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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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ノーレンと〈オランズ〉の冒険者

 〈北禅国〉の経緯を伝えきると、ラルフはふーっと息を吐いて眉間をもんだ。 

 ハルカから聞く話はいつだって規模が大きく、ラルフの手には負えないような事ばかりだ。

 それでも信頼をして情報を共有してくれるのだから、何かあった時は何とか手を貸したいと考えている。

 妻であるレナにもそれはきちんと説明してある。

 昔頬を張ってしまったことを本人も気にしているようだけれど、一度許されたことだからとそれ以上は触れないようにしていた。


 ラルフはレナと夫婦になる際に、もしハルカと出逢っていなければ、もっと違う人生を歩んでいただろうことを、レナに素直に話している。ハルカたちが冒険者としてどんどん駆け上がっていったからこそ、ラルフも改めて上を向くことができたのだ。


 アンデッド騒動の時だってそうだ。

 ハルカたちがいなければ、今頃この〈オランズ〉はなくなっていたかもしれない。

 そうなれば当然ラルフが支部長になることはなかった。

 ここ数年で起こった人生の分岐点には、いつだってハルカの影があった。


 レナは多少の嫉妬は覚えたが、しかしハルカが恩に着せるでもなく、ラルフに恋をしているわけでもないことはいつの間にか理解していた。

 とにかくレナは、自分がラルフの唯一の妻であればそれでいいのだ。

 ラルフが頑張って何かをしようとする分には、妻として、全力で手を貸すつもりでいる。


 今見張っているのは、ただ単純に、夫の仕事を一生懸命サポートしようという健気な心からであった。

 そうは見えないから怖いのだけれど。



 さて、〈北禅国〉の顛末を聞いたところで、今度はノーレンの話になる。

 最初にハルカから『こちらはノーレンさんです』と紹介されただけだ。

 どこのどんな人物かわからないけれど、ハルカが連れてきたのだから何かしら関係があるのだろうと後回しにしていた。


「ところでノーレンさんですが……、もしかすると【竜の庭】に加入をされるとかのお話ですか?」


 以前【魔狩り】と呼ばれる実績のある冒険者が【竜の庭】に加入したことがあったので、その類の話かと思い尋ねると、ハルカは首を横に振った。


「あ、そうじゃないんです。ええと……、ご自分で話されます?」

「そうだね。どうも、ラルフ支部長。僕の名前はノーレン=トゥホーク」


 鋭く働いたラルフの頭脳が、そのファミリーネームをとある人物と結び付けた。

 それはこの街にも滞在していたことのある、特級冒険者の代表格ともいえる人物だ。

 ラルフが思わず体を緊張させると、ノーレンは苦笑して続ける。


「ただの二級冒険者だけどね。普段南方大陸で冒険者をしているのだけれど、諸事情あってこちらで頑張ってみようかなって。本当は自分で仕事を探すつもりだったんだけど、流れに身を任せていたらこんなとこまで来ちゃって……、申し訳ないよね」

「いえ、先に聞かせてもらって助かりました。何か依頼があれば回しますので」

「いやいや、特別扱いしないでいいから。自分で地道にやるからさ」

「そうですか……? なんにせよよろしくお願いします」

「こちらこそだね」


 ノーレンはラルフから差し出した手を握って挨拶をしてから、「ところで……」と下からのぞき込むようにしてラルフに頼みごとをした。


「ここに、低級冒険者用の宿とか併設されてるかな……? 実はあまり持ち合わせがないんだよね……」


 ラルフは何度か瞬きしてから、笑って答えた。


「ありますよ。ハルカさん、後で案内してもらっても?」

「ええ、もちろん。私もそこにはお世話になったので」


 全員が和やかな調子で話が終わり、三人は支部長室を後にする。

 そのままギルド受付の横を通り、ノーレンが泊まる宿を手続。


 部屋だけ決めて戻ってくると、今度は騒がしい食堂の方へ向かう。


「姐さん! こっちっすこっち!」


 三人組が手招きしているところへ向かうと、若い冒険者たちがひそひそと内緒話を始めるのが見えた。


「本物だ」

「嘘だろ、ホントに知り合いだったんだ」

「だから言ったじゃんか。俺は一緒にいたの見たことあるもん」


 若い冒険者のうち、特に他の街からやって来たらしいものは、今のいままでトットの悪友たちが本当にハルカと知り合いであることを疑っていたらしい。

 そんなことはつゆ知らず、空けてもらった席までやってきたハルカは「お邪魔してすみません」と挨拶をした。


 若者たちはぶるぶると顔を横に振った。


「待ってたんすよ!」

「何言ってんすか!」

「あ、酒ですどうぞ」


 三人組はいつもの調子で息をそろえて歓迎してくれる。


「あ、こっちは今回の遠征で知り合ったノーレンさんです。よろしくお願いします」

「へぇ! ま、〈オランズ〉の冒険者ギルドのことは俺たちに任せておけよ」

「そうだぜ。なんたってもう十年近く冒険者してるからな」

「嬢ちゃん、困ったことがあったら何でも俺に言いな」

「おおっ、ありがとうだね。これからよろしくお願いするよ」


 見た目はかわいらしい少女であるノーレンがニコニコしながら頭を下げると、三人組はまんざらでもない様子で鼻の下を擦ったりしている。


「あ、ノーレンさんは二級冒険者です」


 ハルカが追加の情報を漏らすと三人組は表情を一瞬強張らせてから、にっこりと媚びるような笑顔を作った。


「あ、ノーレンさん、何が好きっすか? 俺、飯頼んできますよ」

「ノーレンさんの冒険話が聞きてぇなぁ!」

「お、肩揉みましょうか?」

「だっせぇ……」


 豹変した態度に、若い冒険者の一人が思わず本音を漏らす。

 こんな冒険者にはなりたくない、というある意味良い反面教師になっているのかもしれなかった。

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― 新着の感想 ―
バカやろう!長生きするコツだぞ!実体験だぞ!
先輩冒険者共 、愛おしいな...
相手に合わせて対応できる先輩だからこそ、この地で生き抜いていらっしゃるのだぞ(笑)
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