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〈オランズ〉の冒険者

 ノーレンは楽しそうだった。

 二級冒険者という立場だけでちやほやされているのがいいらしい。

 緩い顔で笑いながら薄い酒をがぶがぶと飲んで、段々と酔いが回ってくると南方大陸での仕事の話をし始めた。

 その話のほとんどは、南方でも特に争いの多い小国群での話で、どちらかといえば冒険者よりは傭兵的な内容であった。それでも小国の軍と戦う話や、砂漠の盗賊を殲滅した話などは圧巻である。


 三人組はやんやと話を盛り上げて、新人冒険者たちは目を輝かせながら話を聞いている。ちなみにユーリも新人冒険者に交じって目を輝かせていた。

 すっかり冒険者の卵だ。


 存分に食事して酒を飲み、夜の帳が下りた頃に、ノーレンは立ち上がって自室へと戻っていく。

 どこにでもいる冒険者の姿であった。


 部屋まで戻る途中にノーレンは楽しそうに、あっちにフラフラこっちにフラフラしながら廊下を進んでいく。


「ここはいい街だね! ハルカさんの知り合いだからかもしれないけど、よそ者の僕にとても優しいし受け入れてくれる」

「そうですか? でも……、確かに他の街よりも平和な気はしますね」

「気に入ったよ。しばらくはこの街で暮らそうかなぁ」


 部屋までたどり着いたノーレンは、扉を開けると振り返って笑う。


「ここまで送ってくれてありがとう。あ、もし父ちゃんを見かけたら僕がここにいることは秘密にしてほしいな。よろしくね」

「秘密ですか?」

「うん、頼むよ」

「ええと、はい、わかりました」

「うん、それじゃあおやすみね、ユーリ君もおやすみだよ」

「おやすみなさい」


 扉がぱたりと閉まる。

 親に自分の居場所を知られたくないというのは、ノーレンの環境を考えればなんとなくわかる。

 彼女は彼女なりのペースでクダンを見つけて、こっそりと挨拶をするのだろうと、ハルカは勝手に納得して、懐かしい冒険者たちの安宿を後にした。


 夜の街を歩いて街の拠点まで戻り、二人は朝になるまでのんびりと休んだ。

 翌朝はゆったりと起きて、ユーリと買い物に向かう。

 食べ物はあるのだが、調味料やらはどうしたって街で手に入れなければならないので、定期的に街に買い物をしにくるのだ。

 

 ぶらつきながら必要な物を買って、次の店へ向かおうとしたところ、ハルカの足に女の子が一人しがみついてきた。


 全く身に覚えのない子供だ。

 なんだかわからずに固まっていると、女の子はハルカを見上げて口を開いた。


「依頼がしたいです!」


 ユーリよりも小さな女の子は、大きな声でハルカにはっきりと告げるのであった。

 周りはハルカが特級冒険者であることを知っているからどよめくが、女の子は必死の表情だ。


「ええと、とりあえずお話を聞かせてもらえますか?」


 ハルカが困った顔で尋ねると、女の子はこくりと頷きハルカの足から体を離した。

 それでも小さな手はズボンをしっかりと握って離さない。

 ハルカが歩き出せずに困っていることに気づいたユーリが、女の子の肩をトントンと叩く。

 振り返って困惑する女の子にユーリはにっこりと笑って尋ねる。


「大丈夫。どうしたのか教えて?」


 ユーリの穏やかな笑顔に、女の子は目を丸くしてこくりと小さく頷いた。


「に、兄ちゃんが、街の外出て帰ってこなくて、探してほしい……」

「……えっと、お兄さんはいくつ……何歳ですか?」

「十三歳」

「冒険者ですよね?」

「うん。魔物を狩ってくるって。一昨日から帰ってこない。お姉ちゃん、ハルカさんでしょ。偉い冒険者だって兄ちゃん言ってたから……」


 十三歳というと、アルベルトたちが冒険者になったくらいの年齢だ。

 戦える子ならばともかく、女の子を見る限り裕福な育ちではない。

 十分な戦闘訓練を積めている可能性は低いだろう。


 出かけてからすでに二日。

 慣れていない冒険者が街の外に出て命を落とすことはままある。

 新人冒険者の死亡する理由の大半はそれだ。

 いくら先輩が注意しようと、好奇心は中々止められるものではない。


「分かりました、探しましょう。名前は?」

「わたしピナ」

「ええと、ピナちゃんではなく、お兄ちゃんの名前の方をお願いします」

「ローネック」

「分かりました、探してみます。ピナちゃんのおうちは……」

「一緒に行く」


 気づけばまたも服ががっちりと掴まれている。

 連れていくのは難しくないが、こんな小さな子を勝手に街の外へ出すわけにはいかない。


「ええと、危ないのでお父さんかお母さんと一緒に待っていてください。すぐに行って帰ってきますから」

「いない」

「え?」

「お父さんもお母さんもいない」

「そう、ですか……」


 ハルカは天を仰ぐと、しゃがんで両手を女の子に差し出す。


「空を飛んで探しに行きます。一緒に行きますか?」

「うん」

「ユーリも」


 ハルカは飛び込んできた女の子を片手で支え、もう片方の手でユーリを抱えて空へ浮かび上がる。買った荷物はその場に置いたままだ。


「すみません、ちょっとそれを預かってもらえますか?」

「お、おう、もちろん構わないけど……」

「お願いします」


 女の子の話が本当だとすれば、事は一刻を争うはずだ。

 返事を待ってハルカはすぐに〈黄昏の森〉へと飛び立った。

 〈オランズ〉の周囲で魔物を倒すというのならば、目的地は〈黄昏の森〉に決まっていた。

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― 新着の感想 ―
足にしがみついてきた……で最初に思ったのが物乞いの子どもです。 C国にいたころ、そうやって観光客などの足にしがみついてスリをしたり、金をねだったりというのをよく目にしてました。 自分にも一回来たので試…
いっそ孤児の受け皿になるようなクラウンにするのが良いかもね。 どうせハルカは見捨てることが出来ないんだし、仲間もハルカを助けたいとか負担を減らしたいって考えてるだろうし。
ハルカが歩けば騒動に当たる。
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