ワクワクしないかな?
お金の話などの段取りが大体付いたところで、フォルテは「ところで!」と言って身を乗り出した。ハルカ以下数人は上半身をすっと引いたが、アルベルトはテーブルに肘をついたまま呆れた顔をしている。
「だからうるせぇって」
「いや、これに関しては許してほしい! きっとアルベルトさんも聞いたらびっくりするよ!」
「なんだよ」
「よくぞ聞いてくれました!」
「言わせたんだろ」
会話のテンポが非常にいい。
案外この二人、相性がいいのかもしれない。
「〈アシュドゥル〉と言えば遺跡、遺跡と言えば〈アシュドゥル〉というのは、一流の冒険者の皆さんなら当然ご存じのことだと思います!」
「ええ、まぁ、そうですね」
あそこの冒険者たちはまた特殊で、遺跡に潜る冒険者と外で活動する冒険者で争っていたりする。普通はそんな派閥ができるものじゃないから、それだけ遺跡探索をする冒険者が多い、ということでもあるのだが。
アルベルトが参加した武闘祭で優勝を果たしたジーグムンドの冒険者チームなんかが、あそこを拠点に遺跡探索にいそしんでいるはずだ。
あとはハルカたちが昔助けたオレークが住んでいたり、実はエニシを拾った街でもある。
通り過ぎてばかりだというのに、意外と縁はあるものだ。
「実はな、新たな遺跡が見つかったのだ!」
「ふぅん、そうなの?」
「そうなの、ではないのです!」
「わっ」
フォルテはよく分からず首を傾げたカーミラに対して、勢い込んで前のめりになり、アルベルトにその額を押さえられる。
「やめろ馬鹿」
「失礼、興奮しすぎました」
フォルテはアルベルトに押されて大人しく席に戻る。
ともにやってきている商会の従業員たちも、困った顔で何度も頭を下げている。
いつものことなのだろう。
「新たな遺跡は随分と深い地層に眠っていて、千年ほど前の神人時代の遺跡から、更に潜った先に存在するのです! 〈アヴァロス商会〉は金をたくさん持っています。私の代でも商売は広げましたが、はっきり言って金貸しの仕事などなぁんにも面白くない! 私は冒険者になりたかったのです! 遺跡、古い遺跡! 心躍るではありませんか! どうです! 機会があればついでにそこも調べてはみませんか!?」
「確かに面白ぇな」
「でしょう! アルベルトさんなら分かってくれると思った」
「だから近ぇって」
乗り出してまた額を押さえられているが、フォルテはなんだか嬉しそうだ。
「まぁ、その辺りのことは〈アシュドゥル〉に着いてから考えましょう」
ハルカが努めて冷静にこの場を乗り越えようとすると、コリンが悪戯っぽく流し目を向けてくる。
「正直ハルカはどう思うの?」
目を逸らすと反対側ではモンタナとユーリも、ハルカの様子を窺っている。
「……まぁ、気にならないと言えばうそになりますね」
「そですね」
「だよなー」
「やっぱりね」
モンタナとテオドラまで同意すると、まだ何も決まっていないのに、ほとんど全員の気持ちが遺跡の方へと向いてしまった。フォルテが最初に言った通り、どうやら少しでも冒険心を持つものの心をくすぐるような話であったようだ。
「私はそこで歴史的な発見があるのではないかと思ってましてね。わざわざ地方の店の確認をする振りをして、あ、いやなんでもありません。失礼」
「最後まで言えよ、おっさん。今更断ったりしねぇから」
アルベルトに促されたフォルテは、咳ばらいをしてから「そうですか?」と言って、にっかりと笑う。
「いや、強者を集めてですね、私が〈アシュドゥル〉にいる間に、何か起これ! と、思いまして」
「駄目だこのおっさん、ちょっと面白ぇぞ」
「変な商人もいるもんだなー」
アルベルトとテオドラはすっかりフォルテが気に入ったらしく、けらけらと笑っている。
「一流の商人というのは、一手で様々な利益を求めるものなのですよ」
「自己満足ばっかりにみえるです」
「それが一番大事でしょう?」
フォルテは両手を広げると、恥じることなく言い切って声をあげて笑ってみせるのだった。
さて、依頼を受けることが決まったハルカたちは、急ぎ準備を整えるために、一度森の拠点へと戻ることにした。
森へ着いて状況を共有すると、フォルテの話を聞いたノクトが笑った。
「〈アヴァロス商会〉ですかぁ……。あそこの当主は昔からそんな感じですねぇ。ドラグナム商会同様、元は王国の貴族でしたが【独立商業都市国家プレイヌ】建国の際に、商人へと転身しています」
「いかにも、という感じですね」
相当な変わり者だが、仕事はできるタイプの男なのだろう。
彼一人の護衛を少人数でやるのは疲れそうだが、何せ今回は大人数での移動だ。
ずっと話し相手をしていなければいけないわけではないのは救いである。
今回の依頼の参加者は、ハルカたち最初のパーティを組んだ四人。
それに、騒ぎの気配を感じ取ったレジーナと、サラの状況がちょっと気になっているノクトである。
ちなみに歩きでの移動になるうえ、〈アシュドゥル〉の地面は繊細ということで、ナギは今回お留守番で、それがかわいそうだからと言って、ユーリも留守番をすることになった。
長く一緒にいるとぼろが出そうな吸血鬼組と、門番のタゴスも留守番であるから、よほどのことがない限り拠点の心配はないだろう。
期間は短くて二週間程度。
どんなに長くてもひと月だ。
それ以上長くなるようだったら、ハルカが急いで帰って連絡して、再度出向いたって良い。
そんなわけで、週明けより、ハルカたちの久々の護衛依頼がスタートすることになるのであった。





