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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

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絡みつく糸

 山脈を越えて森の端まで飛んで、その日は野営となる。

 ナギが地面に降りられる場所は限られているので、前にも来たことのある場所だ。

 火や食事の準備をしている最中、大人しく木の下に座っていたユーリのもとへ、ナギがぐいーっと首を伸ばしてくる。


「どうしたの」


 ナギもまたいつも大人しくべったりと寝ているので、わざわざ人がたくさんいる場所に首を突っ込んでくるのは珍しい。何かを訴えるように顔を近づけてくるのでよく見てみれば、顔に何かきらりとした糸が張り付いていた。

 髪の毛ほどの細さのそれにユーリが手を伸ばしてみる。

 繊維は非常に丈夫そうで、ぺったりとナギの鱗に張り付いてしまっているようだ。

 おそらくこれをはがしてほしくてやってきたのだが、指先でつまんで引っ張ってみてもはがれる気配がない。


 ユーリは少し離れた場所から倒木を引きずってきているハルカに手を振る。


「ママ、こっち来て!」

「あ、はいはい、ちょっと待ってくださいね」


 倒木をその場に投げ捨てて、手を払いながら駆け足でやってくるハルカ。


「ナギの顔になんかついてる」

「なんです? 引っ付き虫ですか?」


 藪の中を歩いたときなんか、服によくわからない植物の種子がつくことがよくある。しかしナギの鱗にくっつくなんて、なかなか根性のある種だななんて思いながら顔を覗き込むハルカ。

 しかしそこにきらりと光る糸を見つけて表情を曇らせる。


「……太いですけど、蜘蛛の糸……ですかね」


 普通のものではない。

 ナギが気にするほどであるから、相当丈夫なものだ。

 糸の先をたどると、背の高い木に向かって伸びているようである。


 ハルカはいつか森で見た影を思い出していた。

 この森にはアラクネが暮らしているはずなのだ。

 〈混沌領〉でハルカがまともに言葉を交わしていない数少ない種族の一つである。


 糸をつまんで引っ張ってみると、粘着力は中々のようで、ナギの顔がくいっと少しだけ動く。


「痛いですか?」


 ナギはパチパチと瞬きするだけで何も言わない。

 どうやら痛いとかではなく、変なのがくっついて困っているだけのようだ。


「ハルカ」


 モンタナが空を見上げながらやってきた。

 そして糸の先の方を指さして言った。


「なんか、大きな蜘蛛の巣みたいなのがあるです。あ、ナギの顔にもついてるですね」

「あ、やっぱりそうですか」

「魔素が宿ってるですよ」

「引っ張ってはがせますかね?」


 もう一度引っ張ってみるも、またぐいっとナギの顔が少しだけ動くだけだ。

 力いっぱいやればはがれそうだけれど、それで鱗が傷つくのもかわいそうである。


「どうしましょうか」

「燃やしたらどうです。ナギなら火、大丈夫なはずです」

「そうですね。ナギ、この糸に火をつけるので目をつぶっててくださいね」


 竜は基本的に火に強い生き物だ。

 体の内部も外部も、多少の炎でダメージを受けることはない。

 特にナギほどの大型飛竜になると、火の上で寝ていたって全然へっちゃらだ。

 ラーヴァセルヴクラスの竜になれば、体が熱すぎて湖から出ると災害が起こる程である。


 ハルカが指先にポッと火を出して近づけると、きらめく糸は瞬間的に燃え上がった。ナギの顔を伝い、空中に火が浮かんだかと思うと、木々に張り巡らされていたであろう蜘蛛の巣があっという間に燃え上がって消えていく。


「な、なに!?」

「なんだ、あれ、おい、なんか燃えてるぞ!」


 全員が慌ててハルカたちの下へ集まってくる。

 幸いみずみずしい葉を茂らせている木々に燃え移ることはなかったが、突然頭上に火が広がれば驚くのも当然であった。


「あ、すみません。大きな蜘蛛の巣があって、ナギが困っていたので燃やしました」

「もー、やる前に言ってよー」

「あんなに瞬間的に燃え広がるとは思わず。すみません」


 ほっとした顔をして料理に戻っていくコリンに対して、アルベルトは真剣な顔で辺りを見回した。


「……なんか前、蜘蛛の魔物いたよな。あれか?」

「恐らくそうではないかと。今夜はともかくとして、次にここに来た時は、探して話をした方がいいかもしれません」


 攻撃をされたわけではないが、互いに存在を認知している。

 今回もあちらからちょっとした仕掛けを施されているのだから、いつまでも黙っているわけにはいかなかった。

 ナギだからこそ火をつけるという手を取れたが、人が引っかかったり、中型飛竜が絡めとられたりしたら大変だ。


「近くに姿はないです。一応今夜はレジーナと交代で見張りに立つです」

「……きてんの見つけたら殺す」


 見張り自体に反対はないようだが、先に仕掛けられているという認識からか、レジーナの気持ちは逆立っているようだ。

 現時点では命に別状はないが、そうなってからでは遅すぎる。

 レジーナの気持ちも分かるのだが、一応ここまで穏便にやってきたハルカは、ここでもストップをかけることにした。


「見かけたら教えてください。お話しできるかもしれないので」

「逃げそうだったら追うからな」

「……そうですね。追いかける前に教えてくれれば」


 見つけて逃がせば次はいつ襲われるかわからない。

 最悪ここを使わないという選択もあるが、万が一のことも考えて、移動ルートの安全は確保しておきたいハルカであった。


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― 新着の感想 ―
とんでもなく丈夫な糸みたいで…
引っ付き虫w 確かにあれは小学生の頃に野山で駆け回ってると服にいつの間にかくっついてるんですよねw 心配の方向性がまったくハルカすぎて和みますww
ようやく全部の種族との関係(友好か撃退か)が確定できそう? 混沌領全域の王様するなら、やっぱりそこははっきりしてないとね
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