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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

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待ってました

 幸いなことにオオロウの突撃によって破壊された家屋の中に、炊事場は含まれていなかったようだ。ハルカはアルベルトたちとオオロウが手合わせするのを見つつ、横目でちらちらと煮炊きの煙が空に登るのを伺っていた。


 オオロウの使う〈ダイアラスネ〉は、振れば必ず風が発生するわけではないらしく、周囲を破壊したりすることなく普通に手合わせをすることができている。

 実際に一対一をして分かったことは、オオロウの戦闘の腕自体はそれほどアルベルトたちと変わらないということだった。ただ、それを上回る膂力と丈夫さが、オオロウの圧倒的な強さを支えている。


 まともに武器を打ち合わせれば間違いなく負けてしまうし、相手の一撃は必殺で、自分たちの攻撃はまともに通らない。

 どうも既視感があるなぁと考えていると、横に座っているユーリが「ママと似てる」と呟いた。


「ああ、なるほど」


 ハルカはとにかく怪力で丈夫で、そして遠距離から魔法を放ってくるので攻撃を避けて接近するほかない。

 オオロウは怪力で丈夫で、武器を打ち合うと負けてしまうので回避を続けながら隙を探るしかない。

 確かに似ていると言えば似ているような感じがする。


 ハルカの理不尽さは戦闘技術の低さによって軽減されているが、オオロウはそれもそれなりに高いので厄介だ。


 なかなか緊張感のある訓練になったようで、何度か割と大きな怪我をすることになったアルベルトたちも満足そうであった。ハルカがその度に治癒魔法をかけてやれば、仲間たちは元気に再挑戦しに走っていく。

 途中でオオロウが理解できないとでも言いたげにハルカやアルベルトたちのことを見て首をかしげている。

 ハルカは丁度炊事場から漂ってくる香りに夢中であったし、アルベルトたちは真面目にオオロウを攻略しようとしていたので気付かなかったけれど。


 呆れて笑ったのは眠たげなイーストンとユーリくらいである。


「あー、腹減った。頑張ったら腹減った……」

「そですね。あれ、僕たちの分もあるです?」

「用意してくださるそうですよ」

「あ、話ついてるんだ」

「昨日の夜にちょっと」


 コリンの言葉に皆が小さく笑う。

 消極的なハルカが、自分たちの知らない場所で食事の話だけはつけていたと思うと面白かったのだろう。

 ハルカが美味しい食べ物に目がないことは仲間たち皆の知るところだ。


 とくにここ〈北禅国〉の食事に期待していることまでは知らないが、さっきから炊事の煙をちらちらと気にしていたことくらいはわかる。


「ああ、こちらにいたのですね」


 忙しいはずの行成がやってきて、ハルカたちを見つけるとパッと明るく笑う。

 まだまだ問題は山積みのはずだが、それでも故郷に帰ってこられたことは心にかかったもやを多少なりとも晴らしたのだろう。


「すみません、朝から騒がしくして」

「いえ、お好きなように使って下さい。お食事ができたので声をかけに来たのですよ。茂木と大門も一緒なので、少々堅い話もするかもしれないのですが良かったら」

「ありがとうございます。ご相伴にあずかります」


 それから行成はオオロウの方も向いて話しかける。


「オオロウさんも良かったらどうぞ」

「部外者だ」

「そうおっしゃらずに」

「俺の仲間たちはどうした」

「既に皆さんだけの部屋を用意して、ご案内を済ませています。オオロウさんもそちらが良ければ」

「……一人でいい」

「それでしたらやはり一緒に、お願いいたします」


 本当は一人で食べさせてもいいだろうに、行成はしつこくオオロウを食事に誘った。巻き込んでしまったことに対する謝罪の気持ちかもしれないし、同情であったのかもしれない。

 それでも、何度断られてもしつこく誘う姿は、ハルカからはなかなか立派であるように見えた。人の上に立つ人物は、これくらい図々しいくらいで丁度いいのだろうと思う。


 だからこそ自分はあまり人の上に立つのに向いてないと思うのだけれど。


 オオロウによって壊された範囲は、城内の二割程度にしか過ぎなかったようで、意外と無事な部分も多く残っているようだった。


 行成は堅い話も、と前置きをしていたが、実際に食事の席についてみると、そこにいるのは馴染みの顔ばかりだ。茂木に関しても、ハルカは昨晩のうちに話をしてしまっているので、特に怖いという印象は持っていない。


 やがてお膳が運ばれてきて、ハルカは感動する。

 白い米だ。

 つやつやと輝く白い米が椀の中に山と盛られていた。


 お椀の蓋をあければ、わかめの入った味噌汁。

 つまり味噌があるということになる。

 食事の準備がなされている最中、ハルカは確かに懐かしい香りを感じ取っていたのだ。大豆の何とも言えぬ懐かしい香り。

 醤油、味噌、この世界に来る前の生活には欠かせない調味料だった。

 

 おそらく大根おろしのようなものと、尻尾までついた脂ののった魚。

 それにおそらく醤油であえた野菜が副菜の皿に用意されている。


 がっついてはいけないと、全員に食事がいきわたるまで待っていたハルカは、まず最初に味噌汁を口に含んだ。普段の食事での汁物にはスプーンがつきものだが、みそ汁は椀をもって飲むのが当たり前だ。


 仲間たちは何の迷いもなく味噌汁を口に運んだハルカを横目で見る。

 まったく見たことのない料理をいつにもまして嬉しそうに食べ始めたハルカが不思議で、みんなついつい手を止めて観察してしまっていた。

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― 新着の感想 ―
やっと白米に、日本の食事にありつけたんどから感動もするよね
白米まで1349話かかったか…長かったなぁ… いいEDでした。
納豆はないのかなぁ?
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