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意思の疎通

 ハルカは行成たちと相談し、それから数日間、準備をしつつのんびりと過ごした。

 出発の日の前日、ハルカは一人でナギに乗って街へ向かった。

 今日のうちにヴィーチェとラジェンダを拠点に迎えて、明日の朝早くに出発しようという算段だ。

 街へ到着したハルカは、コート夫妻に挨拶だけして、そのまま【金色の翼】の拠点へと向かう。途中あまり治安のよくない場所を通ることになるが、女の一人歩きと言えど、流石にハルカに絡んでくるような輩はもういなかった。


 特に問題もなく拠点の付近までやってくると、玄関の前で旅支度を整えた二人が待っているのが見える。ハルカがやってきたことに気づいたヴィーチェは、拠点の中に向けて「行ってきますよ」と声をかけて歩み寄ってきた。


「ナギが見えたから準備しておきましたわ」

「なるほど、準備はええと、大丈夫なんですね」


 尋ねる前に教えてもらい、ペースを乱されつつ、一応ラジェンダには最後の確認をする。出発してしまえばすぐに帰ることは難しい。


「はい。世話になった人たちには挨拶をしました」

「ではいきましょうか」


 来た道を戻りつつ、ハルカは二人に尋ねる。


「あれから彼は来ましたか?」

「いえ。ええと、フラッドさんが他の騎士の方を連れていらしていたようです。私は店に出ていないので聞いただけですが」

「ちゃんと約束は守っているようですわ。なかなか律儀ですわね」


 フラッドも色々と考えているのだろう。

 ほとぼりが冷める頃までは、定期的にあの店に金を落とすに違いない。


「竜に乗りますが、それは大丈夫ですよね?」


 人以外ならと言っていたが、だからと言って竜が怖くないとは限らない。

 珍しく気のまわったハルカが質問すると、ラジェンダは困ったように笑った。


「たぶん大丈夫です。竜を間近で見たことがないのでわかりませんが」

「あ、そうですよね。体は大きいですが、大人しくて人懐っこい子です。卵の頃から一緒にいるのですが、人に襲い掛かったりしたことは一度もありませんので安心してください」


 やや饒舌になったハルカを見て、ラジェンダは笑顔を段々と柔らかいものに変える。ラジェンダは、自分が愛犬を語る時と似たものを、ハルカの言葉に感じ取っていた。


「お名前は何というんですか?」

「ナギと言います。先日一緒にいたユーリが名前を付けました。昔は私の背負っているリュックにしがみついて移動していたんですよ」

「空を飛んでいる時は随分と大きく見えましたが、それほどではないのでしょうか? 私たちが三人乗っても大丈夫ですか?」

「あ、大きいです。三人くらいなら何も問題ないですよ」

「そうですか。良いですね、大きいと頼りになって」


 楽しそうに会話をしているが、ラジェンダの想像したナギは、実物よりもずいぶんと小さなものだ。おそらくすれ違いがあろうことをわかっていながら、ヴィーチェは二人の会話を止めない。

 美女二人の会話は見て聞いていても心地よかったし、ラジェンダが前向きに人生を変えようとしている姿が嬉しかった。


 二人はややすれ違いながらも、一緒に暮らす動物のすばらしさを語りながら、路地を抜け、大通りを歩き、ハルカたちの街の拠点までたどり着いた。

 街側から歩いてくると、ナギの姿は拠点の屋敷に隠れて見えない。


「ちょっと待っててくださいね」


 ハルカはそう言って屋敷の扉を開けると、中へ上がってダリアに声をかける。


「すみません。先日お話ししました通り、しばらく遠出します。戻ったらまた立ち寄りますので、こちらのことはよろしくお願いします」

「はい、お気をつけて。夫は買い物に出てるので、帰ってきたら伝えておきますね。あ、サラにもあったら伝えておきますので」

「そうですね、お願いします」


 サラもしっかり冒険者をしているはずだ。

 そろそろ遠出するような依頼を受けることもあるのだろうかとハルカは思う。

 外を歩くには色々と危険もあるので、そうなるとちょっとだけ心配だ。

 【金色の翼】のアルビナがうまいことまとめてくれることを祈るばかりである。


 屋敷を出ると、ナギが鼻さきまでを出して、じっとラジェンダと見つめ合っているところだった。

 ヴィーチェは知っているからともかく、ラジェンダは初めましてだったので完全に固まってしまっている。


 しかしラジェンダはハルカが声をかける前に、少し震えながらもナギに向けて話しかける。


「こんにちは、ラジェンダです。今日からしばらく背中に乗せてもらいます。よろしくお願いします」


 ハルカが言葉が分かっていると説明していたからか、丁寧に名前まで名乗って頭を下げる。ナギは驚いて逃げるでもなく、わっと近寄ってくるでもなく挨拶をされて、目をぱちぱちとさせた。

 それからゆっくりと顎を地面につけて、小さく喉を鳴らす。


 小さくと言っても身体の割にというだけなので、その音は通りに響いて歩いている街の人たちを驚かせた。

 とはいえ、この辺りを歩く人たちの多くは、ナギのことを割と見慣れている。

 びっくりするだけで転んだり慌てたりはしない。


「挨拶を返してくれました……」


 同じく瞬きを繰り返すラジェンダを見ながら、ヴィーチェは優しく笑いながら「そうですわね」と答えたのであった。


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― 新着の感想 ―
2人くらいなら頭にも乗れそう と言うか屋敷でかぁい
うんうん ナギかわナギかわ!
ナギかわいい
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