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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

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隠密行動

 一時はしっかりと北城家内部に入り込み、戦にすら参加していたマグナスだ。

 弓師の里のことを知らないはずがない。

 見張りであれ護衛であれ、つけていないとは限らないため、ハルカたちは里から離れた森の中にこっそりと降りることにした。

 着陸してからしばし辺りを見回して位置を確認し終えた大門は、里とは逆の方向へ進み始める。


 向かうのはまず里ではなく、里から少し離れた森の中に住んでいる年寄りたちの集落だ。彼らはもはや〈北禅国〉からの依頼などをこなすこともなく、悠々と森で狩りをして生きている。

 弓師たちは一流の弓を作ることができなくなると、引退してここで静かに余生を過ごすのだ。


 当然弓師の里とのつながりはあるので、先に情報を収集する場としては適切と言えるだろう。


 日が落ちたとはいえ、まだそれほど遅くない時間だ。

 そもそも〈北禅国〉は島国であるから、普通に考えれば、奥地にある弓師の里に見張りを立ててもあまり意味がない。あるとすれば弓師が反乱を起こして、などは考えられるが、彼らは職人であって戦人ではない。

 感情の面はともかくとしても、主が変わったからと言って即座に反乱を起こす可能性は非常に低い。

 マグナスだって〈北禅国〉の侍の戦力はあてにしているだろうから、弓師を殲滅するようなことはしないだろう。


「止まるです」


 森の隙間から明かりがちらりと見えてきたところで、モンタナが声をかける。

 ちょうど大門も違和感を覚えていたところのようで、続いてぼそりと呟く。

 

「なにかいるようだ。かがり火など普段はたかない集落なのだが……」

「多分見張りも立ってるです」

「なぜ……」


 行成が表情を曇らせたところで、主立ったメンバーが集まり頭を突き合わせて話し合いを始める。


「どうすんだ?」


 アルベルトが口火を切ると、行成はもう一度かがり火の方を睨んでから答える。


「見張りを無力化します。見張られているということは、マグナスに逆らったということです。どれだけ情報を得られるかわかりませんが、協力は間違いなくしてもらえるでしょう」


 行成がそう決めたのならば行動方針に異存はない。

 それぞれが頷いたところでイーストンが作戦の問題点を指摘した。


「問題は見張りが何人いるかだけど……」

「……すごく大きくて背の高い見張りが二人です。鬼族だと思うです」


 つい先ほどまで見ていたからこそ、なんとなく輪郭のわかるモンタナにはそれが鬼族であるとわかった。子供たちを人質に取られて連れてこられた鬼たちの誰かが、ここの見張りをさせられているのだろう。

 流石に腕輪のついたオオロウという鬼がこんな辺鄙な場所までやってきているとは思えない。


「見える二人は私が何とかします。皆さんは周囲に展開して、万が一増援があった場合に備えてもらえますか?」


 ハルカの意見にもそれぞれが頷いて賛同の意思を示す。

 そんな中一人難しい顔をして鬚をなでていた大門が口を開く。


「音のなる罠が仕掛けられている可能性もあるな。あるとすれば紐を使ったもので、足元に近い場所だと思うのだが……」

「下手に散開しないほうがいいでしょうか?」

「いや、念のためした方がいいとは思うのだ。しかし、十分に気を付けてもらいたい。もし鳴らしてしまった場合は、焦らず繰り返し鳴らしてもらいたい。こんな森の中だから、動物が引っかかることだって珍しくなかろう。動物の振りをして見張りの注意をひき、その間にハルカ殿に仕留めていただく……というのはどうだろうか?」


 最後はしゃべりすぎたと思ったのか、大門はハルカの顔色を窺うようにしながら尋ねる。

 情けない姿ばかり見せてきてしまった大門であったが、元々は〈北禅国〉で長く過ごしてきた侍だ。集団での戦いに関してはハルカたちよりも優れた見識を持っている。


「そうしましょう。できれば引っかからないのが一番ですが」


 ハルカが答えると、大門もほっとしたように頷いた。

 ハルカからすればプレッシャーをかけたつもりもないのだが、これまでのことを考えれば勝手に緊張してしまうのだろう。


 さっとグループ分けをして作戦の決行に移る。

 ハルカは後ろにユーリとトロウドを連れて、そろりそろりと正面の茂みまで移動してしゃがみこんだ。

 そこでハルカはそれぞれが移動を完了するまでの時間を潰す。

 たっぷり十分は待つつもりで、頭の中で数字を数えているハルカだったが、あと一分というところまで差し掛かったところで、カランと僅かに鈴のような音が響いた。


 自然とは違う音は、静かな森の中では案外響く。

 しかもそれは数度なったところで、ぴたりと音を止めてしまったのだ。

 予定と違う。


 緊張しながら見張りの様子をうかがうと、そこに立っている鬼たちは言葉を一つ二つ交わしていた。そしてそのうちの一人が、音の発生源を確認するために大股で歩き出す。


 一応見張りが動いた段階でハルカも動き出すという算段であった。

 ちょっとばかり予定とは違う感じがするが、ハルカは即座に魔法を発動。

 二人の鬼を囲い込むように弾力のある障壁を発動した直後、その中を水で満たす。

 

 何が起こったのかわからない鬼たちは中で暴れるが、水の中であることも相まって力は十分に発揮されず、間もなくして動きがなくなった。

 ハルカが即座に魔法を解除すると、時を同じくして茂みのあちらこちらから仲間たちが顔を出す。

 

「あの鈴の音は?」

「動物じゃないかな。僕たちではないよ」


 音の発生源の方にいたのは、アルベルトとコリンを連れていたイーストンだ。

 鬼たちも面倒そうに対応していたことだし、罠の誤作動はよくあることなのだろう。

 今回たまたま作戦のタイミングと被ってしまっただけだ。


 しばし集落の中を警戒して見るが、追加の見張りが出てくる気配はない。

 そもそも最近建てられたような家は一つも見当たらないことから、おそらくここの見張りは交代勤務となっているのではないかと推測できた。


 

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