地元の付き合い
ソリスと話をした翌日、街に来たついでにアルベルトが友人や父であるドレットたちに会いに行き、ハルカたちはのんびりと街の拠点で一日を過ごすことになった。
コリンは一応仲直りをしたはずなのに、結婚式以来まだ一度も実家に帰っていないようだ。
「コリンも顔を出した方がいいんじゃないですか?」
「うーん……、そうだとは思ってるんだけどさー……。恥ずかしいっていうか……」
「わかりました。それじゃあ、次に街に来た時はいきましょう?」
「まぁ、うん、そうだよね、うん」
本人も行った方がいいとは思っているようで、あまりしつこく言っても逆効果かもしれないと、ハルカは一歩引けば、コリンもその気遣いを感じて小さな声で了承した。
ハルカは立ち上がってコリンの頭を軽く撫で、アルベルトを見送りに出る。
やってきたコリンに向けて、アルベルトも同じことを気にしているのか声をかけてきた。
「んじゃ行ってくる。なんか伝えることあるか?」
「別にない。次は会いに行くし」
「そうか、んじゃ次は一緒に行くか」
愛用の剣を担いで出かけるアルベルトの背中は随分と広くなった。
通りを歩いていても、頭が一つ抜けるくらいには背が高く、今ではすっかり立派な青年だ。
「アル、大きくなりましたよね」
「中身はあんまり変わってないけどねー」
コリンはさっさと広間に戻るとクッションに飛び込んで、ゴロゴロとくつろぎ始める。たまにはこんなゆっくりした日もいいだろうと、ハルカも台所へ顔を出して、お茶を準備することにしたのだった。
ハルカたちはその後も、近所で買い物をしてからナギと一緒に昼寝をするなど、本当にただのんびりとした休暇を過ごす。それで食事の時間には美味しい料理が出てくるのだから最高だ。
一般的な冒険者らしい休日を存分に堪能した。
普段のハルカたちは勤勉に訓練をし過ぎているのだ。
ゆったりと流れる時間に、付いてきたカーミラも大満足で寛いでいる。
レオンとテオドラは、一応騎士たちの駐屯地に顔を出してくると出かけてしまったので不在。
あまりにのんびりしすぎて、夕暮れ時には本当にこれで良いのかとハルカは心配になって来たくらいだった。
夕方になって双子が帰ってきて、眠る直前くらいの時間にアルベルトも戻ってくる。
少しアルコールの香りがしたけれど、昔の友人たちが飲んだだけで、本人は飲んでいないようだ。足取りは確かで、顔も赤くなっていない。
アルベルトも冒険者の宴会には憧れていたのだが、自分が酒に弱いとわかってからは、コリンの言う通り、必要とならない限り酒を口にしないようにしている。
「なんか明日ショウさんがこっち来るって言ってたぞ」
「え、なんで?」
「知らね。俺たち皆に話があるってさ。別に何の準備もいらないって言ってたから、気にしないで待ってたらいいんじゃね」
予定が狂ったコリンは複雑な顔をしていたが、ハルカとしてはさっさと再会した方がいいと思っていたので反対の言葉はない。
何か考えているらしいコリンをそこに置いて、こっそりと寝室へと引っ込むことにしたのだった。
翌朝の朝食を終えた頃、ショウは子供を二人連れ立ってやってきた。
長男のイーミンと、長女のルオシである。
どちらも末っ子であるコリンにはひたすら甘い。
ただし今日の二人は左右からショウを挟んで厳しい表情をしている。
「それで、どうしたの? なんか商会同士の関係で、あんまり行ったり来たりすると文句言われるって話じゃなかった?」
【竜の庭】と【ハン商会】が近すぎるという話だ。
実際は何の影響も受けていないし与えていないのだが、どうしたってよそからはそう見られない。
「うん、それはあるんだけどね。そのバランスの関係で、良かったら仕事をお願いできないかなと思って」
「父さん」
「パパ」
話し始めたショウは両側から呼ばれて同時に肘でつつかれる。
「……どうしたの?」
コリンが不思議に思って首をかしげると、ショウは咳ばらいをして話を切り替える。
「いやね、最近この子たちに顔を合わせる度に責められるんだ。コリンはどうして帰ってこないんだ。どうして顔を出さないんだ。もしかして私がきちんと謝罪していないせいじゃないか、早く謝りにいけとね」
「俺は家族の仲を気にしているだけで、謝りにいけなんて言ってないよ、コリン」
「お姉ちゃんもね、コリンちゃんに会いたいなーって話してただけなの。パパが悪かったから、街に来た時だけでいいから顔を出してくれないかしら」
「ルオシ、勝手に私の分を謝罪しないでもらっていいかな?」
「別に、私怒ってないけど……」
コリンがぼそっと言えば、ショウは目を見開いてから左右の子供たちを順番に見る。
「でも顔を出しづらかったのは父さんのせいだろう?」
「そうよ、もっとパパのこと怒っていいのよ?」
「だから、もう怒ってないってば。なんか癇癪起こしちゃったから恥ずかしかっただけ。次に街に来た時はちゃんと会いに行くって、昨日ハルカとも約束したとこだもん。ね、ハルカ?」
「あ、そうですね、はい」
話の流れのままに頷くと、親子は大きく頷いて口々にハルカを称賛する。
「うちの家庭のことまで気にしてくださりありがとうございます。本当にいつも世話になってばかりで、あ、今日もお土産を持ってきましたので……」
「コリンはいい仲間を作ったね。本来ならもっときちんとご挨拶をさせていただくべきところを、諸々の事情で……」
「この人が一緒にいてくれるなら安心ね。ハルカさん、本当にいつもありがとうございます。私、コリンが冒険者になるって聞いたときは心配で心配で……」
「もう! 分かったから! 恥ずかしいからやめて!」
三人三様に話しかけられてハルカは目を丸くして、コリンがテーブルを叩いて制止させる。
その一言でぴったりと言葉が止まる。
コリンがどれだけ家族から愛されているかが分かり、ハルカは思わず口元を押さえて笑ってしまった。





