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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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目的はなんだ

「……ソリス様のように難しいことを考えられているとは思えませんが、皆が穏やかに暮らしに困らず暮らしていければと思っています。私も仲間たちからはよく甘いと言われますし、実際そうなのだろうと自覚があります」


 ハルカにはソリスの意図が分からなかったが、ここまで見て話したことを信じて、素直に質問に答える。


「あなたは随分と強いと聞きます。その力を以て何か望むものはあるのですか?」


 おそらく望むものは今、皆すぐ近くにある。

 ハルカが望むのは、今の仲間たちと冒険者として生きていくことくらいだ。

 贅沢をしたいわけでもなく、誰かに敬われたいわけでもない。

 繋がりがたくさんできて、守りたいもの、助けたいものは増えた。


 強いてこれから先の望みを述べるのであれば……。


「仲の良い人が困っている時に助けられたらいいなと」

「それで全部ですか?」

「そうですね……。今こうして、仲の良い人に囲まれて、美味しいものを食べて、世界を巡って……、それが私の望むことのほとんどなのだと思います」

「まるで聖人のようだね」


 ぽつりとつぶやいたのはリリウムだった。

 嫌みではなく単純に感心して漏れた言葉のようであった。

 ハルカが目を丸くしたのを見て、「失礼」とリリウムは口を閉じる。


「そんなことはありません。私だって怒ることもありますし、酒も飲みます。誰だって助けたいと思うわけではありませんし、人を殺すことだってあります」

「そのどれもが聖人と呼ばれる人物とてやってきたことです。聖人の基準が何だと言われると困りますが、共通していることは、『誰かの手助けをしたい』という意志が強く行動を起こしている、あるいは『多くの人を救っている』という事実があることです。おや、ハルカさんはどちらにも当てはまりますね」


 謙遜すれば逆に追い詰められてしまってハルカは目を白黒させた。

 最近では褒められるのにも少し慣れてきたが、偉い上に年長者にここまで手放しで褒められるとどうしたらいいかわからなくなってしまう。

 ハルカは勝手に肩を小さくして、「いえ、そんな……」とだけ呟き恐縮した。

 それを見て隣にいるリリウムが声を殺しながら笑う。


「何が面白ぇの?」


 アルベルトが素直に尋ねると、リリウムはまた「失礼」と言って黙ってしまう。


「私も是非聞かせていただきたいものだわ?」


 ハルカにぴっとりとくっついて座っていたカーミラが、麦わら帽子で目元を隠したまま追撃をする。カーミラからすれば真面目に話しているハルカを馬鹿にしているようにも見えたのだ。

 憤る、というほどではないが、説明ぐらいほしい。


「いや、笑って悪かったよ、悪気はなかったんだ。ここへ来る前に色々と報告を受けていてね。油断ならない相手だと言う者と、極めて善良な人物だという者で半々だったのさ。それが蓋を開けてみればどうだい、こんなにかわいらしい子が出てきた。油断ならないなんて報告した連中は、よっぽど神経を逆なでするようなことをしたんだろうなと思ってね」

「そういうことなら……」


 カーミラが引き下がると、ソリスが話を引き継ぐ。


「リリウム、私のお話の時間ですよ」

「ああ、黙っているよ、続けたらいい」

「リリウムの黙っているはあてにならないですからね、頼みますよ」

「わかったわかった」


 リリウムは背もたれに寄りかかると、今までとは違って体の力を抜いてくつろぎ始めた。今までは何が起こってもいいように警戒していたようだが、これはもう心配する必要はないだろうと判断したのだろう。


「さて……、お話ししてみて心が定まりました。私はハルカさんに聖女の称号を受け入れてもらえないかと思っているのです。そうなれば少なくとも、私が元気で喋れているうちはお力添えができるのではないかと思います。〈暗闇の森〉以東は、聖女であるハルカさんが見てくれているということにすれば、これより先勝手なことをするものが出る可能性も低くなるでしょう。こちらの都合でご迷惑をおかけしているのは重々承知しております。厚かましいお願いであることも。しかし、どうかこの先の未来のためにも、是非ハルカさんの力をお貸しいただきたいのです」


 この言葉は裏を返せば、現状ではいつか勝手なことをするものも出てくるかもしれないという宣言だ。それが理解できてしまえば、本当に図々しいお願いである。

 ただ、最初にソリスの願いを聞いているからこそ、そこで起こる諍いを避けたいという気持ちは理解できる。


 問題はソリスがどこまで事情を把握しているかである。

 どうやら情報通のようだが、ハルカが〈混沌領〉の王となっていることまでは知らないだろう。

 聖女の称号などをいただいてしまっては、教会に常に嘘をつきながら過ごさなければいけなくなる。

 気軽に受け入れれば、場合によっては聖女がいるからと拠点までやってくるものがいたっておかしくない。


 加えてハルカは教会の反対勢力である特級冒険者であるカナとも仲が良い。

 かつて聞いた話によれば【自由都市同盟】は、元聖女であるカナが教会と大喧嘩して作った国であるはずだ。

 すぐにその二の舞になりかねない。


 ハルカは少し悩んでから、すぐには返事をせずに探りを一つ入れてみることにした。


「……私たちの仲間には、すでにレジーナがいます。彼女も聖女ですが、代わりにその役割を果たすわけにはいかないのでしょうか?」


 ハルカはドキドキしながら、コリンたちはハルカが珍しく粘り腰を見せていることに心の中で感心しつつ、ソリスの返答を待つ。

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― 新着の感想 ―
結局首輪着けに来たんじゃねぇか やっぱりこの世界で長生きしてる爺婆は妖怪だわ
感想でみんなハルカの色んな肩書並べてるけど、ここまでおじさん無し
聖女wwwww いや確かに相応しい人だとは思いますよ? 足るを知り、慎ましく、博愛の精神を間違いなく持っている。あとかわいい。 でも聖女なんて仰々しさとは正反対の、近所のなんかすごいらしいお姉さんっ…
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