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レオンとハルカ

「あー、孤児院なら、一応商人とかも出資してるはずだよー」


 昨晩の話を朝食を作っているコリンの背中に話しかけてみると、そんな言葉が返ってきた。


「へぇ、そうだったんですか」

「うん。特に新しい商会とかは熱心かも。それで人材確保できれば運がいいし、街のために貢献してますよって顔もできるから。親のいない子たちってさ、悪い方に走っちゃうことも多くて、それで被害に遭うのは普通に商売をして暮らしている人たちだからねー」


 考えてみれば至極もっともな意見であるとハルカは納得する。

 街に根差す商人であれば、治安がいい方がいいに決まっているのだ。


「うちのパパも出資してたはずだけどね」

「なるほど……。それでも貧しい子たちを見かけるのは、やはり規模が小さいからですか?」

「うーん、そうだと思うな。それに目端の利く子って、大概先に【悪党の宝】とか【金色の翼】に拾われちゃうことが多いし。孤児院に行くような子たちって、比較的おとなしい子が多いのかも。だからやっぱり、人材確保って面で見るとあまり効率が良くないから、出資の額もそれなり、でしかないのかもね」


 そういった子たちは、いわゆる下級冒険者として黙々と働き、その日その日を真面目に過ごしているタイプだ。大きな畑を持っている人や、木こりや職人の弟子になる者もいる。

 街の根幹を支えてくれるような人材であることは確かであるが、それは同時に、街を支えている人たちの間には〈オラクル教〉の教えが深く染みついているということにもなる。


 それを考えると、やはり教会にとっては〈孤児院〉というのは、儲かる儲からないにかかわらず、なくすわけにはいかない大事な要素の一つなのだろう。

 儲からないだなんだとコーディへの苦情が飛ぶのは、単純に権力争いの一環なのかもしれない。


 朝食を食べてから街へ繰り出すときになって、少し手前で立ち尽くすレオンにテオドラが小声で話しかける。


「めっちゃ行くじゃん」

「…………まぁ、孤児院を見に行くだけだし」


 ナギの前にはハルカとカーミラがいる。

 これは元から知っていたことだが、更にユーリといつものパーティメンバーがワイワイと楽しそうに喋っていた。

 仲の良いことである。


「少人数でお出かけだったんじゃねぇの? だから俺は留守番してることにしたんだけど」


 折角のテオドラの気遣いも台無しである。


「……別に一緒に来てもいいけど」

「ふーん、じゃ、いこっかな」


 歩けば三日ほどかかる行程も、ナギの背に乗ればせいぜい一時間程度だ。

 ふらっと気軽に一緒に出掛けることを決めたテオドラである。

 

「ま、あんま落ち込むなよ。ハルカがあんななのはいつものことだろ」

「落ち込んでないけどね」

「そうか?」


 テオドラはやたらとレオンがハルカのことを好きだと冷やかしてくるが、実際は微妙なところである。一割二割くらいはそんな気持ちもあるかもしれないけれど、それ以外の感情だってある。

 レオンは言わないでやっているが、テオドラだって本人は自覚していなかったようだけれど、アルベルトに対して多少それらしい気持ちを持っていたはずだと思っている。

 二人でハルカたちの話をしている時、テオドラの口からは、そうでなければおかしいくらい他の面々よりアルベルトの名前が出てくることが多かった。


 結婚したと聞いてすぐに気持ちは切り替わったようなので、ほじくり返さないでやっているのは、一応お兄ちゃんという自覚がレオンにあるからである。

 レオンはハルカが自分のことをどう見ているかなんてよくわかっている。


「そうだよ」


 ついでに誰にだって恋愛感情を抱いていなそうなことも知っている。

 相当変人であることをわかっているからこそ、いちいち気にしたり落ち込んだりしても仕方がないと分かっていた。


「レオ的にはカーミラさんとかどうなの? めっちゃ美人だけど」

「テオ的にはイーストンさんとかどうなの? すごく美形だけど」


 面倒なことを質問してきたので、似たような質問を返してやるレオン。


「いや、俺別に好きな人とかできたことねぇしわかんねぇよ。良い人なんじゃね」

「ふーん……」


 横を向いてから意味ありげに同意して見れば「なんだよ……」と、なんだか元気がなくなるテオドラ。昔からレオンには口で勝てないくせに、懲りずにこうして絡んでくるのはテオドラの可愛いところであった。



 ナギが空を飛ぶ。

 レオンは今もし〈ヴィスタ〉で籠って過ごしていたならば、生涯見ることのなかったであろう景色を眺めつつ、考え事をしていた。

 ナギは飛ぶときに翼をあまり動かさない。

 その飛行原理はおそらく魔法によるものだと考えながら、ハルカに確認をとる。


「……ハルカさんって空を飛ぶとき髪の毛がなびくよね」

「はい、そうですね」

「でもナギの背中に乗ってるときはあまり風を感じないよね。四方に障壁をはってくれてるけど、それのせいではないよね?」

「……そうですね」

「何でか考えたことってあります?」

「いえ、なんとなくそういうものなのかなと」


 どうやらハルカは学者には向いていないようである。

 なんとなく魔法で飛んでるからそんなもの、くらいの感覚だ。

 知識として、そもそもナギほどの重さの生き物が飛ぶことはおかしいとわかっているし、自分の飛行も魔法によるものだからと、勝手に同じだろうと思い込んでいるのだ。


 レオンは少しだけ考えてから、考えを言葉にまとめる。


「鳥は空を飛ぶとき、羽を使ってると思うんだけど、ナギって翼が動いてない。だからたぶん魔法で飛んでるんだと思う。でも、この大きな体だと速度を出したとき、風を体に受けて飛びにくいはずなんだよね。だからたぶん風の抵抗も魔法で何とかしてるんだと思うんだけど……、誰に教わったのかな。自分で考えたんだとしたら、相当頭がいいよね」


 長い思考を開示したそのままで、思考にのめり込んでいってしまったレオン。

 ハルカはぶつぶつと呟くレオンの横顔を見ながら、穏やかな表情で『本当に頭のいい子だぁ』と思いつつ、その思考についていくことを放棄したのであった。

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― 新着の感想 ―
レオもテオも子供だった人物がまっすぐ成長していく様を見るのはほっこりするね。
大型「飛龍」って生き物なんだしその辺は教わるというより本能的なものじゃないのかなぁ 理屈を考えれば人間が使える飛行魔法の開発みたいなことに繋がるのかもだけど ナギとかヴァッツゲラルドさんに聞いても答が…
ゲッツばあちゃんが喜んで話してくれそう (帰れない)
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