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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
北城家の未来

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また一つ成長して

「じゃ、おやすみー。ユーリも早く部屋帰って寝なよー」

「ん……、うん」


 コリンが屋敷から出てきて、素振りをしているアルベルトを回収。

 膝の上で寝ているユーリに声をかけて、家へ帰っていく。

 

 もともと拠点にいる間は同じ部屋で過ごしていたわけではないので、十数歩離れた家に帰ろうが、屋敷で眠ろうがさしたる違いはない。

 とはいえ二人の背中を見送ると、ちゃんと夫婦になったんだなぁという実感はあった。


 ユーリももぞもぞと立ち上がると「おやすみ」と言って、目をこすりながら自室へと帰っていく。拠点の足元は凸凹しているところも多いけれど、足取りはしっかりとしていた。


 アルベルトがいなくなると、今度はモンタナが作業をやめて道具をしまい始める。

 戻って眠るのかと思って見ていると、モンタナはぴたりと動きを止めてじっと炎を見つめ始めた。尻尾はゆっくりと揺れているが、時折ぴっと素早く動く。


 しばらく黙って様子を見ていたハルカだったが、尻尾がぶんっと動いた拍子に一言声をかけてみる。


「何か悩み事ですか?」

「……悩み事、ではないです。作戦立ててたですよ」

「なんのです?」

「アルと手合わせする時の作戦です。最近勝率が下がってるですよ」

「そうなんですか?」

「ちょっとだけです。まだ勝ち越してるです。あとレジーナとの勝率は上がってきてるです」

「うるせぇ」


 自分で言ったのに悔しかったのか、モンタナが情報を付け足し、レジーナが魚をじりじりとあぶりながら言い返した。焼いてる最中だからか手元からは目を離さない。


 

「それで、レジーナはアルへの勝率が上がってるです」

「それはどういうことなんでしょう?」

「戦い方の問題です。アルは基礎がしっかりしてるですし、ちゃんと見るですよ。僕の戦い方は隙をつくタイプです。積極的に隙を作るすべは、相手の命を狙う時にしかできないです。訓練だと難しいですよ。手の内もばれてきて意表も突きにくいですから、色んなやり方考えてるです」

「なるほど……」


 確かにアルベルトの戦い方は、攻撃的な性格の割に堅実だ。

 最近では性格も少しずつ落ち着きを見せはじめ、元々悪くはなかった観察眼が、段々と鋭くなってきている節がある。

 モンタナにとっては戦いにくいだろう。


「でもレジーナは基礎ができてきたですけど、あまり見ないです。感覚で戦ってるですよ。戦い方が隙を無理やり作るタイプだから、隙もできやすいです。的が小さくてすばしっこい僕と相性が悪い代わりに、アルのことは押し切れるです。強くなればなるほど、戦いには相性もあるんだって思うです」

「はー……なるほど……」


 解説されれば納得できるが、もし見ていたとしてもハルカ自身がこれを人に伝えることは難しかっただろう。高度な駆け引きの話になってきている。


「これがもう一段階進むと、自分の強さを押し付けることで勝てるようになると思うです。多分それが特級の道です。道自体は見えてるですよ」


 見えていてもそこまでどのくらいの距離があるかがわからない。

 ある日突然目覚めるものなのか、ぬるりと入り込むものなのかもわからない。

 結局は進んでいるのかもわからないような道を、延々と歩き続けるほかないのだ。

 しかも近くにいながら全員が違う道を進んでいるものだから、互いに助言することも難しい。


 極まっていくというのはそういうものなのだろう。

 モンタナたちは、ともにどこかを目指して走り続けている仲間がいるだけ、まだ孤独ではないのが救いか。


 明日の農作業に備えて、ぽつりぽつりと男性たちが帰っていっても、モンタナは一人尻尾を揺らしながら作戦を立てている。

 視線を左へと移すとレジーナが、入念に焼いて皮が黒くなり始めた魚に、頭からかぶりついていた。

 腹は一応初めから割いてあったから、内臓辺りは川で洗ってきているのだろう。

 骨とかはあまり気にしていないらしく、バリバリと食べすすめている。

 最後に残った棒を火の中に投げ入れると、レジーナは立ち上がって欠伸をしながら部屋へと戻っていった。

 動いて食べて寝る。

 かなり野性的だが効率は良さそうだ。


 人が減ってきたのを見計らっていたのか、エニシが目を閉じたまま口を開く。


「ハルカ、出立はいつ頃になるのだ?」

「そうですねぇ……。数日中には。それなりに時間がたってしまいましたし、〈ノーマーシー〉に残してきた、行成さんの部下たちのことも気がかりです。明日あたりに、行成さんの気持ちを聞いてみます」

「そうか。ハルカのことだから、きっとうまくやってくれるのだろうな」


 ハルカは反射的に謙遜しようとしたが、ふとエニシの横顔を見て言葉を飲み込んだ。

 〈北禅国〉の奪還は、エニシにとっても故郷へ戻るための布石である。

 わざわざ心配をさせる必要はない。頼られているのだから、期待を背負って頑張ってくるのも自分の役割かと、イヤーカフを指先で撫でる。

 頼りになる味方もいるのだ。

 なんとかなるだろう。


「……そうですね。良い報告を待っていてください」

「すまぬな、頼む」


 何もできないこと。負担ばかりかけていること。

 エニシには言いたいことが山ほどあったが、言ったって意味がないことを知っているから、一言だけに気持ちをいっぱい込めてハルカに伝えた。


「任せてください。私、【神龍国朧】の美味しい食事も食べてみたかったんです」

「……おお、色々とうまくいったあかつきには山ほど一緒に食べよう」


 珍しくユーモラスな返しをしたハルカに、エニシは少しだけ動揺し、それからにっこりと笑う。

 いつも通りのハルカの優しさが、くすぐったくて嬉しかった。


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1級まではグーチョキパーの相性で、 特級は最強のグーで全てをぶち破る感じか。 わかりやすい
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