていたからだ。
特にアルベルトが大きくなるまでは、ハルカたち一行は女子供の集団であった。
賊が見れば襲ってくるのは当たり前のことである。
アルベルトが大きくなっても、ナギがいない限りはやっぱりカモに見えるらしく襲われてばかりだった。
これまで、こんな風に追跡することはほとんどなかったのである。
十分ほど森の中を歩くと、少しばかり開けた場所で賊が五人ほど地面に倒れ伏しているのが見えた。
すでに討伐は終わっているようで、心配をするまでもなかったようだ。
反転攻勢してきた賊と戦うことになったのか、賊は皆こちらを向いて倒れている。
心配事は一つ。
横から見たサラの顔色が、今にも倒れるのではないかというほど真っ白であった。





