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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

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猛進

 念のため行成たちにも現状を伝えた上で話し合いを続けてもらっていたのだが、段々と雲行きが怪しくなってきた。


「……また増えたです」


 モンタナが島の内陸の方を見てぽつりとつぶやく。

 どうやら先ほどから少しずつ島の住人たちが周囲に集まりつつあるのだ。

 ハルカたちが素性のしれない集団なので、警戒するのは当たり前のことであるが、それにしたって増えすぎている。

 そろそろ二十人近くが集まっているが、下手にこちらから仕掛けるのもどうなのかと、ハルカたちはその場での待機を選択していた。

 モンタナによれば怒りの感情を含む負の感情が見え隠れしており、とても穏やかとは言えない状況だ。


 侍たちには気づかないふりをしてもらっているけれど、どうしたって次第に会話は少なくなっていく。ついにはしんと静まり返ってしまったところで、ハルカは仲間たちに小声で提案した。


「しばらく目を閉じて暗がりに慣らしてください。三十ほど数えたら光を消しますので、声をかけてから目を開けてください。これ以上増えても困りますし、相手が出てくるきっかけを作りたいです。それでも出てこないようでしたら私から声をかけます」


 ハルカは目を閉じてゆっくりと三十秒数えてから、光の玉をスイッチを切るようにぱちりと消した。


「いいですよ」


 目を開けてみると、月明かりだけでなんとなく周囲を確認することができる。

 そして島の内陸部からは、いくつかの影が直立してハルカたちのことを見つめていた。


 すべての影が目測で二メートルを超えており、手には太い棒を持っている。

 光が消えたことに驚き、思わず数人が顔を出してしまったのだろう。


 続けて草むらから影がいくつも生えてくる。


 額に角を生やした鬼たちは、大股で草をまたぎ砂浜に向けて無造作に歩いてくる。

 これだけ立派な体格をしていれば隠密には向かないだろう。

 光が消えたことへ動揺して顔を出してしまったのも、普段は堂々と人前に姿を現すゆえの慣れなさであったのかもしれない。


 鬼たちの肌の色はやや赤みを帯びていて、その表情は険しく、モンタナの言う通りやや興奮しているようにも見えた。

 ずんずんと近づいてきた鬼は、ぴたりと足を止めてハルカたちではなく行成たち侍をぎろりと睨み、口からぎりぎりと妙な音を立てた。少ししてから理解したその音の正体は歯ぎしりであり、虫が威嚇してくるようなその音はどこか背筋をぞっとさせるものであった。


「捕らえろ!」


 どうしてその判定が下ったのかわからない。

 しかし体に似合う低い声が響くと、鬼たちは一斉にこん棒を掲げて襲い掛かってきた。


 ハルカは咄嗟に巨大な水の塊の魔法を発動。

 数が多かったので鬼たちを包み込むようにしたが、想定よりも素早い移動に、先陣を切っていた数人を捕らえることに失敗する。

 水に包まれても何のためらいもせずに、その中から続けて飛び出してくる鬼に驚きつつ、下半分を凍り付かせて未だ水の中に残っている鬼たちの動きを封じる。

 そこまで終えた時には、すでに鬼たちはハルカの目前まで迫っていた。


 全員をまとめて持っていきそうな勢いの横なぎの一撃を、鬼たちの三分の一ほどしか体積がなさそうなレジーナが金棒を振り抜いて迎撃する。

 金属がぶつかり悲鳴のような音がして砂浜に響いて、競り勝ったのはレジーナだった。

 足元の悪い砂浜で、僅かに体を滑らせながらも見事に鬼の金棒をはじき返したかと思うと、雄たけびと共にさらにもう一歩踏み込んでいく。


「だらっしゃあああ! 雑魚が!!」


 相変わらず口の悪いことだが、力負けしたことが信じられない鬼が目を見開いている間に、その横っ腹に金棒を思いきり叩き込んだ。

 鬼の巨体がもんどりうって転がる。

 普通の人間であれば間違いなく即死する、あばら骨を全て粉砕するような遠慮のない一撃であった。

 鬼はそれでも転がった先で、何とか地面に足をつき、なおも立ち上がろうとしている。流石に体に力が入らないのか、それ以上動き出しはしなかったけれど、とてつもない耐久力をしていた。


 鬼の金棒を武器で迎撃するなんて芸当は、レジーナの武器が同じく打撃武器だからこそできたことだ。剣で同じことをすれば、たちまち刃がつぶれて駄目になってしまうことだろう。

 アルベルトやイーストンはうまいこと大剣の腹で鬼たちに打撃を加えているようだが、モンタナは苦戦しているようだった。跳ねたりくぐったりしながら、動きを封じることのできる腱の切断を狙っている。


 こんな時に戦いの相性がいいのはコリンだ。

 力任せの攻撃を、手甲で火花を散らせながらいなし、鬼たちをポンと空に放り投げている。巨体が舞う姿は見事だが、致命傷を与えられていないという面では、モンタナと同様であった。


「ハルカ! 殺す気、ないです、この人たち!」


 最初の一声でそれはなんとなく察していた。

 察していたからこそ、温厚な一族だと聞いていたからこそ、違和感をぬぐい切れずに皆が殺す気で動けていないのだ。

 モンタナだって本気で殺す気であれば、もっと取れる手段はある。


 数人の鬼がハルカたちを抜けて侍たちの下へ向かっていくのを確認。

 侍たちも弱いわけではないが、これだけの勢いがある鬼たちを相手にして無事でいられるとも思えない。


「話を聞いてください!」


 ハルカは目前に迫る鬼の攻撃を見ながら声を張り上げる。

 左半身に金棒が迫りくる中、抵抗らしい抵抗もしなかった。

 体が吹き飛ばないよう、右に障壁を張り、そのまま金棒を受け止め、驚愕の表情を浮かべる鬼をじっと見つめてもう一度声を張る。


「話をしましょう! 私たちは一晩泊まりに来ただけです!」


 ハルカの説得に驚いていた鬼だったが、さらに表情が険しくなり、今度は金棒を大上段に振り上げて叫んだ。


「そう何度も騙されるか!!」


 

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― 新着の感想 ―
いやいや、攻撃される前に障壁の壁張れるでしょうよ。
既になんらかの計略にかかっていたのかな…
あーこれはこれまでの間にマグナスが攻め込んできてたか
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