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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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複雑な気持ち

 そういえば食べるものがあまりなかったなと、ユーリと手分けして野草を適当に摘み始める。

 幸い腰に小分けにした調味料と、昼ご飯にしようと思って買っておいた堅いパンがぶら下がっている。

 食器をレジーナに借りて適当にスープでも作ろうという魂胆であった。

 おそらく少年は腹を空かせているだろうから、パンをスープに溶かすくらいでちょうどいい。


 ついでに適当に薪を集めてさっさと火を起こす。


「レジーナ、大きな調理道具とか持ってますか?」

「ない」

「そうですか……んー……」


 どうもレジーナに元気がない、というかそっけない。

 来る前に何かあったことはわかるのだが、とりあえず手を動かしながら考えるハルカである。しばし唸りながら想像を膨らませ、少しばかりいびつな形の鍋のようなものを作り出したハルカは、水を張って湯を沸かす。


 少年の方をちらりと窺う。

 妹のピナがぴったりとくっついているが、ずっと俯いていてこちらも元気がない。

 明らかに自分のこともレジーナのことも怖がっているように見えた。


 何はともあれ、腹を満たしてやらねば元気は出ない。

 適当に野草を突っ込んでいると、レジーナがやってきて肉の塊をドボンといれた。

 塩漬けはされておらず、葉に包まれていたので、最近自分用に切り分けて保管しておいたものだ。


「ありがとうございます」

「あたしも食う」

「そうですね。レジーナの分も作ってます」


 いったん肉を引き上げて魔法で一口大に刻んで鍋に戻す。

 しばらく煮込んでから、固まってしまった調味料をドボンと落とし軽く味見。


 野草のちょっとした苦みの混じった、よく言えば滋養のありそうな味だった。

 食べられないものは入っていないはずなのだが、どうしてこうも美味しくならないのか。


 コリンがいれば上手に美味しく作ってくれるのだがと思う。

 野草を入れる順番とか、水に晒したりだとか、相性だとか、そういうのを気にしているのだろう。

 今度からもうちょっとちゃんとコリンの料理を勉強しようと誓うハルカである。

 

 とはいえ食べられない程ではない。

 パンをちぎって入れればそれで完成。


 できた頃にレジーナから持ち手のある食器を差し出されたのでありがたく借りて、出来上がったスープをすくって一口飲んだ。

 少年はハルカのことを警戒しているようだったから、とりあえず毒ではないことを伝えたつもりだ。


「ユーリ、ちょっと苦いですけど」


 ユーリに飲ませている間に、ハルカは適当な枝を削って箸を作る。

 同じようにレジーナも食べ始めている。

 横目で少年たちを見ると、腹は空いているようで視線を感じる。


 ピナはこちらへ来ようとすることがあったが、少年がそれを止めているようにも見えた。


 ユーリとレジーナの食事が終わる前に、ハルカは少年たちの方へと歩み寄る。


「ええと、お兄さん見つかって良かったですね。明日の朝には街まで送りますから」

「ありがとう! これ、えっと、依頼のお金!」


 手渡されたのはピナが腰に結び付けてあった袋だった。

 中身は確認しないけれど、音と重さからして、本当に子供のお小遣い程度の額であろうことが想像できる。

 ハルカはそれを受け取るか迷ったが、ややあってからきちんと受け取って穏やかに笑う。


「はい、確かに」


 額としては全く足りない。

 ただ、ピナなりの精いっぱいの報酬が差し出されたのだから、いらないと断るのもなんだか違うだろうとハルカは思うのだ。


「そ、それ、全然」

「彼女が君を探してほしいと依頼してくれました。これは多分、ピナちゃんの持っているお金の全部でしょう? 依頼料としてはふさわしい、と私は思いました。それでいいんです。ギルドを通したわけでもありませんし」


 少年の言葉はきっとピナを傷付けるだろうと思っての先回り。

 ただ、それは少年の思考をまた悩ませる。


 ハルカは少年の顔をよく覚えていない。

 なんとなく見覚えはあるなと思うけれど、どこでどんな関係があったかまでは思いだせていなかった。

 ここ数年で成長した少年は、顔立ちも少し大人になっている。

 分からないのも無理はなかった。


「なんにせよ、無事でよかったです」

「お、俺は……、俺のこと、覚えてないのか?」


 少年がぽつりとつぶやく。

 これまでの苦労は、ハルカにスリを働いたことに起因するものも大きかった。

 その本人が目の前にいて、素知らぬ顔で笑っている。


 自分が悪いとわかっているのに感情がぐちゃぐちゃになっていた。


「……んー……」


 ハルカは少しだけ焦っていた。

 レジーナにあれだけ人の名前を覚えるのは大事だと言っておいて、自分が忘れていては世話ない。

 記憶をたどる。

 その若く万能な肉体をもって記憶を手繰り寄せる。


 そうしてようやくもしかしたら、という記憶を引きずり出して、じーっと少年の顔を見つめた。


「…………あの、もしかして、あー……」


 ちらっとピナを見てハルカは言葉を選ぶ。


「昔その、私が赤い服を着ていた頃に、道でぶつかったことがありますか?」


 少年の顔がくしゃっと歪む。

 そうして言葉もなくこくりと首が前後に振られた。


わたおじ3巻! 明日発売です、です!

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― 新着の感想 ―
女神様に与えられた肉体、超万能やなw
「これまでの苦労は、ハルカにスリを働いたことに起因するものも大きかった。」 スリがうまくいかなかった相手が数年でこんなに有名になるなんて、ある意味、少年も運が悪いよな。 ここは、ハルカが悪党の宝と話を…
世話ないって思ってるのはハルカだけやでw 肉体や脳のスペックに魂が慣れるまで地球人類だった記憶ってチートだけど、ハルカの場合は肉体がすごすぎてデメリットでもあるから100年位は脳の回転が遅そうw ち…
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