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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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古参の枢機卿

「はじめまして。私は〈オラクル教〉で枢機卿をしております、ソリス=ニーロンと申します。【竜の庭】の皆様かと拝見しましたが、間違いございませんか?」


 幾分かふくよかで、目も眉も垂れた、優しそうな老人であった。

 枢機卿といえばコーディとバチバチにやり合っているイメージがあるし、一部の神殿騎士による無茶なやり方が記憶に新しいハルカたちからすると、意外な外見であった。

 〈オラクル教〉のナンバーツーとはとても思えない。


「ご丁寧にありがとうございます。【竜の庭】の特級冒険者、ハルカ=ヤマギシと申します」

「おお、良かった。耄碌した目でも間違えていなかったようで安心しました。ぜひ一度お会いしたいと思っていたのです。まさかハルカさんの方から教会へ来てくださるとは……」


 差し出された手をハルカが何の気なしに握ると、ソリスはもう片方の手を添えて嬉しそうに腕を振る。どこからどう見ても善人なのだが、これまでの経験が災いして、どうしても警戒してしまう。

 なんだか自分がすごく悪い人間になったような気がして、ハルカは勝手に落ちこんだ。


「普段から孤児院へいらしてるのですか?」

「あ、いえ、今日初めてで……」

「おお、ご興味がおありで?」

「あ、ええと、はい。時折街で生活に困っている子を見かけるので、孤児院はどのような施設なのか様子を見に……」


 ついぽろぽろと本音を漏らすハルカに、ソリスは変わらず微笑みながら大きく頷く。


「なるほど、それでしたら私が長年担当してきたことです。是非お話の席をもうけさせてください。おお、いつまでも立ち話をして申し訳ありません。どこか良いお店でもあれば皆さんでお食事でもしながらお話をしたいのですが……」


 ようやく手を放したソリスは両手を広げてハルカたちとの交流を図る。

 するとアルベルトがつるりとしたソリスの頭を見ながらぼそり呟く。


「なんかよくしゃべるけどいい奴そうだな」

「いやはや、ありがとうございます」


 とんでもない言いように、コリンが「アル!」と言って口を塞いだが、ソリスは朗らかに笑って礼を言った。ハルカがモンタナをちらりと見ると、こくりと小さく頷かれる。

 ここまでの全てが演技ではなく、ソリスの本音なのだろう。


「ここでのご用事は大丈夫ですか?」

「はい。皆元気で毎日勤勉に過ごしているようです。それを確認できれば十分ですから」

「そうですか……、ええと……、少しここから歩いてもいいですか?」

「もちろんです」


 ソリスを連れて外へ出ると、教会のものが声をかけてくる。

 あちらもハルカを知っているから遠慮がちだが、枢機卿の身の安全を考えれば当然のことだろう。


「その、外へ行くのならば護衛を……」

「それでは物々しくなってしまいます。大丈夫です。あなたも、この方々の街での評判をご存じでしょう?」

「せ、せめて連絡だけ……」

「ええ、もちろん構いません。ただ、私の護衛はこんなこと慣れっこですから、あまり気にしないでしょう」


 教会のものが慌てて駆けていくのを見送ってからソリスは、「お待たせしました」と振り返る。


「あの、本当に大丈夫ですか?」

「もちろん。こんな老いぼれの身など、そんなに大事にするものではありませんからね」


 ハルカが尋ねれば本人は謙遜してそんなことを言う。〈オラクル教〉の関係者に聞かせればとんでもないと慌てるに違いない。

 事実、〈オラクル教〉に対する信仰心がそれほど厚くないレオンでさえ、表情をひきつらせている。

 いつも同じく枢機卿であるコーディと付き合いがあるとはいっても、レオンが生まれる前から枢機卿の地位にいるソリスを目の前にしては話が変わってくる。


「何か食べられないものとかはありますか?」


 ハルカの知っている宗教家は時に菜食主義であったり、特定の肉類が食べられなかったりする。コーディや双子が気にしているところを見たことがないので、おそらく大丈夫だろうと思いつつ確認だ。


「何でもおいしくいただきますよ」


 ふくよかな体から説得力のある言葉が返ってきた。

 それでは、とハルカは先導して街の目抜き通りの方へと足先を向ける。

 美味しい食べ物の店ならば色々と心当たりがあった。


「皆さん全員【竜の庭】の冒険者の方々なのですか?」


 何気ない質問なのだが答えづらいことは色々とある。

 

「僕たちは〈オラクル教〉のものです」

「おや……、皆さんと仲良くしているということはコーディ君の所の……ああ、スタフォード家の子たちですね。私も声をかけようと思っていたのですが、コーディ君に牽制されてしまったんですよね」

「恐縮です」

「まぁ、そう固くならずに……。私なんて君のお爺ちゃんくらいの歳でしょう。ひいお爺ちゃんでしょうか?」


 ソリスはあくまで穏やかな交流を望んでいるのだろう。

 立場を意識しないでほしいようである。


「爺さん何歳なんだ?」

「うむ、よくぞ聞いてくれました。今年で九十八になります」

「神殿騎士の婆さんより年下じゃん」


 失礼なアルベルトの質問も、ソリスにとっては望むところなのだろう。

 スワムと比べられて楽しそうに笑い声をあげた。


「ほっほ、確かにそうですね。私は戦う力があまりないですから、見た目通りの年齢なのですよ」

「いえ、見た目はかなりお若く見えますよ……?」

「いえいえ、そんな」

 

 ソリスは否定するが、九十八でこれだけふくよかで元気に歩きながらお喋りできているのだから、絶対に何かしらで魔素を使うことに長けているはずであった。

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― 新着の感想 ―
命が綿菓子より軽いこの世界で長生き=曲者、猛者、妖怪の類いなんよ
アルが良い仕事してる
↓まさにそのとおり!w
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