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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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〈オランズ〉のちょっとした変化

 のんびりと進んで、三日目の昼前には〈オランズ〉が見えてくる。

 途中追加で数度魔物に遭遇することはあったが、キラーラビットだけはユーリが一人で見事に仕留めてみせた。

 相手の動きをじっくり見ながら対処するのが得意なようで、きちんと身を躱して反撃する戦い方はモンタナに少し似ているなとハルカは思った。アルベルトに伝えたら拗ねそうなので秘密だけれども。

 まだまだ体が小さいから、モンタナの動きに似るのは仕方のないことなのだろう。


 オランズの門をくぐり、街の拠点でコート夫妻に挨拶をして、そのまま冒険者ギルドへと向かう。

 ちなみに【金色の翼】の三人は一足先に街に戻っている。

 エリもカオルも、改めてヴィーチェと今後について話し合っているのだろう。


 街を歩くとあちこちから話しかけられるハルカに、ノーレンは目を丸くしていた。


「人気だね。うちの父ちゃんには皆話しかけないのに」

「あー……、ちょっと見た目が怖いですし、あまり話しかけられたいとも思っていなそうですものね」

「そうだけどさ」


 ノーレンの父親であるクダンは、わざわざ人から話しかけられない工夫をしているくらいだったが、いちいち相手をするのが面倒くさいくらいに思っているのは丸わかりだ。

 根が良い人間なので、コリンやアルベルトのような遠慮なく話しかけるタイプに遭遇してしまうと、ある程度相手をしてしまいそうだし、そういった意味ではあまり器用な人間ではないのだろうとハルカは思う。


「あ、でもカナさんは街歩くとこんな感じかも」

「あー……」


 ハルカもユーリも声を合わせて納得である。

 カナならば街を歩けば話しかけてくる人が山ほどいるだろう。

 雰囲気もなんとなくハルカと似ている。


 ギルドへ入るとざわめきが広がり、受付へ近づいていくと、そのまま受付をしているドロテに、「お久しぶりですね、奥へどうぞ」と顔パスされる。昔はギルド内で騒いで怒られたこともあったが、すっかりVIP待遇だ。


「ありがとうございます。ラルフさんはいますか?」

「奥にいますよ。ノックをしてそのまま入って下さい」

「どうも」


 先へ進もうとすると、バタバタと後ろから複数の足音が近づいてくる。

 振り返ってみると、昼間っから酒を飲んでいるらしい、トットの取り巻き三人組が姿を現した。


「姐さん、久しぶりっすね!」

「昼間からお酒ですか?」

「いやいや、たまたまっすよ。たまたま!」


 ハルカに注意をされると三人はぎゃはは、と笑う。

 決して上品ではないが、街で暮らす冒険者らしい陽気な男たちである。

 当時はまだまだ若者だったが、あれから数年たって少しずつ精悍な顔つきになってきている、ような気もする。


「いやぁ、俺たち昨日ついに〈黄昏の森〉の護衛任務をこなしたんすよ! 小金が入ったので、姐さんもぜひ一緒に!」

「そうなんすよ。俺たちが五級ですよ、五級! トットが真面目に働けって言うから、ちょっと真面目に頑張ってるんすよ!」

「偉いじゃないですか。それなら用事が済んだらお邪魔しますね」

「待ってます!」


 三人組は肩を組んで楽しそうに笑いながら食堂へと戻っていく。

 彼らが戻っていった席では新人らしい冒険者たちが目を輝かせてハルカのことを見ていた。気づいたハルカが軽く頭を下げてみると、少年たちは立ち上がって声を上げて盛り上がる。

 自分に向けての歓声は面映ゆかったが、あんな三人組にも慕う後輩ができたのだと考えると、なんとなく感動すら覚える光景だった。


「びっくりしたー、元気な人たちだね」

「冒険者ってあんな感じじゃないですか?」

「うん、そうだけど。……うーん、さっきカナさんに似てるって言ったけど、カナさんにはああいう人は話しかけてこないかもね」

「そうなんですか?」

「うん。カナさんってある意味神聖視されちゃってるから。街に石像とか建っちゃってるからね」

「わぁ……」


 本人はどう思っているのかを想像して、ハルカは何とも言えない気持ちになった。

 少なくともハルカであれば、絶対に恥ずかしくて目を伏せてしまいたくなる。

 かといって壊すわけにもいかないのが難しいところだ。


 廊下を抜けて立派な扉の前に立ってノックをすると、女性の声で返事があった。

 そうして内側から扉が開いて顔を覗かせたのは、ラルフの妻であるレナであった。

 今ではすっかり丸くなって良き奥さんをしている。

 ぜひそのまま穏やかに暮らしてほしいと、ハルカが切に願っている相手の一人であった。


「あら、中へどうぞ。主人も中にいますので」

「ありがとうございます」


 レナを前にすると少しばかり緊張してしまうのはいつものことだ。

 何なら強面の冒険者よりもよほどドキドキする。

 昔頬を張られた記憶が未だに強烈に残っていたのだ。

 まさに親にも殴られたことのないハルカが、ほぼ初めて真正面から食らった攻撃があれだったので仕方がない。


 ハルカが部屋に入ると、ラルフはがたっと椅子を動かして立ち上がった。


「お久しぶりです。今日はどうしました?」

「あ、いきなりすみません」

「いえいえ、ハルカさんが来たらいつでも通してもらうよう伝えてあるので」

「お仕事は大丈夫ですか? 何か残っていればきりの良いところまで待ちますが」

「大丈夫です、さ、座って下さい」


 応接のソファに案内をされると、ほどなくしてレナがお茶とお菓子を持ってきてくれる。そうしてレナは自室となっているらしい奥の部屋へと引っ込んでいった。

 ドアを細く開けてじっとこちらを見ているのはいつものことである。

 ノーレンに肘でつつかれて「あれ……」と指摘されたハルカは、「あ、大丈夫です」とだけ答えるのだった。

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小説『私の心はおじさんである3』、8/1に発売です!

予約受付中です!

表紙かわいいので見てね!!

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― 新着の感想 ―
あいかわらずの監視
怖い怖い
そう言えば最近は耽溺の魔女の異名も聞かないなぁ
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