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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

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くじけぬ者

 話がある程度落ち着いたところで、夜はそれぞれ雑魚寝となった。

 鬼たちも被害者ではあったが、事情を聴いて北城家の人々を責めようという気はないそうだ。

 本来であればどう責任を取るのかと追及する場面であるのだろうけれど、それをすれば同じく操られて仲間たちを殺してしまったオオロウまでを責めることになる。


 オオロウは終始黙り込んでいたが、話が終わると鬼たちと何かを話し、一人集団から離れて空を見上げていた。


 ハルカは仲間が眠ってしまってからも、何かできることはないかと背中を見ながら考える。操られて身内を殺してしまったなんて、想像をするだけで胸が張り裂けそうだった。

 闇魔法に耐性がなければハルカだって辿っていたかもしれない運命だ。

 何も気の利いた言葉が思いつかぬまま時間が過ぎ、せめて気を紛らわせてやれないかと立ち上がったところで、後ろから声をかけられる。


「ハルカ殿。眠れませぬか」


 茂木であった。

 腰には大小二振りの刀をはいており、背筋はピンと伸びている。

 普通にしていれば威厳のある老人であるから、畏まって接されると困ってしまう。


 ハルカの視線の先に気づいた茂木は、黙って空を見上げるオオロウの広い背中を見つけて深くため息をついた。


「オオロウ殿が気になりますか。随分激しく戦った間柄じゃろうに、聞いた通りお優しい方のようですな」

「……どうでしょう。かける言葉も思いつかず、ただ見ているだけです」

「その姿勢が既にお優しいと言っておるのです」

「結局何もできておりませんが」

「ふむ……、少しお付き合い願えますかな」

「ええと、はい、構いませんが」


 先に歩きだした茂木は、ためらうことなくオオロウの下までたどり着き「横に座ってもよろしいか」と声をかける。

 オオロウは茂木とその後ろにいるハルカをちらりと見やり、「好きにすればいい」と言ってまた空を見上げた。


 茂木が遠慮なくどっかりと腰を下ろしたので、ハルカもそろりと茂木を挟んでオオロウと横並びになる。


「オオロウよ、すまなんだな」


 オオロウは聞こえているのかも疑わしいほど微動だにしない。

 返事がなくとも茂木老人は話を続ける。


「儂は先々代から行連様のことを頼まれておったのだ。それを殺すことになった。無為に幾人もの兵士が命を落とすことになった。やり切れん。やり切れんのだ、オオロウよ」


 行成の前で今後の働きを誓った茂木であったが、それはすなわち心の中に残る全てを清算できたというわけではない。今にもあふれだしてしまいそうな後悔は声を震わせたし、どこにぶつけることもできぬ怒りは体を震わせていた。


「儂はそれでも働く。行成様のために働く。寿命をまっとうして、それから行連様と先々代に謝りに行くのだ」

「……俺は何も変わらん。俺はこの力を以てあの島で暮らす者を守る。俺にはまだ守るものがある」

「流石オオロウ。近海一の剛の者じゃ」


 何か慰めの言葉でもかけられないものかと考えていたハルカは、二人の考えを聞いて恥ずかしくなった。

 どちらもすでに未来を見据えていたのだ。

 半端な慰めなど彼らには必要なかったのである。


「お前。名をハルカと言ったか? なぜ俺をずっと見ていたんだ」


 オオロウは空を見上げるのをやめると、足を組みなおしてハルカの方を向く。

 間に入っていたはずの茂木も、同じくひざをずらして後ろへ下がり、三人で話し合うような陣形になってしまった。


「あ、すみません、お気づきでしたか。お気持ちを勝手に想像して、色々思うところがありまして……」

「なぜ謝る?」

「ええと、ずっと見られていては居心地が悪かったでしょう」


 オオロウは変な顔をして数度視線を左右に行ったり来たりさせてから頬をポリポリとかいた。

 ハルカは自分と戦って傷一つ負っていない強者だ。

 そんな強者の腰がこれほどまでに低いと、どう対応していいかわからなかった。


「おかしなやつだ。お前は俺の腕輪を引きちぎってくれた。大暴れしたのに、殺さず俺を助けようとしたんだと知ってるぞ。恩人に何を腹を立てる」

「それじゃ! 儂からも改めて礼を言わせていただきたい。生きているからこそ悩みもある。悩む自由がある。本当に助かり申した。行成様をこの手で弑さずに済んだことは、どれだけ感謝をしてもし足りませぬ。儂にできることならば何でも言ってくだされ。本当に何でもですじゃ」


 ハルカが無茶苦茶なことは言ってこないだろうとわかった上での言葉であるが、その気持ちは嘘ではなかった。行成たちが救われた話も加味すれば、〈北禅国〉がハルカに返しきれない恩があることは疑いようもない。


「俺も礼をしたい。戦うことくらいしかできんが」

「……保留してもいいですか? 一応行成さんにも似たようなことは言われていますし、持ちつ持たれつで、困った時に手を貸してもらえばと思うのですが」

「もちろん構いませぬ。いつでも言ってくだされ」

「そうだ。いつでも言え」


 もし彼らの力を借りることがあるとすれば、それはきっとエニシが【神龍国朧】へ戻る時だろう。そう遠くない未来かもしれないが、できるだけエニシに力を貸したいと考えているハルカとしては、拠点付近の問題をまずは片づけておきたい。

 問題というのはもちろん〈オラクル教〉の件なのだけれど。

 〈オラクル教〉との関係は今のところ落ち着いているけれど、場合によっては突然炎が燃え上がりかねない状況には変わりない。


 答えてもなお、何かあるのではないかと自分を見てくる二人に、ハルカは苦笑しながら口を開く。


「それじゃあ、何かこの辺りの美味しいものでも食べさせていただけると嬉しいです。オオロウさんは、私たちの仲間が訓練してくれと言い出すと思うので、そちらに付き合ってもらえると」

「うむ、それはまぁ、当然のことなんじゃが……」

「訓練か。わかった」


 茂木はどうも納得いかず、オオロウは二つ返事でハルカのお願いを受け入れる。

 ハルカとしては、とにかく早く〈北禅国〉が落ち着けばそれでいい。


 思ったよりもすんなりと事が済んだことに、ハルカは幾分かほっとしている部分もあるのだった。

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― 新着の感想 ―
オオロウとニル、オオロウと巨人頭領はどっちが強いのだろうか。
ハルカののほほん節こそが、さまざまな欲望や切迫、感情を中和させるすごいスープのように見えてきましたわ〜
うーんやっぱハルカさんのこういうノホホンとしたノリがこの作品の一番光るトコロですなぁ…
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